*Love Game





納得がいかない…。


どうして、このあたしが玲のような高校生に翻弄されなければならないのか。

あたしは今まで男を思うがままに動かしてきたのよ?

こう言えば、こう返してくるだろう…とか。

あぁ、コイツはこういう事を望んでいるんだろうな…とか。

そう…相手の言動が手に取るように分かったから。



けど、今のあたしは何?

尽く先手を打たれ、気付けば玲(ヤツ)の思うがままに動かされてる。

初めて身体を重ねた時も、この間の車中でも。

こんなのあたしらしくないじゃない?

頭の中じゃいつもアイツの事ばかりを考えてるし…

おかしいわよ、絶対!!

大人の女の威厳はどうしたのよ……



大人の……



そうよ。

あたしが玲の言う事にイチイチ反応をしてしまうから、自分のペースが乱されるのよ。

もっと大人らしく、冷静に相手の動向を見ればそれなりの対処法だって見出せるハズ。

あたしったら…こんな初歩的な事を忘れてるだなんて。

まったく…あたしらしくないわよね。

そうよ、何があっても最後に笑うのはあたしなんだから…



けど…どうして玲はこんなにも的確にあたしの言動を読み取れるのかしら。

いくら事前に情報収集してたからと言っても、あたしの内心までは読み取れないハズ…なのに。

まるで自分の事のように、あたしを見ている玲。



――――ホント…唯ってボクと似てるよ



あれはどういう意味なのかしら…。

って…またあたしは玲の事を考えてる!!

もう、何なのよぉ。



会社帰り、あたしは持参金が心もとない事を思い出し、最寄のATMでお金を引き出そうと街を歩き、ずっと玲の事ばかりを考えていた事に気付く。

あたしがその存在を頭から振り払うかのように、頭を振った時だった、



「あれ?唯…ちゃん?」



聞き覚えのない声で自分の名前を呼ばれ、何の気なしに振り返り俄かに眉間にシワが寄る。



……コイツ。



「あ、やっぱり唯ちゃんじゃん。久し振り〜♪元気だった?」


声の主はさも親しげに、その締まりの無い顔をあたしに向けて、近づいてくる。


「あぁ…誰だっけ」

「酷いなぁ…タケシだよ、タケシ。忘れちゃった?あの夜はあんなに激しく燃えたのに」


視線すらも合わせずに素気無く返事を返しても、臆することなく話しかけてくるこの男。

半分以上忘れ去っていた存在なので、タケシだと言われてもピンと来ない。

でも、確かに過去に一度だけ「遊んだ」事がある相手だ。

セックスしただけで、もう自分の女になると勝手に決めつけ、しつこく言い寄って来たウザイヤツ。

顔がまあまあだったから遊んであげたけど、ちっとも気持ちよくなくてゲンナリした相手。

暫く顔を見ないから、もう諦めたと思ってたけど。

こんな所で会うなんて…今日はツイてないかも。



「悪いけど全然覚えてないわ。あたし、用事があるから…」



そう言って、彼の横を通り過ぎようと歩きかけた所でグイッと腕をつかまれる。


…っとに、ウザイ!


「おっと。折角再会できたんだからさー…ご飯でも食べに行こうよ。で、そのあとは俺とイイ事しようぜ?」

「お断り!一回抱けたからって勘違いしないでよね。あたしは2度も同じ相手と寝ないのよっ。用事があるって言ったでしょ?手を離して」

「イヤだね。今度この手を離したら、もう2度と掴まえられないかもしれないだろ。俺さー、やっぱり唯ちゃんの事忘れらんないんだよ…なぁ、体だけの付き合いでもいいから、続けようよ」

「バカにしないでよ!体だけの付き合いなんてお断りよ。そんなに安っぽい女じゃないっての!!」


腕を振り払おうと、いくらまわしてもビクともしない掴まれた手。

キッと睨みつけても、相手は薄ら笑いを浮かべるだけで…



ホント…最悪。



「どうせ、今も色んな男を手玉に取ってるんだろ?いいじゃん、一人ぐらい2度3度抱く男がいたってさあ…変わらないって。俺のテクで何度もイカせてあげるから」



2度も3度もヤルなんて、玲だけで充分よっ!

って、もう!こんな時にも玲の事考えてるなんて!!



「失礼な言い方しないでよっ!それにね、あんたのテクなんかであたしがイケるとでも思ってんの?
ぜんっぜん気持ちよくなかったけど、演技してやってたのよ?それも分からないなんて…笑っちゃう」



そうよ…少なくとも玲はテクを持ってるわ。

このあたしが何度も……

はぁ…もうイヤ。



「なっ?!そこまで言う事ないだろう?でも、まあいいや…こんなにいい女になんて滅多に出会えないんだから。このまま力ずくで俺のモノにしてやるよ」

「ちょっ…やめて!離してってば!!あんたのモノになるのなんて真っ平ごめんだって何度も言ってるでしょ?変態!離してよ!!」

「離さないって言っただろ?おら、イイ事しに行こうぜ?」



いくら罵倒を浴びせてジタバタともがいても、一向に離れようとしないヤツ。

掴まれた腕がまるでヤツの手が食い込んできてるかのように、キリキリと痛み出す。

そのままヤツはあたしの腕を無理矢理引っ張り、歩き出そうとした時だった…




「ねぇ…この女性(ひと)をどこへ連れて行こうっての?」




聞きなれた声と共に、あたしの腕から痛みが消える。

そして見上げた先に映った顔に、ドキン。と一つ鼓動が高鳴った。



「イッ…イテテテッ!!おっおまっ…誰だよ!!」

「れ…い?」




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