*Love Fight 店に着くと、直人と桂木さんが言ってたように、美菜はほんのり頬を桜色に染めながら、岡本と国井の間に座り、ずっとニコニコと笑っている。 「お、やっと来たねぇ。」 「お前の大事な彼女は俺らが護ってやってたぞぉ〜」 なんて、少し据わりかけた目を俺に向けて手を上げる岡本と国井をチラッと睨んでから、美菜をそこから引っ張り出す。 お前らの隣りにいるほうが危険だっつうの。 「お前ら、美菜に指一本でも触れてねぇだろうな?」 「まっさか〜。触れたら修吾に殺されっし、触ってねぇよー。ただ、可愛らしい美菜ちゃんは堪能させてもらったけどぉ?」 尚更ムカつく。見るなっつぅの! 美菜の手を引き、奴等の死角となる少し離れた場所に並んで腰かけ、彼女の頬に手を添わせると、ニッコリと可愛らしい笑みを向けられる。 「修吾君、お帰りなさい。」 「ただいま、美菜。どれだけお酒飲んだの?あれほど飲んじゃダメだって言ったでしょ?」 「んー、ごめんなさぁい。でもね、お酒は飲んでないですよ?」 「飲んでないの?じゃぁ、美菜は何を飲んでたの?」 「んとね。外国のオレンジジュースって言うのをもらいました。」 あれ。と言って向こう側のテーブルに置いてあるカクテルグラスを指差して、おいしいんだよ?って言ってまた微笑む。 外国のオレンジジュースね……あの色だと「カシスオレンジ」ってとこか。 ジロッと睨むように、その近くに座る直人と桂木さんに視線を向けると、ヤバッ。とでも言うように慌てて視線を逸らされる。 確実に飲ませやがったな、あの2人。 はぁ。と一つため息をついて、再び視線を美菜に向ける。 「美菜?あれも立派なお酒なんだよ?」 「嘘、嘘ぉ。ホントにぃ?あーん、どうしよう。修吾君に怒られちゃう…怒ってる?」 「怒ってないよ。」 「ホント?修吾君……ごめんちゃい。」 俺の手を取って、アルコールのせいで少し潤んだ瞳を向けて首を傾げてくる美菜に思わずぎゅっと抱きしめたい衝動に駆られてしまう。 俺が美菜に溺れてるって感じさせられる瞬間。 あれほどまでにイライラしていた感情が一気に姿をかき消してしまうんだから…ホント、参る。 「いいよ、美菜が悪いんじゃないし。でも、どれだけの量を飲んだの?」 この様子からすると、結構飲んでるんじゃないかって思えるんだけど。 「えっとねぇ。グラスに半分くらいです。でもね、すごーくふわふわして気持ちいいの。」 「え…半分?」 半分で、こんな状態になるのか? もしかして、美菜は相当酒に弱い? あの戸田家の飲みっぷりからすると、彼女も強そうに思えるんだけど……。 だけど、始終顔に笑みを浮かべて楽しそうな様子の美菜は、確実に酔っ払っている。 しかも言葉遣いが敬語なんだけど、それがまた可愛らしくて。 直人が思わず抱きしめたくなるって言うのも理解できる。 理解できるだけで、抱きしめさせてはやらないけど。 「もうこの先は飲んじゃダメだからね?」 「はぁ〜い。でもね、待ってる間ずっと修吾君まだかなぁ?って思ってたんですよ?」 「うん、俺も早く美菜に会いたかったよ。だからすっ飛んで帰ってきたでしょ?」 「うん!修吾君に会えたから、すご〜く幸せです。」 えへっ。と照れたような笑みを見せて、美菜は俺の胸に顔を埋めるとぎゅっとしがみ付いてくる。 あ、ヤバイ。マジすごい可愛いんだけど。 暫くそんな彼女の髪を優しく撫でながら見つめていると、顔を上げ際に、頬にちゅっと軽くキスをしてくる。 「みっ?!」 「えへへっ。お帰りのチューです♪」 そう言って最高の微笑みをくれる美菜。 もう、完全ノックアウト。 俺は堪らずにそのまま美菜の肩を抱き寄せると、ちゅっと彼女の唇にキスをする。 「うわー、修吾君とチューしちゃいました。」 きゃー。とでも言うように、再び俺の胸に顔を埋め、シャツを握りしめる美菜。 とてつもなく愛しさが込み上げてくる。 いつものように、すごく恥ずかしがって顔を真っ赤にしてしまう美菜も可愛いけれど、こうやって照れたように俺に引っ付いてくる美菜も相当可愛い。 あぁ、相当重症だな、俺。 そう苦笑を漏らしていると、更に美菜は思わぬ行動に出てくる。 彼女は顔を上げると、腕を俺の首の後ろにまわして、ぎゅっと抱きついてくる。 「ぉわっ、みっ美菜?!」 普段の彼女の行動からは考えられない事。 故に俺の口から間抜けな声が洩れる。 「どっどうしたの、美菜?」 「なんかね、ぎゅってしたくなっちゃったんです…私ね、修吾君の匂い大好き。修吾君の腕の中も大好き。それでね、それでね。修吾君が、だいだいだ〜い好き。」 もう、可愛すぎでしょ、これって。 俺は人目も憚らず、美菜の体をぎゅっと抱きしめ耳元で、俺も大好き。と囁く。 「おいおいお前らー。公衆の面前で堂々と抱き合ってんじゃねぇよ!ったく、修吾!お前、変わり過ぎだっつぅの。美菜ちゃんと出会う前まではちぃっとも女に興味なかったくせに。何だよ、その変わりようは。」 背後から直人の呆れるような声。 放っておいてくれ…今の俺はこうなんだから。仕方ないだろ? そんなニュアンスの言葉を出そうと思ったら、向こうから岡本の声が聞こえてくる。 「おいー、こっち来て飲もうや。イチャつくなら帰ってからすりゃいいだろ?修吾だけ美菜ちゃんを独占すんじゃねぇよ。」 「岡本!女は美菜だけじゃないでしょ?私だっているのに、どういう言い方よぉそれは!!」 「もー、恵子ぉ怒るなよ。俺は恵子も愛してるぞぉ〜。」 「コラ、岡本!酔ってるからっつって、俺の恵子に愛してるだなんて気安く声かけんじゃねぇよ!」 「いいじゃんかよぉ。今日は俺の女来てなくて寂しいんだからさー。恵子…慰めて♪」 「いいわよ〜ん。恵子の胸でど〜んと泣きなさ〜い」 「恵子っ!!お前、なんつー事言ってんだよ。岡本はバカだから真に受けるだろうが!!こら、お前も調子こいて抱きつこうとしてんじゃねぇ!」 どうやら話題が直人と桂木さんの方に移ったらしい。 こういう時の酔っ払いはいい……勝手に盛り上がってくれるから。 岡本と桂木さんの間で必死になっている直人を見て笑いながら、腕の中にいる美菜に視線を戻す。 「……美菜?」 「ん〜…」 ……………寝てる。 俺の腕の中でスースーと気持ち良さそうに寝息を立てている美菜の顔。 こういう顔は誰にも見せたくない。 俺の独占欲がここでも顔を見せる。 俺は少しだけ美菜を起こし、自分の背中におぶさるようにすると、席を立つ。 「悪い…美菜が寝たからもう帰るわ。」 「げー。もう帰る気か?まだ来たばっかだろー。別に美菜ちゃんはソファで寝かせておいたらいいじゃんか。」 「お前らに美菜の寝顔を見られたくねぇの。」 「かーっ!そういう事をよく真顔で言えんね、お前は。はいはい、そうですか。じゃぁ、さっさと帰れー。」 シッシッ。とでも言うように、掌で追い払うような素振りを見せる直人らに、お先。とだけ言うと店を出る。 背後で、本当に修吾のヤツ美菜ちゃんに溺れてるよなあ。なんて笑う声が聞こえてくるけど…気にしない。 それは俺が一番理解してるから。 |