*Love Fight






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一旦家に帰って私服に着替えて、バイト先に来てから2時間が経つ。

そろそろ美菜が来る頃かな。

俺は壁に掛かってある大きな時計に目をやり時間を確認する。

丁度7時をまわった所。そろそろ辺りも薄暗くなりつつあるから、どうしても美菜の事が気にかかる。

大丈夫だろうか、一人で。・・・って、何か俺、美菜のオヤジになった気分。

一人で苦笑を漏らしながら、本の整理をし始める。

程なくして自動ドアが開き、入ってきた人物に俺の目が驚きと共に止まる。

「なっ!!」

一人は美菜・・・それはいい。

その横にいるヤツ――――紛れも無く俺の嫌いなヤツ・・・片桐 大成。

何故ヤツが美菜と一緒にいるんだ?

はっ?!ちょっと待てよ・・・何で手まで繋いでる?

俺は動揺と共に腹の底が熱くなって行くのを感じていた。

すぐさま駆け寄ろうとした所で背後から、すいません。と声がかかる。

クソッ。今俺に話しかけないでくれよ。

すぐにでも美菜の元に行きたいのを何とか抑えると、はい。と背後から声をかけてきた客の方へ と体を向ける。

客に聞かれている事も話半分で聞き流し、半分の意識は2人の方へと向く。

なんで・・・何で美菜が大成と一緒に?

アイツ、美菜に何を言いやがったんだ。

美菜がそう易々と他の男と手を繋ぐはずがないんだ。女の扱いに慣れてるアイツの事だ、何かに託けて 美菜と手を繋いだに違いない。

だけど何で・・・どうして。

俺の頭の中で同じ言葉が繰り返される。



***** ***** ***** ***** *****




客の対応も終り、すぐさま2人に駆け寄ると美菜の肩を掴む。

「えっ!ひゃっ!!しっ修吾君?!」

「おぉ。修吾、バイト頑張ってるねぇ。」

「・・・・・お前、美菜に何した?」

驚きの表情を見せる美菜をぐいっ。と自分に引き寄せてから、ニヤニヤと笑う大成を睨みつける。

「べっつに、何にもしてねぇよ。な、美菜。」

「みっ?!・・・何でお前が美菜の事を呼び捨てで呼ぶんだよ。それに、手を離せ。」

「クスクス。おっと、悪ぃ悪ぃ。何で呼び捨てかって?そりゃぁ、俺と美菜がお友達だからじゃん?」

ね〜。と首を傾げながら美菜に向かって微笑みかける。

美菜?と少々声を大きくして問いかけると、何ともいえない表情で、うん。と小さく頷く。

どういう展開でこんな事になってるのか頭の整理がつかずに暫く無言でいると、大成がクスクス。 と再び笑って見せてから、挑戦的な表情を向ける。

「んじゃ、ま。俺は一足お先に店に行ってるわ。修吾も後から来んだろ?岡本の店。」

「お前も行くのかよ。」

「まぁね。岡本から声かかったし?久しぶりに顔だそっかなぁって思ってさ。」

「じゃあ、行かねぇ。」

こんなヤツがいる店なんて、行ってたまるか。

「ふ〜ん、逃げんの?」

「は?」

「俺が一緒じゃ美菜を取られそう?ま、今日店に来なくっても、俺は諦めるつもりねぇけど?」

「お前何言ってんの?美菜は誰にも渡さない。」

「うへへっ。カッコイイ事言ってくれんじゃん。美菜は誰にも渡さないってか。美菜はどうよ、 嘘つき修吾とこの先も付き合ってく?」

「へっ?えっ・・・えっ。」

「何だよ、その嘘つきとか言うのは。」

俺の問いかけに、さあね。と言葉を濁してから、んじゃ後で。と含み笑いを残して店を出て行く。

大成の言葉が妙に引っかかり、いてもたってもいられなくなった俺は、近くの店員に 休憩室に入ります。と言葉をかけてから美菜の手を引き、休憩室へと入る。

「美菜、どういう事?何でアイツと一緒にいる?何で手を繋いでる?いつの間にヤツと友達なんかになった?なんで・・・」

休憩室に入った途端、聞きたい事が次々と俺の口から溢れ出す。

美菜はどれに返事をしていいものか、困ったような表情と不安げな表情の入り混じった複雑な顔を見せる。

「え・・・あの・・・その・・・。」

「ぁ・・ごめん。・・・・・何で大成と一緒にいたの?」

一気に捲くし立てている自分に気づき、一つため息を付いてからゆっくりと言葉に出す。

「あの・・・今日家を出た時に・・携帯がかかってきて・・・大成が買いたい本があるから って・・・一緒に行こうって言われて・・・」

「大成?」

俺の表情が俄かに曇る。

どうして美菜がヤツの事を名前で呼ぶ?しかも『大成』って呼び捨てで。

「あっあの、そう呼べって言われて・・・大成は修吾君の友達だって言ってたよ?違うの? 修吾君と友達だって聞いたから、私・・・仲良くしなきゃって思って。」

・・・そういう事か。俺が大成と友達だと美菜に吹き込み、自分の名前を呼ばせたり連れ出したり したって訳か。

携帯番号もアイツの事だから美菜の友達に言い寄って聞き出したんだろう。

手を繋いでたのも恐らく美菜がドジ故に・・・・・。

ったく。手の込んだ事をしやがる。

何故そこまで俺に対して対抗意識のようなものを燃やすのか理解に苦しむ。

「アイツの事を大成って呼ばなくいい。って言うより呼んでほしくない・・・他の男の名前なんて。 アイツは俺の連れでも何でもないから。美菜が仲良くしなきゃって思う事ないよ。」

「えっ?ちっ違うの?・・・じゃぁ一緒にいる時にタバコを吸ってたっていうのは?」

「は?何で俺がタバコ吸うの?前にも言ったでしょ、俺はタバコの臭いが嫌いだって。」

何が何だかさっぱり分からないとでも言うように、美菜はう〜っ。と顔を顰める。

・・・アイツは何を吹き込んだんだ。

怒りを通り越し、呆れて言葉も出てこない。

「・・・・・俺が美菜に内緒でタバコ吸ってたって言われたの?だから嘘つき?」

「あ〜・・・うん。」

「美菜は俺と大成の言う事とどっちを信じるの?」

「――――・・修吾君。」

「今、ちょっと考えたろ。」

「うぇっ!そそっそんな事ないです。ちゃんと、修吾君を信じてる。」

「ほんとにぃ?」

「ほんとだってばぁ。だって・・・あの人、ちょっと苦手だったもん。」

真っ赤になって訴えてくる美菜に笑みを漏らすと、そっと彼女の唇に自分の唇を寄せる。

「俺の事を信じて。もうアイツとどこかへ行っちゃダメだよ?アイツだけじゃない、他のヤツとも。」

「ん、信じてる。ごめんなさい、もう行かない。」

少し涙目になっている美菜の瞼に唇を寄せてから、再び彼女の唇を塞ぐ。

取り合えず、俺の気持ちと美菜の誤解が晴れたからヨシとしよう。

後は・・・・・大成か。

このまま放っておくと、後々厄介そうだしな。

俺はバイトが終わってから岡本の店に行くことを決め、休憩室に美菜を残して残りの仕事をする為に 部屋を出た。



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