*Love Fight 「――――おっし。飯食って落ち着いたから、そろそろひと泳ぎすっかぁ。」 柊君がお昼ごはんを食べ終え、しばらく経ってからそう一声かけると立ち上がる。 ・・・・・忘れてた。 海水浴に来たんだから、当然海で泳ぐんだよね。途端に私の表情が暗く曇る。 「どうしたの、美菜?泳ぎに行こう?」 「あ〜う〜・・・うん。」 「どったの、美菜ちゃん。急に暗い顔しちゃってさ。」 「クスクスっ。美菜ってばねぇ――――。」 「うわぁぁっ!!けっ恵子、それ以上はっ・・・・・。」 私の必死の制止も聞かず、「美菜ってば、『かなづち』なのよ。」と恵子は打ち明けてしまった。 おぅ・・・バレてしまった。いや、いずれは分かる事だけれども・・・。 それを聞いて柊君は、美菜ちゃんらしぃ〜。と、お腹を抱えておかしそうに笑う。 何ですかぁ・・・そこまで笑う事ないじゃない。あぁ、そうですよ。ドジな私にはぴったりですよ。 ――――そう、何を隠そうこの私、超がつくほどのかなづちでして・・・泳げません。 だから海水浴も本当は来たくなかったんだ。だって泳げないんだもん!!みんなと同じように水を かいてる筈なのに、何でか私だけが沈んでいくんだもん。どうしろっての!! お陰で今まで海水浴なんて来た事なんてなかったから、水着だってスクール水着しか持ってないん だから!!・・・んな事胸張って言ってどうするのよ。 「美菜、浮き輪があるから大丈夫だって。ほら、行こう?」 「うぅ・・・・・。」 長瀬君は渋る私の手を引き、半ば強引に私を海へと連れ出す。 海の水は太陽に照らされていて少し生暖かかった。それでも奥に進んで行くと、ひんやりと冷たくなってきて とても気持ちがいい。 私は大きな浮き輪に外側から覆いかぶさるように身を委ね、ぷかぷかと浮かぶ。 これなら安心かも・・・。そう思うと心なしか気分が晴れてきて、自然と顔から笑みが漏れる。 この浮き輪が私の命綱だわ。離さないようにしなければ・・・そんな事も心に誓いながら。 「ほら、浮き輪があるから大丈夫でしょ?冷たくて気持ちいいじゃん。」 「うん!冷たくて、気持ちいい。」 同じように私の横で浮き輪に掴まる長瀬君を見て、そう呟き微笑む。 私は長瀬君と他愛も無い話をしながら、沖の方へと進む。 あぁ・・・何か凄く気持ちいいなぁ。照りつける太陽は暑いけど、水に浮かんでいるのってとてつも なくほんわかした気分になってくる。 ・・・・・こんな事なら、もっと前から海水浴とかに来たらよかったかも。 そんなほのぼのとした空間に突如として現れる魔の存在。美菜ぁぁっ!!っと声が聞こえたかと思った ら、後ろから誰かに抱きつかれる。 「わわっ!けっ恵子っ・・・危なっ・・・ぎゃぁっ!!・・・ごぼごぼごぼっ・・・。」 抱きつかれた反動で浮き輪から体がずり落ち、私の体が命綱から離れて沈み出す。 だっ誰か・・・助けてっ・・・溺れるぅっ!!・・ごぼごぼごぼっ。 必死でもがこうと、腕を一振りした所で不意に体に誰かの腕がまわり、ひょいっと引き上げられる。 私は無我夢中で引き上げてくれた体にしがみ付くと、大きく肺に空気を送り込む。 「ぐはぁっ!!ごほっごほっ・・・ぶほっっ。」 「大丈夫?美菜。」 「な・・長瀬君・・・あ・・ありがとう。ごほっ・・・死ぬかと思ったぁ。」 私は長瀬君の首にしがみ付いたまま、恵子を軽く睨むと、もぉ。と呟く。 恵子は悪びれる様子も無く、クスクスと笑いながら、ごめ〜ん。と叫び柊君と共に更に沖の方まで 浮き輪に掴まりながら泳いで行ってしまった。 ごめ〜ん。って・・・思ってないじゃん!! 遠くに行ってしまった彼らに、もぅっ。ともう一度声を発してから、彼の方に顔を戻す。 どわっ!ちかっ!!長瀬君の顔が近すぎる!!!・・・思わず顔を引いてしまう。 「美菜・・・しがみ付いてくれてるのは嬉しいんだけど。何かヤバイかも?」 「・・・は?」 私は近すぎる長瀬君の顔に赤くなりながら、彼の言葉に現状を見る。 自分は今、長瀬君の首にしがみ付いてる訳で・・・2人共水着な訳で・・・? ちょっ直接肌が触れてて・・・ふと下を見ると、私の胸がむにっと長瀬君の体に押し付けられてる訳で?! 「へっ?・・・きゃっ!!・・・あわっ!!・・・ごぼごぼごぼっ。」 咄嗟に両腕で胸を隠したら、また海に沈んでしまった。――――何やってんの、私。 「わっ!美菜っ!!」 「げほっ・・・ごほごほっ!!」 即座に長瀬君は体を引き上げてくれて、また私は彼の首にしがみ付く。 「泳げないんだから、手を離しちゃだめだって。」 「けほっ・・・だっだってぇ・・・長瀬君が変な事・・言うから。」 「本当の事だから仕方ないだろ?・・・はぁ、もぅ。」 長瀬君は小さなため息を付くと持っていた浮き輪を、くるっと宙で反転すると丁度私達が浮き輪の 真ん中に納まるように向きをかえる。 大きな浮き輪は私達を囲み、周囲の雑踏の世界から小さな二人だけの世界へと 「ゆっくり進んで行こうって思ってたけど・・・無理かも。」 「・・・・・長瀬・・君?」 長瀬君は片方の腕で私を支えながらもう片方の手で浮き輪を掴み、こつん。と額を私の額につける。 「今すぐにでも美菜が欲しくてたまんない。」 ・・・・・・・・・・・・・・どえぇぇぇ!!急にそんな事を言われてもですね。困る訳ですよ。 どっどう対処したらいいのですか???この状況で・・・。 急激に私の心臓が高鳴りだす――――ドクンッドクンッドクンッ。 「クスクス。美菜の心臓がドクンドクンっていってるのが伝わってくる。」 「やっ!だだだってぇ・・・。」 「マジ・・・もう限界。」 「・・・あのっ・・・その・・。」 私は何て言っていいのか分からなくて、口ごもってしまう。 「今ココで、って言うのは流石に無理だから近い内に必ず――――。」 そう囁く長瀬君の顔がとっても綺麗で・・・この上なく愛しさが込み上げてきて胸がきゅん、となる。 ――――だから美菜も覚悟しといて。そう呟くと、長瀬君は私の唇に自分の唇を重ねてきた。 今まで以上に優しいキスに私の体の中が徐々に熱くなっていく。 長瀬君の舌がゆっくりと私の唇をなぞり、僅かに開いた所から中に入ってくる。 やっぱり私は翻弄されるばかり だったけど、少しずつ答えるようにちょこ、ちょこっと動かしてみた。そんな仕草に長瀬君は驚いた のか少し体がぴくっと反応をみせたけれど、そのまま私の背中にまわしていた手を後頭部に添えると 更にキスを深くする。 あぁ・・・もう、ダメ。頭の中が真っ白だ。 彼の舌と触れ合う度に、体の真がどんどん熱くなっていくような気がして。 「ん・・・・ふっ。」 長くなるキスに私の口から声が漏れ始め、自分が自分でないような気がしてきてとても不思議な 感じがした。 周りには人が沢山いるから、もしかしたら見られてるかもしれない。なんて事が頭を過ったけれど、 離せなくて・・・離してほしくなくて。 私達は暫くこの小さな世界から抜け出せないでいた。 口内を弄る彼の舌も、自分を抱きしめてくれている腕もすべてが愛しくて・・・彼となら・・・ 彼だから・・・・・覚悟を決めよう。私は心の中で固く決心をした。 ――――近い内に必ず。 唇を離した長瀬君が、しょっぱいキス。と言ってクスっ。と笑うともう一度軽くキスをする。 その言葉に、クスクス、ほんとだ。って私も思わず笑っちゃった。 |