*Secret Face










しばらく経って、洗面所で稼動していた乾燥機がピーピーと終了の合図を鳴らす。

「あ、服出来上がったみたい。」

「お前さ〜。ずっとコンタクトにしてりゃ結構いい女なのに、何で学校では眼鏡なんだよ。」

乾燥機の様子を見に行こうと立ち上がった姫子の後姿に問いかける。

「え〜?・・・あはは、学校一かっこいい藤原君に言われると、すごく嬉しい言葉やね。」

乾燥機から新一の洋服を取り出し、部屋に持ってきた姫子はくすっと笑う。

「学校一って・・・俺は別にそうは思ってね〜けど。こんな顔のどこがいいんだか。」

「そう?すごい人気じゃない。ジャニーズみたいな顔だし?次から次へと彼女が変わるし。」

「・・・・・人を野獣みたいに言うな。それに、それは俺から誘ってる訳じゃね〜。」

くすくすっと笑っている姫子に対し、少し不機嫌そうに新一は呟く。

「あはは、ごめんごめん。そんな怒らんとってよ。ね、・・・藤原君てさ、本気で人を好きになった事ある?」

突然の姫子の問いかけに、新一はドキンとした。

正直、新一は今まで本気で人を好きになって付き合った事など一度もない。ただ単なる遊びの付き合いだったと言っても過言ではなかった。今の彼女も。

顔を目当てに寄ってくる彼女達に恋愛感情など生まれる筈もなく、いつしか人と付き合う事はこんなもんなんだと勝手に思い込んでいる新一がいた。

「・・・何だよ、突然。・・・・・顔だけ目当てに来る女に本気になれる訳ないじゃん。」

「ひどいな〜。今までも今の彼女も全部遊びか〜?」

少し目を細め、姫子が新一の顔を覗き込む。

「ひどいのはどっちだよ。向こうが勝手に顔がいいからって寄ってきたくせに、中身が理想と違うと、すぐ去っていくやつにどう本気になれってんだよ。」

怪訝そうな顔を浮かべる新一に対して、姫子はそっか〜、と言って少し笑うと徐に口を開く。

「私ね、中学の時すっごく好きな子がいたの。それで、勇気を出して告白したのよ。そしたら彼も、私の事好きって言ってくれて、付き合うようになってね。すごく嬉しかった。だってものすごく好きだったから。外見も中身も全部。だから毎日楽しくって!!でもね、何度目かのデートの時、うっかりコンタクト落としちゃって仕方なくこの眼鏡姿で会いに行ったら、彼何て言ったと思う?『え?お前そんな顔で出てくんなよ。一緒に歩くと恥ずかしいだろ。』って言うんだよ!!私にしたら、眼鏡でもコンタクトでも小暮姫子は小暮姫子の顔だよ?その時、あ〜この人って私の全部を好きになってくれてた訳じゃなくて、『顔』が好きだったんだぁって。も〜ショックでさ、私のピュアなハートはズタボロ!!その後すぐ別れちゃった。」

(ぷっ・・・・・ピュアって・・・こんな場面で使うかよ、普通。)

真面目な顔をして、そんな言葉を口にする姫子を見て、新一はおかしくてたまらなかった。

「あ、今馬鹿にしたでしょ!!」

「いや、別にしてね〜けど?」

「絶対したっ。口元歪んでるっつうの!!」

うにっと新一は姫子に頬を軽く抓られてしまった。

「ばっ、してね〜っての!!」

途端に自分の頬が少し熱くなるのがわかる。

(えっ・・・何で、俺赤くなってんだよ。うわっ・・・脈拍も速くなってるし・・・)

新一が今まで感じた事のなかった感覚に戸惑っているのに姫子は気付かず、

「だからね、これからは『顔』で好きになってもらうんじゃなくて、中身を好きになってもらいたいと思って、高校からは眼鏡にしたの。お陰で、バイトする時に変身できるし。でも学校では全然声かけてもらえなくなっちゃったけど。」

えへへっ、と困ったように笑う。



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