*Secret Face










「・・・・・・・・・・なぁ、お前何やってんの?」

ため息まじりに、新一は姫子に声をかけた。

「え?・・・何やってるって、バイク運転してるんですけど?」

「は??俺、歩いてるんですけど・・・」

「あれ、藤原君て歩くの早いんだね。私と一緒の速度じゃない。」

(ありえねぇ。ぜってぇありえねぇ〜。しかもバイクの意味ねぇし。)

「あ〜もう、お前バカじゃねぇの?何でバイクなのに、歩いてる人間と同じ速度なんだよ!!」

「え〜、そんな事言ったってこれ以上速度出すと怖いやん!!事故るって。」

新一は、やってらんねぇ。とでもいうように首を振る。

「お前、家どこだっけ?」

「え?南2丁目だけど?」

「は?南2丁目?」

(・・・・・俺ん家の近くじゃねぇか。)

「ちょっとバイク停めろ。」

「はい??」

「いいから、バイク一旦停めて降りろ。」

突然の新一の言葉に姫子は訳がわからず、首を傾げながら新一の言うとおりにバイクを降りた。

「な、何・・何何??」

姫子の不安そうな表情とは反対に、新一はニヤっと笑うと自分がバイクに跨った。

「え、えっ!!ち、ちょっと藤原君、ななな何やってんのよ!!何で藤原君が座ってるのよ??」

(しかも、しかも!!あの藤原君がニヤって笑ってるぅぅ!!あ、ありえないっ。見た事ない!!)

姫子は新一の考えられない行動と仕草に、驚きを隠せない。

「ほら、後ろ乗って。教えてやるよ、正しいバイクの速度。」

「えぇぇぇぇ!!!いやっ、別に結構です!私の速度で!!しかも2人乗りは禁止だよ!!」

「バイト禁止なのにやってる奴が言うセリフかよ。しかも平日この時間はポリもいないって。」

「うっ・・・それは学校の決まりであって、法律ではないもん。バイクは法律やん。」

「つべこべ言わず早く乗れよ。雨が降ってきちまうだろ。」

「うぬぅ。」

(・・・・・藤原君て、案外強引?)

姫子はしばらく唸っていたが、観念したのかしぶしぶ新一の後ろに跨った。

(ひえぇ〜〜。どうしよぉ〜〜。怖いよぉ。・・・・・神様・・・・・)



「おい、ちゃんとつかまっとけよ。振り落とされても知らね〜からな。」

新一はもう一度ニヤっと笑うと、エンジンを2回程ふかした。

「わわわわっ。ゆ、ゆっくり行ってよ。つ、つかまるって、ど、どこにつかまっとけばいいのよぉ。」

完全に怯えた顔になっている姫子の両腕を掴むと、自分の体に回させた。

途端に二人の体が密着し、新一の背中にTシャツを通して柔らかい感触が伝わってくる。

「・・・んじゃ、行くぞ。」

「う、うん。」

新一はもう一度エンジンをふかしてから、バイクを発進させた。

「うきゃぁぁぁ〜〜〜〜〜っっ!!!!!」

ぐんぐんと加速していく度に、姫子は悲鳴を上げていた。それと比例して新一に回す手にも力が入る。

(・・・・・く、苦し・・・)

さすがに耐え切れず、新一は信号で止まると後ろを振り返った。

「お前さ〜、いい加減速度に慣れろよ。あんまり締め上げるとさっき食ったもん出るだろ。」

「あっ、あ、ごめん。あまりにも怖くって・・・。」

そういって腕の力を弱める姫子の目には薄っすら涙がたまっていた。

(ちょっと調子に乗りすぎたか・・・泣いてるし。少し速度落としてやるか。)

そんな事を考えながら信号を待っていると、ポツッポツッと冷たい滴が新一の頬をかすめる。

(げっ。降ってきやがった。ちっ、本降りにならないうちに・・・・・・)

そう思った途端、ザーーッと大量の雨が落ちてくる。

もう一度姫子の方に振り返ると、

「速度落としてやろうと思ったけど、一気に帰るからな!」

雨音にかき消されないように、少し声を張り上げた。

「う、うん。」

姫子も覚悟を決めたように、しっかりと頷いた。



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