*Love Fight






  5 




一旦私たちは岸に上がって休憩を取ってから、再び海に繰り出し今度は浅瀬でビーチボールなどで 心行くまで遊んだ。

途中から恵子と柊君も加わり、水を掛け合ったりボートに乗って沖の方まで漂ってみたりして本当に 楽しかった。

すっごく楽しいなぁ。このままずっと一緒にいられたらいいのに・・・。

楽しい時間程、あっという間に過ぎてしまうものよね。気が付けば海はオレンジ色に染まり始め周りに いた人達も帰り支度で忙しそうにしている。

私達もそろそろ着替えようか。と言う話になって自分たちの荷物をまとめると、男女別れて更衣室に向かう。

空いているシャワー室を見つけて恵子と2人で入り、簡単にシャワーを浴びバスタオルを体に巻きつけ 外に出る。

「楽しかったね、美菜。」

「うん!すっごく楽しかったぁ。」

「そりゃあねぇ、長瀬とあんな公衆の面前にもかかわらず熱烈キスをしちゃえばねぇ。」

・・・・・・・・・・。

ニヤリと笑う恵子に真っ赤な顔になりながら、「見てたの?」と聞くと「見えたの。」と意地悪く 返されてしまった。

うっ・・・。やっぱり見えてたんだ。浮き輪から顔を出した時に周りの反応が少〜し違うような気が してたんだよね。

あぁ。はっ恥ずかしい!!穴があったら入りたい・・・今からじゃ遅いけどさ。

私は言葉も出せず俯きながら着替えを出し、そこではたと気付く。

・・・・・しまった。

「ブラ・・・・・忘れた。」

いや〜ん。今日は家から水着で来たから、着替えは絶対忘れないようにってショーツはしっかり持って 来たのにブラを忘れたぁ!!

ガ〜ン・・・ショック。

「いいじゃん。ブラくらい。カバンで隠しとけば何とかなるって。今日は後帰るだけだしさ。」

「そっそりゃそうだけど・・・でもでも、今日着てきたキャミソールって結構ぴったりしてるから 形が出ちゃうよ・・・。」

「むふふ〜。更に長瀬の欲求不満度アップ!!だわね。」

「どわっ!なっ何て事を言うのよ、恵子。」

私はクスクス笑う恵子を軽く睨み、頭を抱える。

うぅ。どうしよう。――――頭を悩ました所で解決策などないんだけど・・・。

長瀬君達はもう着替え終わって外で待ってるだろうから、仕方なくカバンを抱えて出る事にした。

ばッバレませんように・・・・・。



***** ***** ***** ***** *****




案の定、外へ出ると2人は着替え終わっていて外で待っていた。

どわぁぁ。何か変に意識しちゃうよ・・・水着の時は何とも思わなかったのに。

上半身裸で外を歩いている気分だよ。

私はカバンを抱きかかえ、俯いたまま2人の所まで歩み寄る。

横では恵子がクスクスと忍び笑いをしながら、お待たせ〜。と2人に向かって手を振る。

笑うなって・・・バレちゃうじゃないぃ。

「美菜、どうしたの?」

私の様子に気が付いた長瀬君がそっと視線を合わせてくる。

「へっ?わっ・・・なな何にもないよ?」

「そう?何か元気ないみたいだけど・・・。」

「きっ気のせいだよぉ。元気、元気!!」

私は両腕を上げてガッツポーズを取ろうとしたところで、慌てて腕を戻すと再びカバンを強く抱きしめる。

あっ危ねぇ危ねぇ。

「美菜?」

「な・・・何ですか?」

「何隠してんの?」

「・・・・・なんも隠してませんよ?」

「朝も言ったよね?美菜の考えてる事は分かるって。何か隠し事してるでしょ?」

あぁ、もぅ。深く突っ込まないでぇ!!

あ〜う〜。と言葉を濁していると、柊君と話していた恵子が突然割って入ってくる。

「ね、夕日が綺麗だからさ。浜辺を散歩しようよ。」

・・・・・は?恵子、あんた鬼ですか?何てことを言い出しちゃってくれちゃってるのよ!!

私の今の状況を知ってる癖に、 こんな状態でどう夕日を楽しめと?んな、無茶苦茶なぁ。

ふと2人を見ると、ニヤニヤと笑っている・・・何企んでるの。

嫌がる私を無理矢理浜辺まで連れ出すと、じゃぁ後でねぇ。と言葉を残し、恵子&柊カップルは2人して 手を繋いでどこかへ行ってしまった。

いや・・・だからね、お2人さん。今ココで長瀬君と2人っきりにされると非常に困る訳ですよ。

「美菜も持ってるカバン、ココに置いておけば?目の届く所ぐらいまでで散歩すればいいから。」

「おわっ・・・こ、これは財布とか入ってるし・・・自分で持っとく。」

「じゃぁ、俺が持とうか?」

「い〜え!だだ大丈夫でっす!!自分で持つ・・・・・。」

「・・・・・・なぁ、何隠してるの?変だぞ。」

「だから・・・何も隠してないってぇ。」

半泣き状態で訴えると、はぁ。と彼は大きくため息を付き、まあ、いいや。と呟くと私の手を引き 恵子達とは反対方向の浜辺を歩き出す。

当然私の片腕にはしっかりとカバンが納まってる訳だけれど・・・。

長瀬君に手を引かれるまま、少し窪んだ岩場にたどり着くと腰を下ろす。

辺りには人の気配もなくて、窪地になっているせいで周りからも遮断され2人だけのプライベート ビーチみたい。

そこから広がる海がオレンジ色に染まっていてとても綺麗で。

「うわぁ。すっごく綺麗。」

思わず私の口からそんな言葉がこぼれる。

私が夕日に見入っていると、長瀬君がカバンを抱きかかえる私を見て不思議そうに呟く。

「そのカバン、そんなに大事なモノが入ってるの?」

「・・・・・え?」

「ずっと抱えたまんまだけど・・・。」

「えっ・・・えへへへっ。そっそんな、感じ?」

あ〜〜だ〜〜もぅ・・・ヤバイってぇ。このままだとバレちゃうよぉ。

私は笑って誤魔化すと、海綺麗だよねぇ。と話を逸らす。

しばらく沈黙のまま海を眺めていると、ふと私の耳にカサカサカサッ。と言う音が聞こえてくる。

ん?カサカサカサって・・・・・・・・・・っ!!!!

音のする方へ視線を向けると黒い物体がゴソゴソと岩場を移動しているのが目に映る。

――――ごっゴキブリ!!?

「きゃぁぁぁぁっ!!ごっゴキブリぃぃ!!!いやぁん。」

私は持っていたカバンを放り出して飛び上がる。

ダメなの、ほんとダメなのよ。ゴキブリだなんて・・・なっ何で海にいるのよぉ。

慌てふためく私をなだめるように、長瀬君が呟く。

「美菜、あれはゴキブリじゃなくてフナムシっていうんだよ。」

「フッフナムシ?」

「クスクス。そう、ゴキブリじゃないって。」

「やややっ。ゴキブリじゃなくても怖い・・・いやぁぁぁ。」

「もう大丈夫だって。美菜の声に驚いて向こうがどっか行ったよ?」

そう言っておかしそうに笑うと、私の腰の辺りに両腕をまわしクイッと引き寄せる。

「ひゃっ!!」

咄嗟の行動って何するかわからないわよね。私ったらさっきのフナムシとかいう虫のお陰で、 カバンを放り出して長瀬君の首にしがみ付いてるんだから・・・しかも引き寄せられたせいで 彼の膝の上に座る格好になってるし。

「ねぇ、さっきから美菜の様子がおかしかったのはコレのせい?」

「・・・・・・え?」

長瀬君の視線の先――――どわっ!しまったぁ・・・ばっばれちゃったよぉ。



←back top next→