*Love Game





「あ、あなた一体何考えてんの?!ナイフなんて持ち歩いてっ!!一つ間違えたら大変な事になってたのよ?ねぇ…玲ってば!!」


あたしは玲に腕を引かれながら歩き、先ほどの状況の事を問い詰める。

まだ高校生のクセにナイフなんて持ち歩いて…それこそ正気の沙汰じゃない。

ううん。高校生じゃなくてもそんなモノを持ち歩くのなんて…

いくらこのご時世とはいえ…本当に護身用に持ち歩いていいものじゃない。



しかも、あの時の玲の表情。

思い出すだけでも、ゾッと背筋に冷たい物が走る。

まるで、本気で刺しかねないあの冷たく貫くような眼差し。

人が変わったかのように思えた…。



あたしの問いかけに対し、玲は暫く無言のまま歩き、随分と歩いて人通りが少なくなった奥ばった場所で足を止めて、あたしが知っているいつもの表情(かお)で振り向く。



「クスクス。何マジになってるの?」

「なっ…何笑ってんのよ。ナイフなんて持ち歩くなんて間違ってるって言ってるの!あなた…犯罪者になりたいわけ?あの時、アイツが少しでも動いてたら…警察沙汰になってたかもしれないのよ?」

「まあね。これが本物のナイフだったらね?」

「………へ」


玲は徐にポケットに手を突っ込み、あるものを取り出してあたしの目の前で揺らして見せる。

自分の目の前に揺れる銀色をしたそれ。




……………え、鍵?




玲は幾つかの鍵の中でも少し長めの鍵を手に取り、口の端を上げて含み笑いをする。



「まさか、こんなに上手く行くとは思ってなかったけどね。漫画か何かで同じような状況があったんだよ。緊迫した状況の中で、突然押し倒されて首筋に固く冷たい物が当たった時の反応がね。それを思い出して実践してみた…ってワケ」

「あ…なた…」



まさか…演技だったとでも言うの?

なに…コイツ



「ボクは一度もナイフだなんて言ってないよね?向こうが勝手にそう思い込んだ…で、それに追い討ちをかけるように、ちょこっと言葉にするだけで更にヤツは思い込む。小さな鍵もナイフに早代わりってね?」



あの僅かな間にそんな事を考えてたの?

信じられない…コイツ本当に高校生?



「まあ。別にこんなモノを使わなくてもぶちのめせたケド…あの言い方が気に食わなかったからさ。ちょっと脅してやったんだよ」

「信じられない…あなた、何者?」

「あははっ!別に、何者でもないけど?ねぇ…それより、何か忘れてない?」

「……は?」



突然意地悪い笑みを浮かべてあたしの顔を覗きこんでくる玲。

彼の言わんとする事が分かったけれど、敢えてとぼけてみせる。



「助けてあげたんだけど?」

「誰も助けてだなんて頼んでないわよ…」

「あぁ、そういう事言うんだ?ふぅん…別にもう一度アイツのところへ差し出してあげてもいいけどね?」

「……分かったわよ。何が望み?」



仕方ない…今回の件に関しては、不本意だけれど助かった事は確かだから…。



あたしは一つため息を漏らして、玲を見上げる。

すると玲は蔑むような視線を向けてから、いやらしく口元を上げると一言…




「『ありがとうございました』って、頭下げてよ」



はぁぁぁ?!!

何言っちゃってくれてんのかしら、コイツ。

あたしに…このあたしに高校生に向かって頭を下げろだって?

じょーだんじゃないわよ、どうして頭まで下げなくちゃいけないわけ??

そんなの、あたしのプライドが許さない。



あたしはニヤリとした笑みを見せる玲を睨みつけると、ふん。と、そっぽを向く。



「どうしてあたしが玲に頭まで下げなきゃいけないわけ?そんなのあたしのっ…」

「プライドが許さないよねぇ?人に頭を下げるだなんてさ…ましてや高校生のボーヤになんて」



ムカツク…それを知っててワザとコイツは…



「助けてあげたんだから、それぐらいの事はしてもらわなくちゃ?だよねぇ。ほら、折角人通りの少ない場所まで連れてきてあげたんだからさ、誰にも見られる心配はないよ?」

「なっ?!…見られてなくてもイヤなものはイ・ヤ・よ!」

「ふぅん。ボクよりも6・つ・も年上の大人のクセに、『ありがとう』の一言も言えないんだ?」

「あんたねぇ〜〜〜!!」



イヤミったらしく、歳の事をワザと強調するかのように言ってくる玲に対して、血管がぶち切れそうになる。



……はっ?!

ダメよ、このノリ。

こうやってイチイチ反応するから、ヤツにいいように扱われちゃうのよ。

そうよ…ここは大人の風格を出して…

そう、今この時もゲームの真っ最中なんだから?

色んなあたしを見せて男心をくすぶってあげるわ…ありがたく思いなさいよね。



あたしは一つ荒っぽく息を吐き出してから、スッと気持ちを切り替えて玲の首に腕をまわして妖艶な笑みを浮かべる。



「そうね、助けてもらったんだからお礼ぐらい言うべきよね。さっきはありがとう。すごく助かったわ…お礼にご飯でもどう?美味しいお店があるの…ご馳走してあげるわ」



あたしのその態度に、玲は軽く目を瞑って口元をニヤリと上げてから一言。




「やれば出来るじゃん」




………クソ生意気なガキ



←back top next→