*Secret Face






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――――・・・マズイな。

昨日、どうやら俺の後をつけてきてたらしく、あの2人組に俺と姫子の事がバレてしまった。

アイツらは、『嘘、信じらんない。なんでアイツなの?』などと姫子を睨みながら呟き、俺が立ち上がって文句の一つでも言ってやろうと一歩踏み出た所で、慌てた様子でどこかへ走り去ってしまった。

きっとあの様子じゃ、今日学校で言いふらすんじゃねぇか?

そんな不安に苛まれながら教室に入ると、案の定教室の中でも外の廊下でも女達のヒソヒソ話で溢れかえっている。


  『えーっ!うっそぉ。あの子?あの眼鏡の子と藤原君が?』

  『らしいよ。昨日公園でキスしてるとこ見かけたらしいもん。』

  『えー、やだぁ。藤原君、あんなぶっさいくのどこがいいのかしら?』

  『だよねぇ?藤原君も趣味悪いよね。っつうかさ、普通に考えたら藤原君があんな子を相
  手にするとは思えないんだけど。』

  『あ、それ私も思うー。アイツ、どうやって藤原君に取り入ったのかしら?』

  『顔が冴えない分、あっちの方で取り入ったんじゃない?大人しそうな顔して、やる事や
  るわよねぇ?』

  『サイテー。』


・・・・・全部聞こえてるんだけど。

勝手な憶測でモノを言い合う奴らに対して憤りを感じながら視線を姫子の方へ向けると、無表情に近い顔で席に座って俯いている姿が目に映る。

・・・姫子。

俺は姫子と俺を交互に見ながら、そんな事を口々にこぼすやつらに我慢出来なくなって、机を蹴飛ばし立ち上がろうとした。




「――――・・・あんたが小暮 姫子?」

遠い昔に聞いたような声・・・香水とタバコ臭いあの女。

俺の見据える先に、以前付き合っていた女が姫子の席の前へ立ちはだかる。

あのヤロッ・・・今更何しに来やがったっ!!

ガタンッ。と音を立てて立ち上がる俺に、少し視線を向けてから姫子を見下ろす。

今まで騒いでいた奴らも、この状況に一瞬にして押し黙り行く末を見つめる。

次の瞬間、パンッ。と乾いた音と共に俺の目の前で姫子の顔が横に弾かれ、その反動で眼鏡が床にカシャッ。と小さな音を立てて落ちる。

落ちた眼鏡を上から踏みつけて、ヤツは髪の毛をかき上げた。

それを見た途端、俺の中で何かがプチンッ。と切れて、反射的にヤツに駆け寄り胸倉を掴んで引き寄せ拳を作る。

「てめっ!姫子に何しやがんだっ!!殴る相手が違うだろうがっ!!!」

「何よっ。シンが本気になった子ができたって言うから私、諦めたのに。よりによって何でこんな眼鏡ブスなのよ。どう考えても私の方がいいでしょ?信じられないっ!こんなの、私のプライドが許さないっ!!殴って当たり前でしょ?コイツは私からシンを奪ったのよ?」

「コイツが奪ったんじゃねぇ。俺が先にコイツに惚れたんだ。殴るなら俺を殴れよ。姫子には関係ねぇだろうがっ!!」

両手で胸倉を掴み直し、ジリッ。とそれを捻り上げると、慌てて姫子がその間に割って入ってくる。

「新一っ!いいの・・・付き合ってるの分かってて新一を好きになったのには間違いないんだから・・・殴られるのは当然だよ。」

「姫子・・・おまっ何言ってんだよ。」

「逆の立場なら、きっと私もそうしてただろうから・・・だから、いい。」

「よくねぇだろっ!俺のせいなのに、お前が殴られるのなんて・・・そんなの間違ってる。」

「ねぇ、シン。こんな地味な子のどこがいいの?何がいいの?私の方がいいでしょ?シンは自慢だったの・・・横を歩いてるだけで注目されて、羨ましがられて・・・私の自慢の彼氏だったのに。ねぇ、もう一度やり直してよ。」

「・・・・・ったんだよ。」

「・・・え?」

「そういうとこが嫌だったんだよっ!どいつもコイツも『顔、顔』って見せびらかす為だけに俺に近づいてきやがって。俺は見世物じゃねぇっつうんだよ。」

胸倉を掴んでいる手を離して、睨みつけていた視線を外す。

「・・・・・シン。」

「昔っから俺に近づいて来る女はお前のように俺の顔目当てに来る奴らばっかだった。だから、女と付き合うのなんて、こんなもんか。って感じで適当に付き合って、適当にヤれればいいや、って。そう思ってたけど、姫子に教えてもらったんだ。人を好きになるって言う気持ちを。人を好きになって自分が幸せな気持ちになれるって事、相手を幸せにしてやりたい、護ってやりたいって気持ちになるって事を。」

俺は心配そうに見上げる姫子の方へ視線を向けると、そうだよな?とでも言うように、姫子の頬を指の背で撫でてから、再び目の前に立つ女に向ける。

「お前は、俺と付き合ってる時何を見てくれてた?」

「え・・・何をって・・・その・・・。」

「何も見てねぇだろ?ただ横にいればいいってだけの存在だったんだろ?でも、姫子は違った。俺の顔よりも先に俺の事を見てくれて、俺さえも知らない俺の中身を見出してくれて・・・初めてだった、誰かの傍に居て居心地がいいって思ったのは。ずっとずっと傍にいてやりたい、いて欲しいって思ったのは姫子が初めてだったんだよ。」

「でも、私だってシンの事っ・・・。」

「あん時、突然別れてくれって一方的に言ったのは悪かったよ・・・ごめん。だけど、俺の姫子に対する気持ちは変わらないから。何を言われても俺は姫子と別れるつもりはねぇ。」

「・・・新一。」

俺は一呼吸おいてから、周りに立つ奴らに向けて言い放つ。

「お前らにも言っておく。俺は小暮 姫子に心底惚れてる。何を基準にとかそんなつまらねぇ理由じゃねぇ。小暮 姫子って言う一人の女に惚れてんだ。だから、姫子を傷つけるヤツは絶ってぇ許さねぇ。俺のこの気持ちを知っても尚邪魔しようっていうヤツがいんなら今すぐここへ出て来いよっ!・・・・・出てこねぇなら、二度と俺らの邪魔をすんな。」

一人一人の顔を確かめるように見渡しながらそう呟くと、各々が引きつった顔を見せたり、ビクッ。と体を震わせて俺から視線を逸らす。

その中に今回の噂を流した張本人、あの2人組の女もいて、気まずそうに俺から視線を逸らせて俯く。

「シン・・・変わったね。」

「あ?」

「昔のシンなら絶対謝らない人だったのに・・・何か、丸くなった気がする。それも・・・この子のお陰なの?」

「・・・・・あぁ。」

「そう・・・。どう頑張っても私が入る隙間はないって事よね?」

「あぁ、ない。」

女は俺のその言葉を聞いて暫く俯き、再び顔を上げると俺と姫子を交互に見つめてきた。

「悔しいけど・・・分かったわ。ここまで言われちゃ引き下がるしかないじゃない?あのシンがそう言うって事はそれだけ本気だって事だよね・・・応援なんてしてあげないけど、私を振ってまで付き合ったんだから別れたら承知しないから。」

少し諦めにも似た笑みを顔に浮かべてから、女は教室を出て行った。

――――・・眼鏡、壊しちゃってごめんね。と、言葉を残して。

それを見送ってから、周りにいた奴らも言葉少なめに方々に散っていく。

・・・俺もアイツの事、何にも見ちゃいなかったよな。香水と煙草臭いイメージしかなかったけど・・・案外いいヤツだったのかもしれない。

姫子の壊れた眼鏡を拾い上げ、それを彼女に手渡しながらそんな事が頭を過る。



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