*Secret Face






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『もっかい付き合ってみたいなぁって思い始めてな。』

・・・・・は?

俺の思考が一時停止をする。

こいつ頭痛ぇんじゃねえの?今の姫子の彼氏である俺に向かってしゃあしゃあと「付き合いたい」 などとぬかしやがって。

「お前、何言ってんだよ。女いるっつってたろ。」

「あぁ。今の女とあんま上手くいってへんのよね。昔マジで惚れた女に再会して再び気持ちが燃え始め たぁって感じ?」

「ふざけた事ぬかしてんじゃねぇよ。姫子は俺の女なんだ。誰にも渡すつもりはねぇ。」

「そりゃあんたの意見やろ?姫の意見はどうやろうね?もしかしたら俺と同じ気持ちになってっかも しれへんやん?」

「ありえねぇ。」

言葉には出したものの、本当にあり得ないだろうか。と不安が過る。

何で不安になんなきゃなんねぇんだよ。

どうして姫子を信用しない?

いつも言われてんじゃねぇか――――『もう少し私を信用して』って・・・・・。

「あり得へんかぁ?」

「絶っ対ぇありえねぇっ!!それ以上何か言ったらぶん殴るぞ。」

「さっき携帯番号とメルアド教えてぇやって言ったら後で教えてくれるって言ってたで?それって 俺にちょっとは気があるっちゅう事ちゃ・・・・・・う・・ぃってっ!!」

プチンッ。と頭の中で何かが切れる音がして、気が付いた時にはコイツを殴ってた。

俺の目の前で口元を押さえて倒れ込むヤツの姿。

少し切れたのか口元から血が滲み出している。

ピーーーーッ!!!と言う笛の音と共に審判がやってきて、俺の目の前に赤い紙を突きつける。

「レッドカード!!10番っ退場っ!!」



***** ***** ***** ***** *****




俺はみんなの視線を集める中、どうしようもない怒りに苛まれながら無言のままグラウンドから 立ち去った。

そのままベンチに座る事無く、部室へと向かう。

後ろでコーチが何か怒鳴ってるけど今の俺の耳に届くはずも無く。

俺は部室までたどり着くと乱暴にドアを開けて転がっていたバケツを思い切り蹴り上げる。

ガシャンッ!と激しい音を立ててバケツがロッカーにぶつかり、落ちた反動で回転する。

「ちょっと新一っ!!どうしちゃったの?・・・ねぇ、何があったの?」

姫子が血相を変えて部室に走り込んできた。

心配そうな姫子の顔に、今は余計と怒りが込み上げてくる。

「っるっせぇ!!今、俺に話しかけんなっ!!!」

バンッ!と思い切りロッカーを叩き、乱暴にベンチに腰を下ろす。

「きゃっ!!」

姫子は両耳を押さえてビクッと体を強張らせると、その場に立ち竦む。

俺は固く目を閉じると頭を抱えてうな垂れる。

そんな俺の傍までゆっくりと歩を進めると、跪き心配そうに顔を覗き込んでくる。

「・・・・・新・・いち?」

「話しかけんなって言ってんだろ。」

「・・・何か言われたの?ねぇ、慶介に・・・何を言っ・・・ひゃっ!!」

『慶介』と言う言葉に反応し俺の髪に触れようとする姫子の手首を掴むと強引に引き寄せる。

姫子の体制が崩れ、地面に腰をつき俺を見上げる形になった。

「その名前を口にすんなっ!!お前、俺が初めてだって言ったよな?あれは嘘か?」

「へ・・・?な・・んの事?」

「アイツと付き合ってる時ヤル寸前まで行ったらしいじゃねぇか。俺、そんな話聞いてねぇぞ。」

「えっ?何・・・その話。ヤル寸前って・・・私は慶介とはキスしかしたことない!!」

「アイツはそう言ってたぞ!入れる場所が分かんなかったって。途中で挫折したってよ!!」

「なっ!嘘やそんなんっ!!ホンマに私は慶介とはそんな状況になった事はないもん。私がないって 言ってるのに、新一は慶介の言う事を信じるの?」

手首を掴む手に力が入り、いつしか姫子の瞳から涙が伝い落ちていた。

だけど一度出てしまった言葉からずるずると後から出てくる言葉を止める事ができない。

「そんなの分かんねぇじゃん。俺はその場にいなかった訳だし?しかも、アイツから携帯の番号と メルアド聞かれて後で教えるって言ったらしいじゃねぇか。何で教える必要がある?ねぇだろ? ・・・・・お前もアイツに気があるって事かよ。」

最後にぼそっと呟いた言葉に姫子の表情が訝しげに曇る。

「何をさっきから訳の分からないことを言ってるん?携帯とメルアドだって同窓会するかもしれん から教えてって言われたから後で教えるね、って言っただけだし・・・何?そのお前もアイツに 気がるって事かよって言うのは・・・。」

「アイツ、お前に気があるんだと。昔の恋人に会って気持ちが復活したってさ。お前もそうじゃねぇ の?昔マジで惚れた男と久しぶりに会って気持ちが復・・・っ!!」

パンッ。と乾いた音が部室に響き、俺の頬に痛みが走る。

「いい加減にしてよっ!!私がいつ慶介に気があるって言うた?そりゃ、中学の時は本当に好き やったよ?だけどそれは昔の事やん。今は本気で新一を好きやで?何でそれを分かってくれ へんの?何でそうやって人の言う事ばかりを信じて私の言う事を信じてくれへんのよっ!! 私の好きって言う気持ちは新一には届いてへんの?」

「ひめ・・・こ。」

大粒の涙を流しながら、俺に向かってバカッ!!と叫び、掴まれていた手首を強引に振りほどくと そのまま立ち上がって、何も告げずに部室を出て行ってしまった。

な・・・に、やってんだ俺。

・・・・・最低じゃん。

『もっと私を信用してよ。』――――あれ程何度も言われた言葉なのに。

姫子に叩かれた頬が熱を持ったように熱くて・・・・・すげぇ痛かった。



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