*Love Fight






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あっ・・・あぢぃ・・・・・。

私は暑過ぎて眠りから覚めてしまった。

カバンから携帯を取り出し、時間を確認する。――――11時か。まだお昼にはもうちょっと時間があるね。

携帯をカバンに戻すと両脇に視線を向ける。

よくまぁ皆さんこんな暑い中眠れるもんですね。あたしゃ限界ですよ、この暑さ。

上からの太陽の熱と、それに熱された砂からの熱。たまらんです。

体全体から汗が噴出し、体の中に熱がこもっている感じ。

それにしても、喉が渇く。クーラーボックスにジュースが入ってるのは知ってるけど、やっぱり氷の中に 浸かった冷えたジュースをぐいっ。と飲み干したい。

・・・・・買いに行こうかな。

体をねじり、後ろに視線を向けると海の家がずらっと並んでいるのが目に入る。

あそこぐらいまでなら、迷子にならず行って帰って来れるよね?だって一直線だよ。長瀬君を起こして まで行くのも気が引けるから、たたっと行って帰ってこよう。恵子も柊君も寝入ってるみたいだし・・・。

カバンから小銭入れを取り出すと、薄いパーカーを羽織って足早に海の家まで向かう。

あっあちちっ・・・何で海の砂ってこんなに暑いのかしら。火傷するっつうの。

ぶつくさ文句を言いながら海の家までたどり着くと、『氷』と書かれた看板が目に入る。

カキ氷かぁ。イチゴ味・・・・・・氷にしよう。うん、イチゴ味。

店先でイチゴ味のカキ氷を注文をし、それを手に取ると思わず顔から笑みが漏れる。

「えへへっ。おいしそう。」

そんな言葉を漏らしながら、はたとビーチに体を向ける。

・・・・・・・・・・・・どこだ。

視界に映るのは同じ様な柄のパラソルの嵐。――――っげ!!どっどこから来たっけ??

確か、この店の真っ直線から来た筈だよね?・・・・・同じにしか見えない。

えぇぇっ!!マジっすか?!また迷子??いやん、そんなぁ。私はきょろきょろしながら、とりあえず 直線状に海に向かって足を進める。

・・・・・うぇっ!!海に出ちゃったよ。

私は泣きそうな気持ちになりながら、もう一度振り返る。――――・・やっぱり分からん。

さっぱりわから〜〜ん!!誰か助けてぇ〜〜〜っ!!!

と、叫んだ所で誰も助けてくれないよね・・・ぐすん、どうしよう。

迷子の呼び出しを――――『戸田 美菜さん、17歳が迷子になっておられます。至急保護者の方 インフォメーションまでお越しください。』

・・・・・ひえっ、そんなの恥ずかしすぎる。プルプルっと首を振り落胆のため息が口から漏れる。

私は仕方なくもう一度海の家まで戻り、キョロキョロと辺りを見渡す。

「――――ねぇ、キミ一人?」

あぁぁ。長瀬君気が付いてくれないかなぁ。

「ね、聞いてる?暇ならさ、俺らと一緒に泳がない?」

何か目印を決めとくんだった・・・私達のパラソルってどんな柄だっけ?

「ちょっと、無視しないでよ。さっきから話しかけてんだけど・・・・・。」

急に、ぐいっと肩を掴まれる。

「わっ!やっ・・・なっ何ですか?!」

「さっきからキミに話かけてんのに無視するなんて酷いじゃん。」

「はいっ?わっ私・・・ですか??」

目の前には、ニヤニヤと笑う金髪の髪をした軽そうな男の人が一人。

うげえぇぇっ。これって『ナンパ』ってヤツ?うっ生まれて初めて声かけられたよ。

うわぉうっ。すごいっ!!・・・って、そんな事言ってる場合じゃないのよ。

途端に私の心臓が高鳴り出す。・・・・・こっ怖い。男の人は苦手なんだよぉ。

「そっ。キミに話してんの。一人?仲間とはぐれちゃったんなら、あっちで俺らと一緒に遊ばない?」

「やっややっ・・けっ結構です。」

「いいじゃん。その様子だと戻る場所分かんなくなっちゃったんでしょ?」

「うっ・・・・・・。」

クスクスっと笑い、私の腕を掴むと、ほら行こうよ。と強引に引っ張って行こうとする。

「やっ・・・やめっ・・・。」

「なぁ、人の女をどこに連れて行こうっての?」

ふと振り向くと見慣れた姿が目に映る。

「・・・長瀬君。」

チッ、男連れかよ。と小さく呟くのが聞こえ、ふと腕から手が離れどこかに行ってしまった。

「うぇ〜ん。長瀬君・・・怖かったよぉ。」

「もう、勝手に行動するからだろ?目が覚めたらいないし・・・バカ美菜。」

「またバカって言うぅ。だって冷たいもの欲しかったんだもん。」

「それならそれで俺を起こせばいいでしょ?」

「起こしたら悪いかなって思って・・・それにすぐそこだったし、一人で大丈夫かなぁと。」

「・・・で、結果がコレ?」

ぶひっ。私はバツが悪くて俯く。

長瀬君はポンポンっと頭を軽く叩くとクスっ。と笑って、戻るよ。と言うと私の手を引く。

あぁあ。カキ氷をゆっくり食べようと思ってたのに・・・・・カキ氷。

「あぁぁぁぁっ!!」

「何だよ、突然変な声出して。」

「・・・・・・・・うぅっ。溶けちゃった。」

無常にも私の手に持たれてるカキ氷は赤い液体と化していて。

ひっ一口もまだ食べてないのに・・・・・。

半泣き状態になっている私を見て、長瀬君は困ったような表情を浮かべて呟く。

「そんなに食べたかったの?かき氷。」

「うん・・・食べたかった。」

長瀬君は、まったく。と言葉を漏らすと、店先に足を向けイチゴ味のカキ氷を手に持って私の元まで 戻ってくると手を繋ぎ、荷物の置いてある場所へと戻る。

・・・・・・・こんなに近かったのか。

改めて自分の方向音痴さを思い知らされる。私ってばどうしてこんな簡単な場所に帰れないのかしら・・・。 呆れて言葉も出ませんよ。

「あ〜ウマっ。やっぱ暑い時のカキ氷は美味いね。」

シートに腰を下ろし、ざくっざくっと氷を崩しながら、長瀬君は美味しそうにカキ氷を頬張る。

「・・・・・え。長瀬君が食べるの?」

「ん?そうだよ。美菜の見たら食べたくなったから。」

「私のカキ氷・・・・・・。」

「美菜は自業自得で食えなかったんでしょ?」

「ぅ・・・・・いじわるぅ。」

ぶぅっ。と頬を膨らます私を見て、おかしそうに笑いながら氷をひとさじすくうと私の口へと差し出す。

「嘘々。ほら、美菜あ〜んは?」

「あ〜〜〜っん!ん〜、ひっひめはい。」

「クスクスッ。でっかい口・・・美味しい?」

「ん。冷たくて、おいしぃ!!!」

満面の笑みが私の顔から漏れ、それにつられて長瀬君も、よかったね。と微笑む。

あぁぁっ。もうっ幸せ!!



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