*Love Fight






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唇が離れても、私はしばらく動けないでいた・・・彼に支えてもらわないと立ってられなくて。

腰砕け状態――――なんで・・・今までそんなキスなんてした事なんてなかったのに。

動揺している私をよそに長瀬君は、ご馳走様。なんて言ってのけるんだよ?

何がご馳走さまなんですかぁ!!こんなに人がドキドキして仕方ないのにぃ。

だけど、キスだけでもこんなに違うものなの?だってだって足が今もガクガクしてて震えてるんだもん。

どうしたらいいの?・・・私の頭がついていかないよぉ。

私は何とか落ち着きを取り戻すと、長瀬君に支えられながらみんなの所に戻った。

みんなは席から離れて中央に設置してあるビリヤード台に集まって盛り上がっている。

長瀬君も途中で呼び止められて、修吾もやろうぜ。と引き込まれていった。

私は――――立ってるのもやっとだったから、とりあえず席に戻って休むね。と言ってみんなから 見えない位置に、はぁぁぁ。と大きなため息と共に腰をおろした。

長瀬君はどうして平気な顔してられるの?私なんてまだドキドキが治まらないよぉ。

心臓がそこら辺に落っこちてないかしら・・・。

震える手でテーブルに置かれている新しい飲み物を取ると、くいっと口の中に運ぶ。

うげぇぇぇっ。苦っ!!

これってお酒じゃない!?・・・わわわっ。こんな所を長瀬君に見つかったらまた何されるか。

私は慌てて後ろを覗き込み、長瀬君の位置を確かめる。

視線の先には、柊君達と楽しそうにビリヤードをしている彼の顔。

よかった・・・見られてない。安堵のため息を漏らして向き直ろうとした瞬間彼と目が合う。

ひぇぇぇぇっ!!目が目が合っちゃったよ。

私は思いっきり笑顔を振りまくと、さっと向き直った。途中彼の目が一瞬細くなった気がしたけど ・・・きっ気のせいだ。うん、バレる訳がない。あそこからじゃ、ここは見えないもん。

なんか、長瀬君と付き合い出してから心臓がドキドキしっぱなしで、こんなんじゃ持たないよ

――――今度『救心』でも買いに行こうかな。

そんな事を真剣に考えていると、ふと私の目の前に影ができる。



***** ***** ***** ***** *****




「修吾ってばどうしてあんたみたいな子供なんかと付き合ってるのかしら?」

修吾・・・・・?

見上げると、腕を組み立ちはだかるように私の前に姿を見せる綺麗な女の人。

うわぁぁ。祥子さん・・・て、今『修吾』って呼び捨てにした?さっきは『君』がついてたよね? 本人がいない所では呼び捨てですか・・・。

な〜んか、嫌〜な予感がします。

「あ・・・へっ・・はい?」

「だからぁ、どうして修吾はあんたみたいなのと付き合ってるのかって言ってんのよ。」

あんたみたい・・・みたいって。

祥子さんは長いストレートの髪の毛をかきあげながら、ふんっと私を見下ろす。

うげぇ・・・同じ綺麗だけど、祥子さんは恵子と違って何か棘があるなぁ。全身から真っ赤なオーラが 出てるみたい。性格キツソウ。

「どうしてって言われましても・・・どうしてでしょう?」

「ほんっと、自分で似合ってると思ってるの?修吾の横にいてさぁ。図々しいにも程があると思わない?」

「ずっ図々しいって・・・そりゃ、私も長瀬君がこんな私と付き合ってくれてるなんて不思議に思って ますけど・・・」

なっなんか腹が立つぞ?図々しいってどういう意味よぉ。しかも同級生なのに、なんで私敬語なんだぁ?

恵子が『私、嫌いなんだよね。』って言ってたの分かる気がする。

私は滅多に人を『嫌い』って思わないんだけど、祥子さんは嫌い・・・かも。

「『不思議』じゃなくて、『おかしい』でしょ?彼みたいな人にはあんたは不釣合いよ。」

「やっ、そんなはっきりと・・・。」

「こうでも言わなくちゃ分からないでしょ?あんたって。鈍そうだし。」

グサッ――――思いっきり刺さりましたよ、今。

「修吾ってばどこがいいのかしら、こんな子供みたいな子。」

グサッ。

「――――頭がいいわけでもないし。特別かわいい訳でもないし。」

グサッ。グサッ。

「おまけに超が付くほどドジだし。」

グッサーッ!!最後にでっかいのが刺さりましたよ。何もそこまで言わなくても・・・。

「悪い事は言わないわ。別れなさいよ、彼と。」

「はい?なっ何でですか。」

「ここまで言っても分からない?ほんっと鈍いわね。さっきも言ったでしょ、不釣合いだって。 彼みたいな人には私の方が似合ってるのよ。修吾もそう思うはずだわ。」

うっわぁ。すっごい自意識過剰・・・そりゃ、私よりも数段綺麗な祥子さんだから納得しないわけでも ないけれど。私だってずっと片思いしてたんだもん。別れるなんて・・・考えられないよ。

「別れるなんて・・・できません。」

「ふぅん。随分強気に出るのね。勝てるとでも思ってるの?」

「勝つとか負けるとかって・・・そんな、争うつもりはありません。ただ、長瀬君が私を好きだって言って くれている以上は別れたくないです。」

「ほんと、言ってる事もお子ちゃまねぇ。どうせ修吾とはキス止まりなんでしょ?」

「それはっ・・・・・。」

「クスッ。付き合ってるのにキス止まりなんて考えられないわ。修吾も面白がって付き合ってるだけ なのよ。あんたみたいな子がめずらしくってね。あんたがお子様だから手を出さないのよ。女として 見られてないって事。」

「ひどっ。」

何もそこまでズケズケと・・・そりゃ、私はお子様ですよ。さっきのキスだってすごい動揺しちゃったし その先なんてまだまだ考えられないけど――――『いつかはって思ってるから』そう言ってくれたもん。 すぐって訳じゃないけれど、私をそういう対象として見てくれてるって事でしょ? どうしてここまでこの人に言われなくちゃいけないの?

「心配しなくってもあんたから奪ってあげるから。心づもりしとく事ね。どう考えたって私の方が いいに決まってるんだから。」

「そっそんな・・・。」

祥子さんは、フッと含み笑いを残してこの場を離れて行ってしまった。

ちょっちょっと。言いたい事だけ言って・・・・・言い逃げだぁ。ひどいよ。

取り残された私に重い空気が圧し掛かる。

どうしよう。ものすごく不安。

長瀬君も祥子さんみたいな綺麗な人に迫られたりしたら・・・行っちゃうのかなぁ。 どう考えたって私はお子様だし、何やってもドジするし祥子さんに勝てっこないし――――。

なんか・・・ネガティブだぁ。考えれば考える程落ち込んでいく。

どうして、どうして長瀬君はこんな私と付き合ってくれてるの?本当に私でいいの?

奪ってあげるから――――祥子さん、私から長瀬君を奪っちゃうの?

やだやだっそんな事。私はどうしたらいい?もっと大人にならなくちゃいけない?

ねぇ、涙が出てきそうになっちゃうよ。

さっきのキスの時のふわふわする気持ちとは一転して奈落の底に落ちていく気分。


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