*Secret Face






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「――――・・で?一方的に電話を切ってそのまま私の家まで来たって訳?」

恭子が呆れ顔で私を見下ろす。

私はあのままマンションを飛び出したのはいいけれど、行く当ても思いつかなくて気が付いたら 電車に乗って2つ駅向こうの恭子の家の前まで来ていた。

恭子はただならぬ雰囲気に最初驚いていたけれど、部屋に上がって私の話を最後まで聞き終わると 、まったく。と呟いてからお茶を取りに下まで降りて再び戻ってきた。

「だってムカつくでしょ?朝、起こしに行ってみたら知らない女の人と一緒にベッドで寝てた んだよ?しかも、半裸で!!それってどう考えてもエッチしたって事じゃない?」

「エッチしたとは限らないでしょ?ただ単に酔っ払って熱いからって脱いで寝ちゃっただけかも しれないじゃない。」

「だけど、あの部屋には女は私しか入れないって言ってたんだよ?」

涙目で必死に訴える私を見ながら、テーブルにお茶の入ったグラスを置いて自分も、よいしょ。 と呟きながら向かい側に腰を下ろす。

「その女の人が藤原とどういう関係かって本人に聞いたの?」

「・・・・・聞いてない。」

「もぅ、いつも冷静な姫子がどうしちゃったのよ。あんたも藤原の事になったら前後が見えなく なっちゃうわけ?一方的に決め付けて、藤原の話も聞かずに電話切っちゃったら、あいつ弁解の しようもないじゃない。」

「それって、恭子は新一の肩を持つって事?」

「そうじゃないわよ。そうじゃないけど、藤原の姫子に対する態度を見てたらそんな事するように 思えないのよ。あれだけベタ惚れなのよ?その藤原が間違いを犯すような事はないと思ってさ。」

「だけど、現に今朝一緒のベッドに寝てたもん。しかももの凄く綺麗な人で・・・あれだけ綺麗な 人だったら新一だって間違いを起こしちゃうよ。」

恭子は膝を抱えて蹲る私の頭に手を当てて、優しく撫でると、あのさ。と呟く。

「姫子がその現場を見てショックだったのは分かるよ?でも、きちんと藤原と話をしないとダメ なんじゃないの?そうやって意地張って、顔も見ない!って突っ張ってるだけじゃ何の解決にも ならないと思うけど?」

「嫌や。今は・・・見たくない。会いたくない。新一があの綺麗な人に触れたって思っただけで 泣けてくるもん。一緒にいたって考えただけで腹が立ってくるんやもん。」

私は膝に顔をうずめたまま、力なく呟く。

だって・・・ずっと不安に思ってたんだもん。

新一が違う女の人に行ったらどうしよう、って。

そうなったら私は捨てられちゃうのかなって・・・。

だから綺麗な女の人と寝ていた新一に、余計に腹も立ってくるし・・・泣けてもくる。

――――新一・・・あの人に触れないで・・・あの人に笑いかけないで。

・・・・・あの人を抱きしめないで・・・。

私を・・・捨てないで。

複雑な心境が私を包み、暗闇の渦へと引きずりこむ。



+   +   +   +   +




私が恭子の家に来てから2時間余りが過ぎようとしていた。

一旦気分が落ち着き、今日の授業の事などに話題が逸れ始めた頃、恭子の携帯の着信音が鳴る。

ちょっとごめんね。と、私に向かって呟いてから携帯を持って部屋を出て行く。

泣いたせいで、熱を持って腫れぼったくなっている瞼に恭子が新たに入れてくれた氷の入った グラスを当てていると程なくして彼女が部屋に戻ってきた。

「ごめ〜ん、姫子。これから彼氏に会う事になっちゃって・・・。」

「あっ!そっかぁ・・・うん、ごめんね。大分落ち着いたから私、帰るね。」

「ほんと、ごめん!!」

「ううん。話聞いてくれてありがとう。」

カバンを持って立ち上がる私に、恭子は、

「ねぇ姫子。藤原とちゃんと話ししなさいよ?それで、仲直りしなさい。」

と、優しく微笑んでくる。

「ん〜・・・。」

私はそう言葉を濁して部屋を出た。



+   +   +   +   +




恭子は玄関先で、出かける準備するからここでね。と言葉を残して家の中に入っていった。

それを見届けてから一つため息を付き、重たい気分と共に歩き始める。

2.3歩恭子の家から歩いた所で、すぐ先の壁に背中をもたれかからせて立っている影が目に映る。

その顔を確認して、一瞬私の息が止まる。

「し・・・んいち。」

新一は無言のまま私に近づいてくると、徐に腕を掴んできた。

その表情からしてかなり怒っているようで・・・。

何よ、私が怒ってるんだから。

「やっ!もぅ、離してよっ!!」

「お前、どんだけ探し回ったと思ってんだよっ!!」

「探してなんて頼んでないやん!顔も見たくないって言うたやろ?触らんといてっ!話しかけん といてよっ!!」

・・・・・違う。そんな事言っちゃダメなのは分かってる。

だけど、込み上げてくる怒りは治まっちゃくれいない。

私は、ぶんぶん。と、掴まれた腕を振り、無理矢理新一の手を払いのけると顔も見ずに走り出す。

「姫子、待てって!!」

「嫌!ついてこないでよっ!!」

「ったく、足で俺に勝てると思ってんのかよ。」

難なく私は新一に捕まると、後ろから腕を引っ張られその反動で新一の方に体が向いた所で 両腕を掴まれて近くの壁に背中を押し付けられる。

「痛いっ!」

「お前、いい加減にしろよっ!」

「いい加減にするのはどっちよっ!人の気も知らないで!!」

言ってて涙が溢れ出してくる。

だって悔しくて仕方ないじゃない。あんな姿を見せ付けられて、のうのうと私の前に出てくる新一が。

「人の気も知らないでって、俺の気はどうなんだよ。どんだけ探し回ったと思ってんだ。いきなり 顔も見たくないとか言って電話切られてよ、何度かけ直しても電源切ってやがって繋がんねぇし、 訳分かんなくてお前ん家行っても蛻の殻。学校行って、バイト先行って、家に帰ってるかもしんねぇ ってもっかいマンション戻って。それでもいねぇから、麻田ん家まで来て電話したんだからな。」

電話・・・もしかして、さっき恭子に掛かってきた電話って。

恭子はだから突然彼氏と会うなんて言って私を帰らすようにしたの?



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