*Secret Face 突然、鈍器で頭を殴られたような衝撃が私の頭を貫く。 実際殴られた訳ではなく、そのような感じ・・・なんだけど――――。 今朝はいつもより早く家を出て、学校に行く前に新一の家に向かった。 新一のご両親が出かけてて家にいないらしく、朝起こしに来てよ。と言われたので、新一から 家の合鍵を預かり、そして起こしに来たって訳。 新一は私が前に、「同棲みたいにずるずるなるのは嫌。」と言ってから、平日は自分の家に帰る ようにしてくれてるの。 まったく新一ったら。一人で起きられないのかしら?・・・って、起きられないわよね。 新一の寝起きって凄く悪いからなぁ。いつも起こすのに一苦労だもん。 しかも寝ぼけてるクセに、抱きしめてきてキスをしてくるんだから・・・今日は気をつけないと。 「お邪魔しま〜す。」 と、誰もいない家の中へ声をかけて、そんな事を思いながら新一の部屋へと向かう。 何の躊躇いもなしに、新一の部屋のドアを開けた私の目に信じられない光景が映る。 部屋には飲み干されたビールの空き缶がそこらじゅうに散らばり、ガラステーブルの上にはワイン の空き瓶と飲みかけのグラス。 ドアを開けたと同時に、アルコールの匂いが鼻を突く。 その匂いに少々顔を顰めながら、一歩部屋に足を踏み入れて私の歩みが止まる。 ベッドの上には新一の姿・・・――――と、隣りには見慣れない女性の姿。 え・・・・・・? 一瞬私の中の時間が止まる。 誰・・・この バービー人形のような、ふわふわで少し金髪がかった髪。目鼻立ちが整っていてすごく美人。 寝顔だからよく分からないけれど・・・年上な感じの――――大人の女性。 布団からはみ出ている華奢な体は、どう見たってキャミソールとショーツしか纏っていない。 その女性が新一に寄り添うように寝息を立てていた。 「ど・・・いう事?」 私は小さく呟き、一歩下がる。 何とも言えない衝撃が体を走り、気が付いたら新一に声をかける事なく部屋を飛び出していた。 ――――・・どうして?なんで、新一? 部屋には私しか女は入れないんじゃなかったん? あの綺麗な女性は誰? 不安な気持ちが体を支配するのに、その場で新一を叩き起こして問い詰める事ができなかった。 ――――・・だって、聞くのが怖かったから。 以前から抱いている私の中の不安な気持ちが頭を擡げる。 もし、新一の前に綺麗な女性が現れたら・・・新一はその さっき見た女性も、もの凄く綺麗な顔をしていたよね。 ねぇ新一、私の知らない間にどこで綺麗な女性と知り合ったの? 綺麗だったから部屋に入れたの? 綺麗だから・・・一緒に寝るの? ――――『姫子しか俺はいらないから』 そう言ってくれてたはずなのに・・・。 私の瞳から止め処なく溢れ出す涙。 どうして・・・・・どうしてよ、新一。 その言葉だけが繰り返し私の頭を過る。 悲しくて・・・悔しくて――――私は学校へは向かわず家に帰り、ベッドの上に泣き伏せた。 いつの間に寝てしまったのか、気が付いた時にはもう午後の3時をまわっていた。 もう少ししたら今日の授業が終わる時間。 新一は起きて学校へ行ったのかしら・・・。 少し気になって携帯をカバンから出して確認すると、一通のメールが私が起きる少し前に届いて いた。 《姫子〜、お前起こしに来るの忘れただろ〜(T-T)今、起きたって。 今日はフけるしかないから、学校終わったら家来いよ。今日バイト休みだろ? 新一》 ・・・・・は? その文章を見て、私の中で何かがプツンと切れる。 何が学校終わったら家に来い、よ。新一のバカ!! 無神経にも程があるじゃない。 私の知らない女性と過ごした日に私を部屋へ招く訳? ・・・・・信じられない。 私は腫れぼったい瞼を擦ってから、返信ボタンを押す。 《新一なんて知らない!暫く口も利きたくないから連絡してこないで!! 学校でも話さないから。》 荒々しくボタンを押してメッセージを打つと返事を返す。 と、すぐに鳴り響く着信音。 ムカムカする気持ちを抑えつつ、出ようかどうしようか迷った挙句通話ボタンを押す。 『もしもし?姫子?おまっ、何言ってんの?冗談だろ?』 「冗談ちゃう。暫く新一と口を利きたくないから連絡して来ないで。」 私は努めて冷静な声を出すように努力した。 それでも新一の声が耳に届く度、今朝の風景が思い出されフツフツとお腹の底から怒りが湧き上が ってくる。 新一に対して・・・同じベッドで寝ていた女性に対しても。 『なっ?!どうしたんだよ、急に!・・・何かあったのか?』 「自分の胸に聞いてみればいいでしょ!!」 『ちょっちょと待てよ!何の事を言ってんのかさっぱりわかんねぇって。』 「分かんないですって!?ふざけないでよ!・・・新一の、変態っ!女ったらし!!」 『姫子!何だよ、その変態とかタラシとかってよ!!俺、何もしてねぇだろぉがっ。』 新一の声も訳が分からない、とでも言うように徐々に荒々しくなってくる。 何もしてない?――――あの状況を見て何もしてません。って言う方がおかしいわよ。 相手はキャミソールに下着姿だったんだよ? 普通から考えればどう見たって一夜を共にしましたって図でしょ? その言葉を聞いて、私の怒りも頂点に達す。 「とにかく今は新一の顔も見たくないし、声も聞きたくない!!」 『っんだよ、それは!!携帯で話してても埒が明かねぇ。今からそっち行くから待ってろ!!』 「来んといてっ!今は顔も声も見たくないし、聞きたくないって言うたやろ?新一が来るなら 私出て行く!!」 『おいっ姫子!ひめ・・――――』 プツン。プープープー・・・。 私は勢い任せで携帯を切ると、ついでに電源も一緒に落とす。 電源を落とした真っ暗なディスプレイ部を眺めながら、重たいため息が一つ出てくる。 どうして一言、『横に寝ていた女性は誰?』って言えなかったの・・・? 怒りが抑えられないでいるのに、その一言が発せられない臆病な私。 何よ・・・新一のバカ・・・私の・・意気地なし・・・。 近くにあったカバンを引っ掴むと、お腹の虫が治まらないまま私はマンションを飛び出した。 |