*Secret Face 姫子の住んでいるアパートに着く頃には2人共全身ずぶ濡れになっていた。 途中、何度も振り返り姫子の家までの道を聞きながらだったので、余計に時間がかかった。 「いや〜ん、もうビショビショ。あ、藤原君上がってって。ずぶ濡れになっちゃったから、うちで乾かして帰りなよ。」 「あ?こんな時間だから、いいよ。このまま帰るわ。俺ん家、こっから近いし。」 「私、一人暮らしだから気兼ねしなくていいよ?ここの2階なんだけど、そのままだったら風邪ひいちゃうし。まだ止みそうにもないからどうぞ。」 にこっと笑うと、姫子は先に階段を上って行く。 (え・・・・・何でこいつ、一人暮らしなんだ?) 疑問に思いながら、まだ降り続きそうな空を見上げ、姫子の言葉に甘えて家に寄ることにした。 招き入れられた姫子の部屋は1Kタイプで3帖ほどのキッチンとベットなど必要最小限の物しか置かれていないようなすっきりと片付いた洋室だった。 カーテンとベットカバーは女の子らしく、ピンクで揃えられている。 部屋に入り、中を見回していると姫子がタンスからごぞごそとバスタオルを出してきて新一に差し出した。 「お風呂、シャワーでよかったら使って。お湯溜めてると時間かかっちゃうし。雨にあたって気持ち悪いでしょ?着替えはうちのパパが昔使ったやつがあるから、それでサイズは合うと思うんだけど・・・Lサイズの上下。」 はい、ど〜ぞ。と姫子はバスタオルと着替えを渡す。 「い〜よ。俺は後で。お前ん家なんだから、お前が先入ればいいだろ。」 「藤原君はお客さんなんだから、先に入るのが当然でしょ?ほら、さっさと入っちゃって。後、濡れた衣服はそこの乾燥機に入れてくれたらいいから。シャンプーとかも適当に使って。」 そう、姫子に捲くし立てられ新一は先にシャワーを浴びる。 (何でこんな事になっちまってるんだろう・・・) 気温が高くなって来たとはいえ、雨に打たれて冷えた体に温かいシャワーは有難かった。 シャワーから上がり、姫子の出してくれたTシャツに短パンを穿き、バスタオルで頭を拭きながら部屋に入ると交代で姫子がシャワーに入って行った。 新一はソファーに座り、流れているテレビに目を移す。 (しっかし、何にもね〜部屋。シンプルすぎっつうか・・・。) 新一は、シャワーを浴びている間に姫子が用意してくれていたジュースを飲みながら、 改めて部屋をみまわした。 (ん?写真・・・誰だ?これ。) ソファの横に置かれた小さなテーブルに写真立が二つ。 一つは綺麗な女性が一人優しくカメラに向かって微笑んでいる。 もう一つは親子なんだろうか、男性が女性の肩に手をまわし、その女性の膝の上には小さな男の子がちょこんと座り白い歯を覗かせている。 とても仲が良さそうなのが伝わってくる。 「・・・・・それ、私の母親と新しい家族。」 シャワーを浴び終えた姫子がコップを片手に部屋に入ってきた。その表情は少し悲しそうで。 「は?新しい家族?って何だよそれ。」 聞きなれない言葉に、新一は少し眉を寄せる。 姫子は少し俯きながら、新一の隣に座るとゆっくりと口を開いた。 「ん?・・・ん〜とね、こっちの一人で写ってるのが私の母親。私が小学校の時に病気で他界したの。しばらくは父親と2人で暮らしてたんだけど、私が中学の時に美佐江さん・・・こっちの写真の女の人ね。この人と再婚するって事になって一緒に住み始めたの。結婚したから、当然の事なんだけど美佐江さんにパパとの子供が出来てさ。裕也って言うんだけど、これがむっちゃかわいいの!!もう、にこって笑われたら思わずぎゅってしたくなるくらい。」 姫子は微笑みながら、腕を自分の胸の前で交差させ、引き寄せる。 「でもね、いつの頃からか自分のいる場所がないような気がしてさ・・・別に美佐江さんにいじわるされたとかそんな事は全然ないんだよ?パパも美佐江さんも私を裕也と同じように接してくれていたし、大事にもされてたと思うんだけど。私がね、勝手にそう思っちゃって高校に入ると同時に一人暮らしをさせてもらうように頼んだんだ。」 「反対とかされなかったのかよ。」 「ん?もちろんされたよ。2人共大反対だった。何で家族なのに離れて暮らすんだ〜ってね。でも、最終的には私の気持ちも分かってくれて許可してくれたの。2人共引っ越す時はすごく悲しそうな顔をしてくれて・・・裕也なんて泣きじゃくってさ。へへ・・・ちょっと出るの辛くなっちゃったけど、自分の為にもパパの為にもこれでいいんだって思った。」 「・・・・・父親の為?」 「うん。ほら、私って母親に似てるでしょ?だからいつまでもパパはママの面影を感じなきゃいけないじゃない?だから。」 姫子は、美佐江さんの為にもね。と呟き、ふふっと笑う。 「連絡とか取ってんのかよ。」 「うん。ちゃんと取ってるよ。たまに一緒にご飯も食べに行くし。仲良くやってるよ。ただねここの家賃と光熱費とかは出してもらってるんだけど、食事代は自分で稼ぐからって言ってバイトやってるから、私が中々時間が取れなくってさ。」 「それで、事情があって・・・・・か。」 「え?あっ、うん。そうなの。だからバイトの事は絶対秘密にしておいてね。藤原君にバラされると私、餓死しなくちゃいけなくなるから。」 「餓死って、お前ね・・・・・さっきも言ったけど、別に誰に言うつもりもね〜けど。」 「んふ。藤原君なら大丈夫かなって思ったけど。」 姫子はにこっと微笑んだ。 「何でだよ。」 「ん?何となく。」 |