*Love Game





もうそろそろばーちゃんは寝る時間だから。と、自分の部屋に戻っていくおばあさんを見届けてから、あたしは玲の部屋に向かう。

台所の続きになっている隣の部屋がおばあさんの部屋。

そして、台所を出て短い廊下の突き当たり…そこが玲の部屋らしい。

トレーナーになんてすぐに着替えられるのに、どうして出てこなかったのかと不思議に思いながらも、玲の部屋のノブをまわし勝手に中に入る。

部屋の中ではラフな格好に着替えた玲が壁に背中を預けた格好で、ベッドの上に足を投げ出して座っていた。


こういう何気ない格好もサマになってるからムカツクわよね。

……なんとなくだけど。


4畳半ほどの少し狭めの彼の部屋はごくごくシンプルで、必要なもの以外おかれていないんじゃないかと思えるくらいにスッキリと綺麗に片付けられている。


って言うか…何も無い。

ベッドに勉強机、それと本棚だけ。

着替えなどはそこの押入れに片付けられているとしても、あまりにもモノがなさすぎる。今時の高校生なら必ず持っているであろう、コンポやテレビもなく雑誌なども見当たらない。

必要最低限揃えられた部屋。

飾ることは必要なく、ただ安らげる場所であればいい空間。

まるでここはそう…あたしと同じで寝るためだけの部屋であるかのように。

なによ…人の部屋をなんにもないとか言っておきながら、自分の部屋こそ何にもないじゃない。


あたしは、ふ〜ん。と思いながら部屋を一通り見渡し、最後に視線を玲に向ける。

すると彼は少し鼻先で笑ってみせると、近くにあった眼鏡を拭きながら呟く。


「あーあ、ばーちゃんにバラされた」

「なによ…盗み聞きしてたわけ?いい趣味してるわね」

「こんな小さな家だからね、どこにいたって聞こえるよ。はぁ…突発的だったにしろここに唯をつれてきたのは間違いだったね…一つ持ち駒が減った」


それはあたしにとって大きな収穫だったけど?


「どうしてあたしの言動が手に取るようにわかるのか不思議で仕方なかった。けど、ようやくあんたの行動に合点がいったわ……同じ類(たぐい)の人間だったってわけね」

「だから言ったでしょ?ボクは誰にも惚れないし、靡かないって…唯とボクは同じ類の人間…似たもの同士って事だね。だから、いつまで経っても唯とボクは平行線のまま近づく事はない。どう?これでもまだゲームを続ける気?」

玲の口の端にあの笑みが浮かぶのを見ながら、同じようにあたしの口の端がクスっと上がる。

「そうかしら。あんたとあたしは似ているだけで同じじゃないわ…決定的に違うものが一つだけある」

「へぇ。決定的に違うもの?なにそれ」



「あんたは愛される喜びを知ってる」



あたしのその言葉に、一瞬だけ玲の顔から笑みが消える。

でもそれはホンの一瞬で、再びあの不敵な笑みを作ると、なにそれ。と小さくクスクス。と笑う。

「玲はあたしと同じように両親から愛されずに生きてきたのよね。でも、両親からの愛情は受け取れなかったけど、おばあちゃんからの愛情は一身に受け取ってるはずよ?愛される喜びを知っているのなら、愛する幸せも理解できるはず。誰にも必要とされず一人で生きてきたあたしには理解出来ないことだわ。このゲーム、あたしの勝ちね…玲が堕ちるのも時間の問題。今のうちに降参したら?」

「はんっ。まさか…降参なんてするわけがないでしょう?ボクは負けることが嫌いなんだよね、女になんて特にさ。唯がこのゲームをまだ続けるというなら、続けてあげてもいいよ?その間ボクは無駄な努力をしなくてもその身体を抱けるわけだからね」

「そう?傷が深くならないうちに降参した方が身のためだと思うけど」

「そのままそっくり唯に返してあげるよ。愛する事を知らない唯がそれに目覚めたとき、奈落の底に落とされるのは相当な痛手だと思うよ?また泣いちゃうかもね」

拭き終わった眼鏡をベッドボードに置いて、おかしそうに笑いながらベッドから立ち上がる玲を視線で追う。

「ねえ…そろそろその気持ち悪い喋り方やめなさいよ。ホントのあんたはそんなんじゃないんでしょ?その上っ面だけの仮面を脱いで真っ向から勝負してきたら?それともなにかしら…仮面を外すのが怖い?」

「あはははっ!怖いって?何が怖いの?そんなわけないじゃん。どんな話し方をしようがどんな仮面を被っていようが、ボクはボクのままだからね」

「逃げる気?」

あたしの発したその言葉に少しカチンときたようで、玲はスッと顔から笑みを下げる。

「逃げる?」

「逃げてるじゃない。色んな仮面を被って素の自分を隠して。そんなに素の自分に触れられるのが怖い?素の自分をさらけ出すのが怖…やっ…んっ!?」

あたしの言葉を聞き終わらないうちに、玲は距離を縮めてくるとそのまま体であたしの体を壁に押し付け、同時に、グッと親指の腹をあたしの唇に押し付けてくる。


な…なに…


「ったく…うるせえ口。このまま塞いでやろうか?」

そう言って、この上なく極上の妖艶な笑みを浮かべると、半分あたしの口の中に入っている自分の親指の背に舌を這わす。

このあたしでも、ドキンと胸の鼓動が打ちそうなほど色っぽいその仕草。

思わず呑み込まれそうになる自分に叱咤して気持ちを立て直すと、今しがた玲の舌が這った彼の指に自分も同じように舌で辿りながら咥えると、一旦付け根まで口に含み舌先で弄びながら唇を離す。

「やっと現したわね」

「喋り方が変わったくらいで俺の全てを知ったなんて思うなよ?」

「クスクス。分かってるわよそんなこと…で。塞ぐの?塞がないの?」

少し動かせば重なってしまうほど近い距離にあるお互いの顔。

あたしは挑発的に玲の首の後ろに腕をまわし、妖艶な笑みを浮かべて見せる。

すると、彼の方も挑戦的に、声のトーンは変えずにワザと言葉を変えてきた。

「塞いで欲しい?おねーさん?」

「そっちが塞ぎたいんじゃないの?ボーヤ」

「唯の場合、下の方で塞いだほうが喜びそうだよな。ウマそうに俺のを咥えてたもんな」

「あら、言ってくれるじゃない。そういう玲こそあたしの身体のあまりのよさに、あの日はずっと勃ちっぱなしだったじゃない」

あたしは玲と視線を外さないまま、片手をそっと彼のトレーナーのズボンの中に滑り込ませ、下腹を指先で撫でながら進み、膨らみはじめている彼自身をクィっと握る。


こういう攻めってあたし、好きよ?


「クスクス。もうこんなに勃ってる…あたしの身体を思い出して興奮してきた?」

ゆっくり扱(しご)くように手を動かし、指先でスジを刺激する。

掌の中でみるみるうちに彼自身に力が漲り、はちきれんばかりに存在が大きくなる。

そんな事に一ミリの動揺も見せず、相変わらず玲はあたしとの視線を逸らさぬまま、真っ黒な髪を色っぽくかきあげて艶っぽい表情でフッと笑う。

「そういう勝気な部分、好きだぜ?確かに身体に関しては認めてやるよ…俺の抱いてきた女の中で群を抜いた身体だってな」

「そう?それは素直に喜んであげる。一度あたしの身体を味わったら、他の女なんてもう抱けないでしょ」

「それはどうだろ?男ってのは溜まったモンを吐き出せりゃそれなりの快楽は楽しめるからな。俺が一声かければ股を簡単に開くバカな女は腐るほどいる。だから、別に唯じゃなくても楽しめるぜ?俺は。それより、テクのない早漏ヤローに芝居までしてヤられてる唯が可愛そうになってくるよ」

「……どういう意味よ、それ」

「もう、俺じゃなきゃ満足できねえだろ?」

含み笑いの混じった声。

耳元に熱い息を吹きかけられながら囁かれて、思わず肌がゾワっと震える。

「身体からじっくり犯していってやるよ。俺の中毒になるほどじんわりとな…捨てられたあと、耐えられないぜ?どんな男に突かれても満足できねんだからな」

「随分な自信だわね。そんなものにあたしが溺れるとでも思ってんの?」

「クスクス。あぁ、思ってるね。そういう攻め方もアリだろ?その方が俺もオイシイ思いが出来て一石二鳥だしな」

「珍しいじゃない?手の内を自らあかすなんて」

「可愛そうだからな、いつも後手をいく唯が。たまには教えといてやるよ」

そう言って、小憎たらしく鼻先で笑う玲。


……やっぱり、基本はムカつくクソガキだわ。

だけど今のこの時点では、もうその理性を保ってられるのも時間の問題ね。

あたしの手の中のあなた自身が悲鳴をあげそうなほど張り詰めてるわよ?

頭の中ではウズウズしてるんじゃない?玲。


「ねぇ、そろそろ理性も限界なんじゃない?今にも弾けそうよ。どうする?ボーヤ。ここであたしを犯す?」

「おあいにくさま。触れられただけでコントロールが利かなくなるほど純じゃないんでね。今ここではヤらねえよ」

「へぇー。とってもいい子なのね、玲君は。おばあちゃんの寝ている家じゃヨコシマなことはしないってわけだ…んっ…」

彼自身を指先と掌で弄ったまま、そう言ってクスクスと笑うと、玲は徐に首筋に唇を這わせ、そのまま耳元までやってくるとクッと歯を立てて耳朶を噛む。

そして再び熱い息を吹きかけながら、色っぽく掠れた声で囁いてくる。


「覚えてろよ、唯。次に会ったときには思いっきりお前の中にぶち込んでやるから」



←back top next→