*Love Fight






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夏休み明けのテスト結果の順位表が2年生の教室の廊下に張り出された。

途端に群がる生徒達。その中に俺と美菜の姿もあった。

俺は・・・3番か。

夏休みあれだけ美菜と遊んでいながらこの成績なら文句ないだろう。

否、文句を言われない為に頑張ったんだ。

俺は安堵のため息を付くと、少し離れた所から美菜の姿を探す。

・・・問題は美菜。いつも成績は中間辺りだと言ってたからなぁ。

夏休み中、俺と付き合った事で成績が下がってはと一緒に勉強したんだから今回は大丈夫なはず。

俺が美菜の姿を探していると、修吾く〜ん!と、満面の笑みを浮かべた美菜が俺の元まで 走り寄ってくる。

「美菜、そんな走らなくっても・・・って、あぶなっ!」

「ひょわっ!!・・あっあぶなかったぁ・・・ありがとう、修吾君。」

いつもの如く、どこにそんな突起物が?と思うような所で躓き、危うく転びそうな所を寸前の 所で抱きとめる。

ほんとに、もぅ。美菜はこれだから目が離せない。

腕の中で真っ赤な顔をして俯く美菜の頭をポンポンと叩くと、どうだった?と覗き込む。

「あっ!あのね、あのねっ。成績が上がってたの!凄いよ!!今までで一番いい成績なんだよっ。 修吾君のお陰だね。ありがとう。」

「クスクス。よかったね。でも俺のお陰じゃなくて美菜が頑張ったからでしょ?」

「ううん。修吾君が教えてくれたからだよ!もうね、すっごいすっごい嬉しい!!」

ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねて喜ぶ美菜を見て、ついついこちらも顔が綻ぶ。

「ん〜。じゃぁ何かお礼してもらおうかな?」

「うんうん。もう何だってしちゃうよっ!!だってだって修吾君いなかったら今までと一緒で中間 よりも下だったもん。」

「・・・何だってしてくれるの?」

意地悪く笑う俺に対して何の疑いも無く、うん。と、屈託の無い笑みを返す美菜。

俺の言動に対しての美菜の次の表情が手に取るように分かるだけに自然と笑いが込み上げてくる。

そんな俺に不思議そうに首を傾げながら見上げる美菜の耳元に顔を寄せて、囁く。

『じゃぁ、美菜からキスしてくれる?』

「・・・・・うぇっ?キッ・・・私っ・・へっ!?・・・えぇぇぇぇっ!!」

やっぱり。

案の定、真っ赤になってたじろぐ美菜。

・・・・・に、してもそこまで驚く事ないんじゃないか?もうそろそろ慣れてもいい頃なんだけど。

ま、これも美菜だから許せるところ・・・かな。

「クスクス。冗〜談。そんなに驚く事ないだろ?・・・って、嫌なの?俺にするの。」

「いっ嫌な訳ないじゃないですかっ!!・・・ってそんな大きな声でぇ!!!」

「・・・・・美菜の方が声大きいから。」

「・・・・・・・ぉぅっ。」

更に顔を赤くさせて両手で顔を覆う美菜に、周りには聞こえてないよ。と耳打ちをしてから両手を外す。

「じゃぁさ、最近駅前に出来たクレープ屋さんあったでしょ?あれ、奢って。お礼って事で。」

「・・・え。いいの?・・・でも修吾君甘いもの苦手なんじゃ・・。」

「美菜が食べるヤツをちょっと貰うからそれでいいよ?でも・・・」

俺はキスの方がいいけど?と再び耳元で囁くと、う〜っ。と困った表情で悩む美菜。

悩むって事はちょっとはしてもいいかな?って思ってくれてる訳だ。

それを知ってしまったら・・・ねぇ?

やっぱりクレープは却下。と心の中で決断を下すと自然と笑みが浮かんでくる。



***** ***** ***** ***** *****




美菜がトイレに寄ってから教室に戻ると言うので、俺一人教室に戻り自分の席で本を開く。

推理モノで結構面白いから、美菜と話す以外は本を読んでいる事が多い。

まぁ、よく直人とかが邪魔しにやって来るからゆっくり読める訳じゃないんだけど。

今はテスト結果の事でクラスの奴らと盛り上がってるから暫く邪魔が入る事はなさそうだな。

「やっほ〜。修吾、今回の順位もお前が俺の前だったなぁ。」

本に視線を落とした所で、声が掛かる。

顔を見なくても声だけで分かる・・・俺の嫌いなヤツ。

「今回もって・・・前回もだっけ?」

俺はヤツの顔を見ること無く素っ気無く返事を返す。

「何だよ、相変わらず冷てぇな。ったくよぉ、いっつもいっつも俺の前にいやがってさぁ。」

「・・・で、何の用だよ。大成。」

ヤツの名前は片桐 大成(かたぎり たいせい)。

大成は1年の時にクラスが一緒で、入学当初からお調子者でかなりの遊び人という噂。

甘い顔立ちで茶髪にピアスの風貌からもそれが見て取れる。

で、コイツは何でか知らないけど俺に異様に対抗意識を燃やしてくる。

噂によれば、俺の人気具合と成績がいつも俺の次。と言うのが気に食わないらしい。

そんな事で対抗意識を燃やされてもね。

まぁ、俺は全く相手にもしてないんだけど・・・・・。

「・・・お前、人の話聞いてないっしょ?」

「そう思うんなら、さっさと自分の教室に帰れば?」

「マジ、つっめてぇなぁ。折角1年の時クラスが一緒だった旧友がわざわざ遊びに来てやったって ぇのにさ。」

「・・・・・旧友ね。」

俺は、ぼそっと呟くと視線を変えず本を捲る。

「ま、いいや。んな事はどぉでも・・・でさぁ、噂に聞いたんだけどぉ、お前同じクラスの戸田美菜と 付き合ってるんだって?」

「だったら何だよ・・・お前に関係ないだろ?」

そうなんだぁ。とぼそっと呟くのが聞こえてから、更に耳を疑いたくなるような事を言ってきた。

「それがあるんだなぁ。・・・俺もさぁ戸田の事気に入っちゃった。」

「・・・・・・・は?!」

・・・・・コイツ今、美菜の事を気に入ったとか言った?

そこで初めて俺は大成の顔を見る。

ニヤニヤと笑いながら俺を見る大成の顔つきがヤケに憎たらしく見えてくる。

「だからさぁ。最近妙に色っぽい戸田をねぇ、好きになっちゃった訳よ。」

「お前ね、喧嘩売ってる?」

「クスクス。そう見える?っつうか、勝負挑んでんだけど?」

「はぁ?・・・・・寝言は寝てから言えっての。」

「起きてますけど?」

――――・・こういう態度も腹が立つ。

「お前・・・美菜に指一本でも触れてみろ。ただじゃおかねぇからな。」

「おぉ怖ぇ。クスクス・・・ま、一応宣戦布告しましたので。じゃあねん。」

「おいっ。ちょっと待てよ!大成!!」

含み笑いを残し、教室を出て行く大成の後姿を睨みながら読んでいた本を乱暴に机に放り投げる。

・・・・・冗談じゃない。あんな遊び人に美菜を渡せるか。

――――戸田の事気に入っちゃった。

俺は大成の言葉を思い返し腹の底が熱くなっていくのを感じていた。



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