*Secret Face






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結局試合は(1−0)で相手チームが勝ったらしい。

俺は試合が終わってからコーチに呼び出され1時間程こてんぱんに絞られた。

手を出した俺に非があるわけだから仕方のない事だけど。

今回の件は向こう側も大目に見てくれるそうで問題にはならないようだ。

それがあいつ・・・原田 慶介の口添えによってというものが気に食わない点ではあるが。

チームの事を考えると何も言えなかった。

俺は制服に着替えるとカバンを肩にかけ、両手をポケットに突っ込み力なく自分の家まで重い足取り で帰っていた。

クソッ。何て最悪な日なんだ。

今朝はあんなに幸せな気分だったのに・・・・・。今だって本来ならば試合が終り勝ち負けは別 として姫子の家に寄ってから帰る予定だったのによ。

何だよ、このザマは。

昔の男が現れて、そいつにこの上なく嫉妬心を燃やして、その怒りを姫子にぶつけて傷つけて。

頬っぺたぶん殴られて・・・一人寂しく家に帰るってか。

姫子・・・今頃何してっかな。

帰る時も姿が見えなかったし、怒って先に帰っちまってるよな。

『バカ!!』

大きな瞳にいっぱい涙を浮かべてそう叫んで部室を出て行った姫子の顔が思い浮かぶ。

ほんと、バカだよな。俺って。

ガキみてぇに昔の男にイチイチ目くじら立てて怒ってよ・・・って、17ったらまだまだガキか。

苦笑を漏らしながら目先にある小石をコンッ。とつま先で蹴る。

昔の事なんてどうだっていいじゃん。俺にだって数限りなくある訳だし・・・。

今は姫子が俺の事を好きと言ってくれて俺も姫子の事が好きという気持ちが大事なんじゃねぇの?

あぁもぅ・・・こんな思いをするなら姫子と出会わなければよかったかもしれない。

俺の為にと言うより、姫子の為に。

いやいや、待てよ。それはいかんだろう。何よりも今の俺には姫子が必要な訳で・・・そうなれた のも姫子と出会えたからであって・・・・・

あぁ!もうチクショウッ!!

俺は整理のつかない頭を掻き毟り、いつの間にか家の前までたどり着いていた事に気づく。

そこで俺の足が止まり心臓がドクンッ。と一つ高鳴る。



***** ***** ***** ***** *****




「ひめ・・・こ。」

目線の先に家の塀に背中をもたれさせながら俯いて立っている華奢で小柄な姫子の姿が映る。

俺の声に気が付いたのか、ふと顔を上げこちらを見ると、バカ新一。と小さく呟く。

先程まで泣いていたんだろう。目が少し赤かった。

「いつまで待たせる気?」

「・・・・・へ?」

「1時間も待ったんですけど?」

「ごめん・・・こっぴどく絞られてた。」

姫子は俯き小さく呟く俺の傍まで歩み寄ると、そっと掌を頬に当ててくる。

――――先程姫子に叩かれた場所。

触れられた途端、ズキッ。と痛みが走ったような気がした。

頬ではなく・・・胸の奥。

「ごめんね。痛かった?」

「・・・・・すっげぇ痛かった。」

小さくクスッ。と笑うと、赤くなっちゃったね。と指先で優しく撫でてくる。

姫子はもっと痛かったよな・・・・・。

自分が発した言葉を思い返し、余計に胸の奥が痛む。

俺はその手を掴んで引き寄せるとそっと姫子の体を抱きしめた。

「ごめん、姫子。さっきは酷い事言っちまって・・・マジごめん。俺、お前の昔の男見たら抑え らんなくて。ガキだよな、アイツがもう一回姫子と付き合いたいだなんて言い出すからついカッと なって気が付いたら殴ってて、その勢いでお前にまでとばっちりを食わせてしまって。」

姫子は俺が話す間、何も言わずに俺の胸に顔をうずめて耳を傾けている。

「なぁ、姫子。俺がこんなにヤキモチ焼いてそのせいで姫子を傷つけてしまうくらいなら、お前と 会わなかった方がよかった――――。」

「・・・・・なんて言ったら今度はグーで殴る。」

「――――なんて事は言わねぇけども・・・。」

間髪入れずに突っ込まれ、つーっと冷や汗の様な物が俺の背中を流れたような感覚に陥る。

姫子の鉄拳・・・考えただけでも背筋が凍る。

俺の背中にまわされた姫子の腕に僅かに力が入ったような気がしたけど・・・気のせいか?

「俺は姫子なしの生活はもう考えらんねぇんだけど、姫子はそれでいいのか?また、いつお前を 傷つけてしまうかもしれねぇって思ったらさ・・・だって尋常じゃねぇだろ、今日の俺って。」

「うん。正直言ってびっくりした。あんなに感情を剥き出しにして怒ってるのなんて初めて見た から・・・。だけど、私だって新一なしの生活は考えられないんだよ?それはどうしたらいいの?」

「ん〜。じゃぁやっぱ一緒にいる?」

「いなきゃおかしいでしょ?」

そう言って俺を見上げてくる姫子に、だよな。と微笑むとちゅっ。と額にキスをする。

「そういえば、アイツ・・・原田はどうした?何か言って来たのか?」

「え〜?あ、う〜ん。でもその話はもう決着が付いたから大丈夫だよ?」

「決着ね。何言われたんだよ・・・・・。」

俺は姫子の体から離れると肩を抱き、家に招き入れながらそっと顔を覗きこむ。

「ん?ま・・・いろいろと。でも直に分かると思うよ?」

「っんだよそれ。今、言え!!」

「もぅ。だから直に分かるって。あっ。ほら見たいテレビ番組始まっちゃう!!」

何だか腑に落ちないまま姫子に急かされて家の中に入り自分の部屋まで向かう事になった。

何だよ・・・・・すっげぇ気になるんだけど!!



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