*Love Game Side-Rei







まだ薄暗い道を一人ポケットに手を突っ込み、ぶらぶらと歩きながらふと先ほどの彼女の言葉を思い出す。



――――あたしとあなた…どっちが先に相手を堕とせるかって言うゲームしない?



……さすが。他の女とは発想が違うな。

大抵の女は「遊び」が終わったあと、甘えるような声で俺にすがりついてくる…
「体だけの関係でもいいからまた会いたい」と言って。

俺がどんな男で女に対してどういう感情を持ってるかなど、気にもせずに自分の快楽だけを求めてすがりついてくる。

勝手に俺の人物像を造り上げて。



だから嫌いなんだ…女っていう生き物は。



いつだって自分本位で、いい男を見ればほいほい尻尾を振ってバカみたいに擦り寄っていく。

そう…母親(あいつ)のように…所詮は男の心を弄んでいいように転がすだけの生き物。

それに翻弄される親父みたいな男にも虫唾が走る。

バカな女をバカみたいに信じて追い続けていた男。

愛を誓って家庭を築いて、いざ生活をしてみれば行く末がこれだよ。



俺が小学生の頃に母親(あいつ)が他に男を作って家を出て行った。

それまでにも多々あったんだ…アイツが男を作ってイザコザになる事が。

それでも、今度もいつかアイツが帰ってくるだろうと信じて待ち続け、自営業を営んでいた親父は仕事にも身が入らずに経営が悪化し、資金の工面もままならずに自己破産の末、蒸発した。

当然、母親が帰って来るわけもなく、親父も姿を晦ましたまま未だに消息が掴めない…生きているのかどうかさえも定かではない。

残された俺は父方の祖母に引き取られ、今まで育ててもらってきた。

俺が唯一心を開ける人物…俺の本当の姿を知る唯一のその人に。

いや…正確に言えば中学生までの本当の俺を知る人物、だな。

心は開けるけれど、祖母を心配させまいと祖母の前でも薄い仮面を被っているから…。



育ってきた境遇からか、女に対して愛情と言う感情を抱くことなく、性欲処理以外に興味が無かった俺は、コンパの席ではまず最初にそこそこいい女の中でも「軽そうな女」を何人かピックアップして目を付ける。

そして、のっけからその女に行くのではなく、周りの奴らから情報を集めてターゲットを絞る。

彼氏がいるかどうか、遊びに乗ってくるような奴かどうか…など。

今回もそのつもりだった。

適当に軽そうな奴を選んで、適当に遊んで一晩を過ごすつもりで。

だけど、顔合わせそうそう一番に目に飛び込んで来たのが彼女…桜田唯だった。

茶色く染まった肩の下まで伸びたサラサラのストレートヘア。

パッチリとした二重の大きな茶色い瞳。

スッと筋の通った形の良い鼻に、形の良い薄い唇。

タバコを持つ綺麗な指先。

抱きしめたら折れてしまいそうなくらい華奢な体…でも女としての武器はちゃんと備わっていて。

透けてしまいそうな程の白い肌。

女にしては、背もそこそこあるだろうか…。

俺は彼女を見た瞬間に決めた。



――――今日のターゲットはあの女だな。




普通のヤツならその彼女の群を抜いた美貌に惹かれるだろう。

けど、俺は少し違った。

視線を釘付けにするほどのオーラと、それを寄せ付けまいとするオーラ。

その中に垣間見える影の部分。

誰に対しても無関心な俺にしては珍しく、その影の部分に惹かれた。

そう、「好意」ではなく「興味」として。

俺は自分の連れに、「今日は俺、アレね」と目配せをしてヤツ等を諦めさせてから、いつものように友人達からターゲット(彼女)の事を聞きだす。



「ねぇ。ボク、あのおねーさん気に入っちゃったんだけど…彼氏とかいるのかな?」

「嘘ぉ。あなた唯狙いなの?あたしあなたを狙ってたのにぃ。他の子もそうよ?あなた狙いの子が結構いるのに、どうして唯なの?」

「ごめんね。ボクはあのおねーさんが気に入ったから。ねぇ、色々教えてよ」



アルコールのまわった彼女達は、俺が唯狙いだと言う事に不服を述べながらも色々教えてくれた。

そこで合点が行く。

何故俺が彼女の影の部分に興味を持ったのか…。



彼女は俺とよく似た生い立ちで、内に秘めているものがよく似ているからだ、と。



唯の両親は彼女が中学生の頃に父親の方が若い女に溺れて家庭を顧みなくなり、それに狂気した母親は、自分も負けじと唯を見捨てて男を食い漁っているらしい。

両親共が唯を見捨てて自分の欲だけを追い求め、彼女の生活はそこで一変した。

中学の頃は元気でよく笑い冗談も言う子だったらしいけど、その一件以来彼女は芯から笑わなくなり、どこか影を持った雰囲気に変わったそうだ。

そりゃそうだろう…両親に見捨てられ、14.5歳でたった一人で生きて行かなきゃならなくなったのだから。

唯は家族で暮らしていた家に父親からの仕送りで高校までを過ごし、就職してからは親子の縁を切って一人で生活をしているらしい。

誰にも心を開かず、誰も愛さず、たった一人で生きてきた唯。

俺とそっくりだ、と思った。

いや、唯一俺には信頼できる人が一人いるだけでも救いかもしれないけれど…。



唯の友達はそこまで話した後、アルコールの入ったグラスを煽る。



「だから、唯を気に入っても惚れちゃダメよ?どうせ相手にされないんだから。あの子はね、誰も好きにならないのよ。愛なんて感情を持ち合わせていないの。その時自分がどれだけ楽しめるかって事だけ」



……惚れる?

この俺が誰かに惚れるわけないだろ。

彼女こそ「遊び」にはうってつけの相手じゃないか。

俺も彼女も「愛」なんてものは求めていない…その場が楽しければと言う考えの持ち主。

いつもは快楽を得る為に、そこそこのご機嫌取りや気持ちがあるかのように匂わせてヤらなきゃならないところが、それをしなくていいなんて。

しかも、相当遊んでるみたいだし。

今日は後腐れなく、思いっきりぶち込めそうだな。


そう思うと自然と自分の口元が上がった。



←back top next→


腹黒ですか…(笑) by神楽