*Love Fight






♡  2  ♡




「み〜な〜ちゃんっ♪」

「はい?」

お手洗いから出て教室へ戻ろうとした所で背後から聞きなれない声で自分の名前を呼ばれ、 反射的にいつものように返事をして笑顔で振り向く。

・・・・・うげっ!!

振り向いた途端、私の笑顔が凍りつく。

・・・・・だっ誰ですか?この茶髪のピアスのお兄さん・・・・・こっ怖っ!!

「クスクス。かっわいぃ。そんな怖がらないでよ。俺ね、修吾の1年の時の連れで片桐 大成っつうの。 よろしくね。」

「しっ修吾君の?・・・そそそうなんですかっ・・・よっよろしくお願いします。」

にっこりと満面の笑みを見せられ、こちらも引きつりながら笑みを返す。

が、恐怖&男性恐怖症(若干)故に頬が真っ赤に染まり、言葉が詰まり裏返る。

「って、言うか俺の事知らない?結構この学校では有名なんだけどなぁ〜。」

「へっ?そうなんですか?・・・すいません・・・知らないかも・・・です。」

あぁ。私ってば何て失礼なのかしら。この学校で『有名』と言えば柊君と修吾君しか知らないし。

何が有名なんだろ・・・よく見るとカッコイイ顔をしているからそれでかなぁ?

こういう話って疎いからなぁ、私。

申し訳なさそうに声を落とすと、笑いながら肩をぽんぽん。と叩かれる。

「そうなんだ。いや、知らないほうがこっちは好都合なんだけどね。」

「あ・・・はぁ。」

クスクスと含み笑いをされて、言葉の意味が分からず首を傾げる。

『好都合』・・・どういう意味?

「いやね、何で声をかけたかっつうと修吾の彼女だったら俺も仲良くなりたいなぁって思ってさ。 美菜ちゃんさえよければ俺と友達になってよ。」

「おっお友達ですか?え・・あの・・・修吾君のお友達なら私も仲良くなりたいです。」

「やりっ!じゃぁ決まりね。俺と美菜ちゃんは友達っつう事で、俺の事は大成って呼んでよ。」

「たい・・せい・・君?」

「あぁ、『君』なんていらない、いらない。俺、君付けされんの苦手なの。『大成』って呼び捨て で呼んでくれて構わないから。ね、美菜。」

え・・・いきなり呼び捨てですか。修吾君でさえ『君』が付いてるのに・・・しかもしかも! 今私の名前を『美菜』って呼びました?

ん〜・・何か苦手だなぁこの人・・・。修吾君の友達って言うんだから仲良くしなきゃ。なんだけど・・・。

「じゃぁ、俺教室戻るわ。これから宜しくね、美菜。」

「ひゃっ!!」

なっなっ何を突然するんですかぁぁぁ!!

去り際、友達になってくれたお礼に。って髪の毛にちゅっ。とされてしまった。

途端に真っ赤に染め上がる私の頬。

うわあぁっ・・・なっなんで何で?友達になっただけで髪の毛にチューなんてするの??

やっぱりやっぱり・・・あの人苦手だぁぁぁぁっ!!!



***** ***** ***** ***** *****




真っ赤な顔で教室に戻ると、すぐに修吾君が私の元へとやってきた。

ひぇっ!!今、修吾君に顔見られるとマズイよぉ〜。

髪の毛にチューをされた事が、とてつもなくやましい事をしてきたという感覚に陥る。

「美菜・・・何かあった?」

「へっ!うっううん、何も何も別にございません。」

「顔真っ赤だけど・・・誰かに会って何か言われた?」

ドキンッ!!

私の心臓が一つ大きく波打つ。

修吾君・・・あなた超能力者ですか。どうしてそんな事分かっちゃうの?

あぁ。でもでも、修吾君の友達に髪の毛にチューされちゃいました。なんて言えないよぉ。

「だっ誰にも会ってないよ?」

「本当に?」

「うっ・・・うん。」

「美菜?」

「うぅ。だから誰にも会ってませんってぇ。」

修吾君は一つため息を付くと、分かった。と言って頭を撫でながら微笑む。

「誰かに会って何か言われたり、されたらすぐに俺に言うんだよ?分かった?」

「うん。分かった。」

そう言いながら、心がズキン。と痛む。

やっやっぱり、すぐに言った方がいいよね?いくら修吾君の友達だからって・・・嫌だったもん。

あの・・。と口を開いた所で、修吾君の声が重なる。

「そうだ美菜、今日の夜ね、前みたいに岡本の知り合いの店に行こうかって話になってるんだけど、 美菜も行ける?」

「岡本君の?」

おぅっ。嫌な事を思い出しちゃった。

夏休み中、恵子達も一緒に行った同じクラスの岡本君の知り合いのお店。

そこで修吾君を狙ってるという祥子さんと出会ったお店・・・今日もいるのかな、祥子さん。

「ん〜・・・恵子と柊君も来る?」

遠くの方で楽しそうに話している恵子と柊君の姿を見つけ、視線をそちらに向ける。

「あいつら今日は予定があって来れないって。だけど、さっき桂木さんが自分の家に 泊まりに来る事にすればいいよ。って言ってたけど?そう出来るんなら俺は嬉しいけど・・・。」

うにゃぁ。また嘘を付かなければいけないのかぁ・・・気が咎めるなぁ。

でもでも祥子さんの事を考えるとやっぱり不安だから行きたい。

それよりも何よりも修吾君と一緒にいたいし・・・。

「うん。恵子の家に泊まるって言う。明日土曜日で休みだもんね。」

「よかった。でも、美菜に嘘付かせるのも気が咎めるから近い内に美菜の家に挨拶に行くね。 今日早速・・って言いたい所だけど、俺集まる時間までバイトだからさ。」

「えっ!!わっ私の家に?」

「俺だってコソコソ泊まったりするの嫌だからね。正直に美菜とお付き合いさせてもらってます。って 言いに。何度か電話でお母さんとは話してるけど、面と向かって俺と泊まりますとかって言ったら お父さんに殴られちゃうかな。」

苦笑を漏らす修吾君を見ながら、それは大丈夫だよ。と心の中で呟く。

だって携帯のチューしてる待ち受け画面、お父さんに見つかっちゃったけど特に怒られなかった もん。挙句の果てに『ちゃんと付けてるか』とかってまで言われちゃったし。

どわぁっ。うちの両親ってあんなにオープンな人達だとは思わなかった。

我が親ながら・・・嬉い事ではあるけれど・・・はぁ。

「今日一旦帰って用意が出来たら明るい内に俺のバイト先までおいで。裏に休憩室があるから そこで時間潰してたらいいから。って、美菜は退屈かな。」

「ううん、そうする!修吾君の働いてる所見られるもん!!」

わぁ。修吾君のバイト先で待ってられるんだぁ・・・何かすごく嬉しいな。

普段とまた違う修吾君が見られる。

「クスクス。働いてる所って言っても本屋だからね、あまり楽しくないと思うけど。」

「あ、そういえば毎週買ってる週刊誌が今日発売だ。それ買って休憩室で読みながら 待ってる。」

「一人で来れる?」

「ぶぅっ。もぅ、そんなに私は子供じゃありません!!」

「クスクス。ごめんごめん。じゃあ、そういう事で決定ね。」

「うん!」

私は先程の片桐 大成君の存在も祥子さんの存在すらもすっかり忘れ、修吾君のバイト先に行けると言う事と 今日の夜も修吾君と一緒にいれる事に心がウキウキと躍っていた。



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