*Love Game Side-Rei





………ムカツク。

唯のあの勝ち誇ったかのような態度も、俺の様子を楽しんでいるようなツラも。

逃げるだと?素の自分で真っ向から勝負してこいだと?

知った風な口を利きやがって…俺がいつ逃げたよ。

どんな話し方をしようがどんな仮面を被ろうが俺自身に変わりはねえだろうが。

ちょっと元来の話し方にしただけで、してやったかのようにほくそえみやがった唯。



調子に乗ってんじゃねえぞ。



あのあと、あの勢いですぐにでも唯を嫌というほど啼かせてやりたかったけど、タイミング悪く試験期間と重なってしまって。

この辺りでは有名な進学校に通っている俺は、トップの位置を保つためにはそこそこ勉強もしなければならなかった。



なんだってやるからにはトップに立たなきゃ意味がねーじゃん?

負けず嫌いだし、俺。



夜の街を徘徊することもできず、フラストレーションが溜まる中、更にそれに追い討ちをかけるようにヤツが俺の前に姿を見せる。

あれから唯はなにかにつけて俺の家に来るようになっていた。

いや…正しくは、ばーちゃんが唯を呼べと何度も俺に言ってくるからだけど。

ばーちゃんはどうも俺と同じ境遇にいると知った唯を放っておけないらしく、携帯での俺の超無愛想な誘いにも関わらず、図々しくも家にやってくる唯を嬉しそうに招きいれていた。

あいつのことだ、これをいい機会にばーちゃんから色々情報を入手しようと思っての受け入れだろう。

俺もそんなものウヤムヤに断ればいいものを、どうしてもばーちゃんに言われるとダメだと言えないこの弱さ。



ったく…俺自身にもムカつくっての。



唯は俺の家に来ては晩飯を食い、ついでのようにいつも部屋に寄って帰りやがる。

そう…この家では俺が何もしないのをいい事に、散々俺の身体を弄り倒して。

時には甘えるように、時には挑戦的に、色んな表情(かお)を見せて俺を煽ろうとする。

そんなもの作戦のうちだと頭ではわかっているけど、正直体がそろそろ…。

俺だって健全な男なんだから、そういったフラストレーションも必然と溜まるだろ?

だけど、こういう時に限ってコンパの話もなければ、街に引っ掛けに行く時間もなかったりする。

妖艶な笑みを浮かべて俺を煽ってくる唯を押し倒してぶち込めれば…と、何度思ったか。

唯のマンションに出向いて、ってのも浮かんだけど、それは俺のプライドが許さなかった。



俺の方が切羽詰まってるみてえじゃねーか。って。



いつだって俺が優位に立ってなきゃ勝負してる意味がねぇんだよ。

唯に素性を知られてしまった今、先手を打って翻弄させる術(すべ)もヤツには効かない。

だから余裕をかますのに必死だった。

弱みを見せればそこに付け入られるのは目に見えてるからな。

どんな形にせよ、唯に上に立たれるのは許されないこと。

セックスにせよ、ポテンシャルにせよ、全てにおいて…



――――次に機会があった時は、マジで覚えてろよ…唯



それから暫くして、久々に持ち上がったコンパに来ていた俺。

いつものように連れがセッティングした場所とメンツで、今日はどれにしようか。などと目の前に座る女を品定めしながら、ふと飛ばした先に見知った顔が視界に映る。



…唯?



同様に向こうも俺に気付いたようで、一瞬ギョッとした表情を見せる。

俺らが座る席よりも、少し奥の席にいる男女混じったそのグループ。

唯の隣りにはあのコンパで見た女とは別の顔が4つ。

そしてその前にはニヤニヤとしたいやらしい笑みを浮かべたヤローの顔が5つ。



………なるほどね。

そっちも男アサリってワケか。

唯が俺を煽るつもりで身体を弄くり倒しても、俺は絶対に手を出すことはしなかった。

まあ、少しの刺激はしてやったけどな?

その少しの刺激のおかげで俺を煽るつもりが、逆に自分に火をつけちまってどうすることも出来ずに男アサリ?

………笑える。

そんな中途半端な男で紛らわすより、自分で慰めてた方が幾分かマシだぞ、唯。



そういった意味合いを含めて目を細めると、なによ。とでも言いたそうな唯の表情が返ってくる。

俺はその唯からヤローの一人一人の顔を確かめるように視線を流し、フッと鼻から笑いが漏れる。



そこそこの色男が揃ってっぽいけど…ハズレだな。



外見をどれだけお洒落に着飾ってみても、そいつの持ってるポテンシャルは仕草などから大体計り知ることができる。

唯の前にデレデレとしたしまりのないツラをさらけ出しているやつらはそろいも揃って大したことはない。

ただ、少しばかり顔がいいっていう程度。

今日はその中のどいつを手玉に取るんだ?などと思っている自分の中に、全く別のモノが湧き上がってきている事に気付く。

先ほどまで平常心だった俺。

目の前に座る女たちには無関心でも、どいつだったらぶち込めそうかと欲望のはけ口の為の品定めをしていた俺。

だけど急激に腹の中がザワザワと激しく動きはじめる。


…なんかしんねえけど、この場にいんのがすげーウザくなってきた。


「ねえねえ、玲…クン…だっけ?どうしたの、さっきから何も喋らないけど…具合でも悪い?」

どうやら知らないうちに席替えをしたらしく、俺の隣りに座った女が身を寄せるように顔を覗いてくる。



うぜぇ…顔近づけてくんじゃねーよ。



そう心の中で思いつつ、表立ってはにこやかに笑みを作って見せる。

「ん?そんなことないよ。おねーさんが綺麗すぎるから、ちょっと緊張しちゃって」

「やっだぁ、もう玲君でば。なに言ってるのよぉ。うふふっ。でも、玲君みたいな子に言われると、ちょっと嬉しいかも」

言われて当然だと表情に表しつつ、少し演技をしながら更に擦り寄ってくるこの女。



………バカじゃねえの?



女は余程自分に自信があるのか、露出度の高い胸の谷間丸見えの服を身に纏い、香水の香りをプンプンと匂わせて俺に擦り寄り上目遣いで見つめてくる。

そして俺の服の袖をちょんちょんと軽く引っ張って、耳を貸せというように顔を近づけてきた。


「ねえ…よかったらこのあとどう?」


正直、コイツの誘いに乗るつもりはなかった。

雰囲気的に抱いても楽しくなさそうだったし、一つ間違えれば付きまとわれそうな厄介な相手のようにも思えたから。

だけど、一瞬にして組み替えられた俺の中のデータ。

女に引っ張られて耳を寄せるような姿勢になったときに、ちょうど視界に映った唯の姿。

俺はその唯の一瞬の表情を見逃さなかった。

途端に、ニヤリとあがる俺の口角。



そうだな…こういう攻め方もアリだよな。



俺は唯の存在を意識しつつ、徐に隣りに座る女の腰に手をまわし、自らそっとそいつの耳元に顔を寄せる。


「このあとのお楽しみは、もうちょっと話して仲良くなったらね?」


俺のその言葉に満足そうに微笑み、了解。とまた俺の耳元に囁き返す女を尻目に、視線を唯の方へと飛ばす。

ヤツは意識的にこっちを見ないようにしているようだけど……



唯…見逃さなかったぜ?お前の表情。

一瞬だけでも、俺が女と仲良くしている様(さま)が気に食わねえって思ったよな。

女ってのは彼氏に限らず自分の知っている男が自分を差し置いて他の女と仲良くするのは好まないはず。

ましてや、プライドの高い唯にとっては余計に気に食わないところだろ。

身体の関係があって、自分が堕とせると思い込んでいる男が他の女と仲良さそうに囁きあってるんだからな。



今のこの状況、面白くねえだろ…唯?



唯の出方を色々想定している俺は、先ほどの気分から一転して、この場をおおいに楽しみ出していた。



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