*Love Game Side-Rei





何とも言えない腹の底から湧き上がってくるいいようの無い黒い塊。

俺は唯の腕を引っ張りながら、イライラとした感情を持て余しながら終始無言で歩き続ける。

あんな図体だけがでかい男なんて負ける気がしなかった。

見るからに虚勢だけを張って、顔が少しばかりいいからと粋がってるようなヤツに…。

今でこそ「優等生」と言う仮面を被っているけれど、中坊の頃は相当荒れていたからそれなりにそういう場面には慣れている。

いつものように、一発ぶん殴ればすぐに事は済んだハズ。

だけど、アイツの『ガキのクセに』と言うような蔑んだ視線が許せなかった。

それよりも何よりも俺の中に蠢く黒い塊がそれを許さなかった。



なんで俺はこんなにもムカついてんだよっ!

なんで俺は唯なんか助けたんだ…



自問したところで、答えなんて見つかるハズもない。

このワケの分からない感情をどこにぶつけていいのかも分からない。

自分はなんでこんな事をして、こんな気持ちになってるのか…



そう…こんな気分になったのは、唯と男が一緒にいる姿を見てからだ。

微かに聞こえる話の端々から、あの男が唯と関係があった事は分かった。

そして、唯に言い寄っている事も。

だから何だってんだ?俺には全く関係のない事だろう?

いつもなら、気付いたとしても素通りするハズの場面に、事もあろうか自分からあの中に割って入っただなんて。

これじゃあ、まるで俺がその男に嫉妬心を抱いているみたいじゃないか……?



………まさか。

はんっ。そんな事あり得るわけがねえ。

あって堪るかそんな事。



俺は自嘲気味に小さく笑みを漏らし、人気のないビルとビルとの合間の少し奥まった空き地で足を止める。



唯が後先考えずに男を惑わせるような事をするからこんな事になるんだ。

まさしく自業自得ってヤツだ。

女なんて所詮はこうして、男を惑わせながらのうのうと生きてる生き物。

今まで散々見てきただろう?

そうだよ…

こんなにもイライラとした気分になるのは、ずっと見てきた母親(アイツ)の姿と重なったからなんだ。

そうだ…だから、俺はこんなにも…

そう自分に言い聞かせ、気持ちを落ち着かせるのに随分と時間を費やした。



唯を助けた事に関しては、ただ気が向いたから。というこじつけた理由で敢えて深く考えずに……



でも、この件で俺をかき乱してくれた事には変わりない。

このまま何事もなく、素直に帰してやるつもりなど毛頭ない。

だから俺は唯の一番嫌うプライドを揺さぶる事にした。



「『ありがとうございました』って、頭下げてよ」



案の定、唯は眉間にシワを思いっきり寄せて、ぷいっとそっぽを向く。



そう来ると思った。

想像通りの唯の態度に、思わず笑いが込み上げてきそうになる。

こういう所、ガキみてえ…って。

俺は口の端を上げたまま、更に言葉を続ける。



「助けてあげたんだから、それぐらいの事はしてもらわなくちゃ?だよねぇ。ほら、折角人通りの少ない場所まで連れてきてあげたんだからさ、誰にも見られる心配はないよ?」

「なっ?!…見られてなくてもイヤなものはイ・ヤ・よ!」

「ふぅん。ボクよりも6・つ・も年上の大人のクセに、『ありがとう』の一言も言えないんだ?」

「あんたねぇ〜〜〜!!」



そんな唯とのやり取りに、いつの間にか自分の気分が晴れて来ている事に気付く。

まただ…コイツと関わると、何故か俺本来の姿じゃなくなる気がする。

唯が自信があると提案してきたあの恋愛ゲームも、俺にはその上を行く勝算があったから引き受けたようなもの。

そう、それは俺は誰にも靡かないし、心を開かないから…。

だけど何故唯を前にすると、こんなにも自分の感情の起伏が激しくなるんだ。



人が羨むようないい女。

セックスの相性がこの上なくいい女。

男をたぶらかして、いい気になってるクソ生意気な女。

その女を掌の上で転がして、その極上の身体を弄ぶだけ弄んで、鼻で笑ってやろうと思っていたのに…

いつの間にか俺が転がされてるとでも言うのか?

冗談じゃねぇ。

それこそ、俺のプライドが許さない…女にいいように弄ばれるだなんて。



唯は気持ちのスイッチを切り替えたのか、突然俺の首に腕をまわして妖艶な笑みを浮かべてくる。



「…さっきはありがとう。すごく助かったわ…お礼にご飯でもどう?美味しいお店があるの…ご馳走してあげるわ」



俺の動物的勘がそうさせたのか、唯のその笑みが自分の視界に映らないように、遮断するように軽く目を閉じる。

コイツのこの笑みを見てはいけないような気がしたから…。


だけど…


ふぅん…こういう風にスイッチを切り替えてきたわけだ。

さすが。とでも言っておこうか。

俺は瞳を軽く閉じながら、瞬時に頭の中のデータを作り変えて気持ちの切り替えをすると、ニヤリとした笑みを口の端に浮かべる。



「やれば出来るじゃん」



そう…冷静に、いつもの俺でいればどうって事はない。

唯が頑張れば頑張るだけの間、その身体を堪能できるワケだから?

俺にとって「女」と言う生き物は、性欲処理以外の何者でもない…そうだろう?



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