*Love Fight






♡  7  ♡




私は祥子さんが修吾君の頬に手を当てた所で、耐えられずに立ち上がると店を飛び出していた。

いつか来た、店の隣りにある小さな公園。

ブランコの近くで蹲り、両手で顔を覆う。

辛くて、切なくて・・・怒りさえもこみ上げてきて大量に溢れ出す涙。

いくらゲームだからって酷いよ。

どうして?・・・どうして大成君はあんな事を・・・。

「・・・美菜?」

蹲る私の背後から、修吾君とは違う男の子の声。

私は涙が溢れたまま顔を上げると振り返り、その子を睨みつける。

「クスクス。そんな怖い顔で見んなよ・・・かわいい顔が台無しだよ?」

「どうしてっ?どうしてあんな事するの?」

「どうしてって・・・ゲームじゃん。」

「だってだって、大成君は知ってたじゃないっ!祥子さんが3番なのも、修吾君が5番だって事も。 私見てたもん。祥子さんに教えてもらってたでしょ?なんで?どうして?」

私は立ち上がると、大成君の元まで歩み寄り彼のシャツを両手で掴む。

「・・・・・。」

「酷いよ。そんな事をして楽しい?どうして悲しい思いをさせるの?・・・何かした?」

「・・・嫌いだから。」

「・・・え?」

「修吾のヤローが大っ嫌いだから。」

大成君のシャツを掴んでいた私の両腕を掴むと、はき捨てるように呟く。

「・・・どうして・・・だからって。」

「何でもよかったんだよ。修吾が嫌な思いをするならさ。一番ヤツがされて嫌な事・・・ 美菜に近寄る事と美菜を悲しませる事だよね?」

「だからって・・・。」

「少しでも俺の気持ちを味わえばいいと思った。俺がアイツのせいでどれだけ惨めな思いを してきたか。」

大成君は私から視線を外して、最後、ぼそっ。と小さく呟く。

「ど・・・いう意味?」

「いつもいつも成績では俺はヤツの次。どんだけ頑張っても勝てねぇ。それは仕方ねぇって 思ってるよ?俺の実力がそんだけのもんだってさ。だけど・・・女に限ってもアイツに勝てねぇ んだもんさ。」

「おん・・な?」

「入学当初、結構マジで惚れた女が出来てさ。気合入れて告ったら『ごめんなさい。私、長瀬君 が好きなの。』だとさ。1人目は諦めたよ、実際修吾は男からみてもカッコイイ奴だったし? ま、女が惚れんのも分かるとか思って。でもよ、その次の女もその次の女もみんな修吾を好き だとか言って俺をフりやがる。」

大成君は悔しそうに顔をしかめると、クソッ。と呟く。

修吾君・・・そこまでモテてるんだ・・・分かってたけど改めて聞かされると・・何かショック。

私も違う意味で顔が複雑な表情に変わる。

「ムカツクから片っ端から女に声かけてたら、知らない内に俺は『遊び人』で名前が通っちまって マジで惚れた女にも本気に取ってもらえやしねぇ。」

あ・・・それで、私が大成君の事を知らないと言った時に、好都合って言ったんだ。

私が彼の事を『遊び人』って知っていたら上手く近寄れなかっただろうし・・・。

でもね、ここまでよくよく聞いてみたらこれって・・・単なる

――――逆恨み?



***** ***** ***** ***** *****




「――――お前ね、そんな事でイチイチ人を振り回すんじゃねぇよ。」

突如として2人の耳に届く修吾君の声。

私と大成君は、ほぼ同時に彼の方へ顔を向ける。

「・・・・・修吾。」

「・・・修吾君。」

同時に声を漏らすと、ため息を一つ付いてからゆっくりと私達の元へと修吾君が近づいてくる。

「大成・・・それって逆恨みもいいとこだろ。俺がお前の女を取ったのならまだしも、 お前が告った相手に俺の事を好きだからとフられたからってだけで俺に恨みを持たれたんじゃ、 たまったもんじゃないっての。」

「それでもムカツクだろうが。」

「そんな事知らねぇっての。仮にムカついたとしても、こうやって俺の女を振り回すような事を するのはセコイんじゃないの?・・・男として情けない。」

「うっうるせぇっての!!」

「ムカついたんならムカついたで、俺に面と向かって堂々とムカつくって言えばいいじゃん。 そうやってコソコソと余計な事をするから、『遊び人』とか『軽い』とか言われるんだよ。」

修吾君は私達の元まで辿り着くと、大成君の目を見据える。

「お前に何が分かるってんだよ。俺がいいな、って思った女は大抵お前を好きだと言いやがる。 毎回そんな事を聞かされてみろっ。惨めになってくんだろぉが。美菜だってそうだよ・・・ 結構2年になってから気になってたんだ。なのに気が付いてみれば俺が一番嫌いとするお前と 付き合い始めたって言うじゃねぇか・・・いっつもいっつも人の好きになる女を取って行き やがって・・・。」

「いや・・美菜以外取ってないから。」

「同じなんだよっ!クソッ。昼休みも放課後もイチャイチャしやがってよ。本当だったら美菜の 横で笑ってるのは俺だったかもしれねぇだろ。」

・・・・・それは世界が滅亡してもありえません。

私は心の中でそう呟く。

「あり得ないね。お前や他の奴らからどれだけ恨みを買おうと、美菜だけは誰にも渡さないから。」

「だから臭ぇっての!!そういう所もムカつくっつうの。言い寄ってくる女には目もくれず、 一人の女だけ大事にするお前がよ。おめぇは聖人君子かっ!!」

「そこまで言って貰えるほどいいモンでもないと思うけど?」

「か〜〜っ!腹立つっ!!お前、いろんな女が言い寄ってくるんだから女になんて困らねぇだろ? 美菜をよこせ。」

大成君は私の体を抱き寄せて、そう修吾君に向かって言う。

どわっ!とっ突然何するんですかぁっ!!・・・って・・・タバコ・・

「なっ!お前っ!!はなれっ・・・」

「臭いから嫌っ!!」

修吾君の言葉を遮って私の口から叫びのような言葉が出る。

「くっくさ?」

私の言葉に動揺した大成君の体から離れて、修吾君の胸に飛び込む。

「タバコ臭いから嫌っ!修吾君じゃなきゃダメだもんっ!!」

そう続けて呟くと、修吾君の腕が私の体にまわり、ぎゅっ。と力を入れて抱きしめられる。

途端に私の大好きな彼の香水の匂いが鼻をくすぐる。

「悪いね、大成。どんだけ俺が女に困らないとしても、俺に必要なのは美菜だけだから。だから、 美菜だけは手放せない。」

「・・・・・臭いのか、俺?」

大成君はショックを隠しきれない様子で暫く呆然と立ち尽くす。

「お前もさ俺に恨みを晴らす事ばっか考えてないで、自分の事を考えろよ。」

「修吾に言われなくっても考えてるっつうの!考えて告ったらお前の名前が出てくんだろうがっ!!」

「それは、悪かったね。でもお前も根はいい奴で面白い奴なんだからさ、すぐに 女出来るんじゃないの?現にお前の事いいって言ってた子いたし。」

「えっ?!マジで??誰、どこの子?何組の子??名前は??」

「・・・・・お前、食いつき過ぎ。」

しかも・・・・・単純。



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