*Secret Face ベッドの中で俺の腕の中に納まる姫子から、散々責められた俺。 いや…俺だけのせいか? なんて、責任逃れを言ってみようかと思ったけど、どう考えても俺が悪い。 だから、素直に謝って姫子の体をぎゅっと抱きしめる。 こういう時に、俺って丸くなったよな。なんて思ってしまう。 以前は謝るどころか、相手の体調なんてモノを考える余地すら持ってなかったから。 今、考えると結構俺って酷い男だったよな。 「姫子…ごめんな。けど、宣言通り一回で今日は止めたから!」 「あんまり胸張って言える事じゃないけど?」 まぁ…ごもっともで。 でも、嬉しそうに微笑んで、お休み新一。と頬にキスをしてくる姫子に対して、姫子だってまんざらでもなかったんじゃねぇの?なんて、全く反省の色ナシの俺。 マジでいつかバチが当たるかもしれん、と心のどこかで思っていた。 姫子の温もりを感じながら、いつしか自分も深い眠りについていて、ちょうど薄っすらと夢を見始めた頃――――。 腕に感じる圧迫感に、徐々に意識が戻ってくる。 ……ん、何だ? おぼろげに開いた視界に、俺の腕を握りしめて苦痛に歪む姫子の顔が映る。 「ひめ…こ、どした?」 まだはっきりとしない意識の中、掠れた自分の声が耳に響く。 「し……いち。お腹……痛い。」 「え、腹が痛い?」 俺は頭を振って意識をハッキリさせると、腕を伸ばしてベッドサイドのテーブルに置かれている小さな照明を灯す。 灯りに照らされて、浮かび上がった姫子の顔。 苦痛に顔が歪み、額には脂汗が浮かんでいる。 その尋常じゃない痛がりように、俺の心臓が嫌な速度で高鳴り出す。 「姫子、大丈夫か?ちょっ…すげぇ脂汗。しかも熱もあんじゃねぇの?うわっ、マジどうしたんだよ…え、腹って…腹のどこが痛む?」 「わかっ…ないけど…んっ!右辺り…下腹全体が痛いっ…ような…んんっ!!いたっ…ぃ」 え、えっ…こういう場合ってどうすりゃいいんだよ、え…俺どうしたらいいんだ? 若干パニックに陥りかけている自分を何とか落ち着かせるように姫子の背中を撫でる。 生理…痛?いや、生理はこの間終わったとこだし、姫子はそこまで生理痛が酷い方じゃねぇ。 じゃぁ何なんだよ、この痛がりようは! 「……病院。」 ぼそっと呟くように言葉を出してから、くの字に折れ曲がって苦痛に耐えている姫子に向かって言葉をかける。 「姫子…立てるか?病院行こう…俺が連れてってやるから。」 「うっ…新一ぃ…痛いよ…」 「すぐ…すぐに病院に連れてってやるから、ちょっとだけ我慢できるか?っと…財布だけ持ってきゃ何とかなるか」 一人ブツブツと言いもって、急いで私服に着替えると、姫子の体を担いで玄関を飛び出す。 腕の中で痛そうに顔を歪める姫子。 その辛そうな表情を見るだけで、自分の中から焦燥感が溢れ出す。 早く…早く姫子を病院に連れて行ってやらなきゃ。 階段を駆け下り、一番下の段に姫子を一旦座らせて、原チャに跨りキーをまわす。 だけど、いくらまわしてもウンともスンとも言わない。 「くそっ!かかれよっ!!頼むからかかってくれって!!!」 何度懇願してキーをまわしてみても、静寂を破るエンジン音は聞こえなくて。 俺は、クソっ!と、言葉を吐き捨てると、バイクからキーを抜いて姫子に駆け寄る。 相変わらず、姫子の痛がりようは見てられなくて… こっから病院まで走ったら何分だ?……っつぅか、考えてる余裕はねぇ! 後から考えりゃ、救急車を呼ぶとかタクシーを呼ぶとか色々方法はあったのに、この時の俺はいっぱいいっぱいで、そんな単純な事すら思い浮かばなかった。 俺は背中に姫子を担ぎ、夜の道を駆け出した。 「姫子っ!大丈夫か?すぐに病院に着くからな!!頑張れよ!!姫子っ!!」 俺のTシャツの襟元をぎゅっと握りしめて痛みに耐えてる姫子に、ずっと言葉をかけながらひたすら走りに走った。 額から流れ落ちる汗もそのままに。 すぐに…すぐに病院に着くからな! 何で、何で急にこんな事が起こるんだよ。もしかして、俺が無理に姫子に迫ったから?バチが当たったのか? だったら姫子にじゃなく、俺にしろよ! 姫子に何かあったらどうすんだよ…万が一、大変な事になってたら、俺。 ごめん、姫子。無理矢理襲っちまって…あの時すぐに寝かせてやってたらこんな事にはならなかったかもしれないのに。 ごめん、姫子…本当にごめん! 静寂に包まれた闇の中、点々と寂しげに灯る灯りに照らされて、姫子に呼びかける俺の声と、足音だけが響いていた。 |