*Secret Face






  3  




ピーーーーーッ!!

軽快なホイッスルがグラウンドに響き渡り、試合が開始された。

先にボールを支配したのは向こうのチーム。

俺のチームのヤツもボールを奪おうと、必死でプレッシャーをかけ体当たりで向かっていく。

俺も試合中は必死だった――――絶対負けたくねぇ。

このチームと言うより『原田 慶介』と言う姫子の昔を知る男に。

子供染みていると言われればそうかもしれない。

そんな中坊の頃の姫子の男にヤキモチを焼いた所で何が生まれる訳でもないんだから。

終わった事・・・昔の事だと頭では分かってるけれど、心がついていかない。

俺が初めて本気で好きになった女を、俺よりも先に本気で惚れさせたヤツがいる。

そいつが目の前にいる訳で・・・俺自身どうにかなっちまったんじゃないかと思うくらい嫉妬心が 体中を駆け巡る。

『私ね、中学の時すっごく好きな子がいたの。』

付き合う前に聞かされたヤツの事。懐かしそうに話していた姫子の顔が蘇る。

『ものすごく好きだったから。外見も中身も全部。だから毎日楽しくって!!』

エンドレスでまわる姫子の言葉――――嬉しそうな声。

振り払おうにも纏わり付いて離れない。

クソッ・・・・・マジむかつく。

何だってんだよ!もう終わった事だろ?こんな事気にしてどうすんだよっ!!

姫子が昔アイツにマジに惚れてたからってどうだってんだ。

今は俺に惚れてるんだろ?・・・・・マジで俺に惚れてる?

途端に不安が襲い掛かる。

もし再会した事で、姫子の気持ちがヤツに向いたら?

もしアイツも女がいると言ってたけど、姫子に気持ちが傾いたら?

そうなれば姫子はヤツの方へ行っちまうのか?

俺は姫子を繋ぎとめておくだけの魅力なんてものを持ち合わせているのか?

そんな女々しい言葉が次々と浮かびあがる。



***** ***** ***** ***** *****




悶々と俺の中で繰り広げられる葛藤の中、試合は中盤を迎えていた。

ゲームは動く事なく、「0−0」のまま。

ボールを俺のチームが支配し始めた時、相手チームのマークが入る。

俺に付いたのは今一番近くにいたくない存在の、原田 慶介。

ヤツは不敵な笑みを浮かべながら、俺に執拗にプレッシャーをかけてくる。

「うっぜぇ。」

「クスクス。そりゃ敵チームとして?それとも姫の元彼やから?」

小バカにしたように笑いながら、ヤツは俺に話しかけてくる。

「両方。」

「うははっ。両方ってか。なぁ、姫ってむっちゃ女らしぃなったなぁ。あんたのお陰か?」

「ったりめぇだろ。俺以外誰がいるっつうんだよ。」

「ほぉ言ってくれるねぇ。なぁ、アイツ眼鏡はずした顔ってむっちゃ可愛いやろ?中学ん時は むっちゃモテててんで!!俺、付き合ってた時すっげぇ鼻高かったもんなぁ。しっかしええ女に なったわ。中坊ん時は思わんかったけど、今は眼鏡姿でもそそられる。」

視線を一度ベンチの方へ向けてから再び俺の視線に合わせてくる。

どこかしら挑戦的な視線・・・それがヤケに気に食わない。

「てめぇ、マジ喧嘩売ってんだろっ!!」

「おぉ怖っ。ホンマの事言うただけやん。あぁ、でも勿体無い事したわ。こんなええ女になるん やったらあん時別れるんちゃうかったわ。」

・・・・・何が言いたいんだ、コイツ。

あぁ、マジむかつく。クソッ!コイツのマークのお陰でボールがまわってこねぇし。

「お前が姫子を傷つけたんだろうがっ。眼鏡姿で出てくんなとか言ってよ。」

「クスクス。そんな事までアイツ喋ってんの?あぁ、そんな事もあったなぁ。あん時は俺も若かった しなぁ。若気の至りっちゅうやっちゃ。後からえらい後悔したもんなぁ。悪い事言うたって。」

「お前、それで姫子がどんだけ傷ついたか知らねぇだろっ。」

「分かってるから後悔してんのやろ?」

話しながらもマークの手が緩むことは無く・・・・・。

俺のイライラも限界に近かった。

「あぁっ!もうっうっぜぇ!!纏わりつくんじゃねぇよっ!!!」

「纏わり付かなあんたにゴール決められてしまうやん。うざいっちゅう事は俺のマークがええ っちゅうこっちゃな。」

満足げに話すヤツを何とかかわすも、ボールは既に相手チームに渡っており。

「クソッ!!」

ボールを目で追いながら小さく言葉を吐き捨てる。

「姫の唇ってむっちゃ柔らかいよなぁ。俺、アイツの唇むっちゃ好きやってん。ぷっくりしててさぁ 。チューするだけで脳天ぶち抜かれるっちゅうか。なぁ、そう思わへん?」

「・・・・・・・はぁっ?!」

突然何の前触れもなく発せられた言葉に思いっきり俺の眉間にシワが寄る。

ヤツの言う通り姫子とのキスは本当に気持ちがいい。何度重ねてもまた重ねたくなる唇。 それは今、俺だけが堪能できるものであってコイツに姫子の唇を語られる筋合いはない。

ヤツの唇が姫子の唇を奪ったと思うだけで虫唾が走り出す。それがたとえ昔の過ぎた 事だと分かっていても・・・。

そのままの顔でヤツを見るとおかしそうに、男前が台無しやで。とケラケラと笑い出す。

俺はコイツの意図が全く読めないでた。

・・・何故突然そんな話を持ち出してくるのか。まるで神経を逆撫でされてる気分だ。

「俺、アイツのファーストキス貰っちゃったんだよねぇ。」

「だから何だよ。そりゃ中坊なんだからファーストキスだっておかしかねぇだろ。昔の事穿り返して どうしようっての?」

「やっぱいろんな女を知ってる人は言う事がちゃうなぁ。キスぐらいじゃ動じませんってか? そう言えば姫の鎖骨辺りにキスマーク付いてたもんな、もうあんたのもんやっちゅう事か。」

「そういう事。分かってんなら、いらん事をウダウダ言うんじゃねぇよ。」

「俺ももう後一歩やってんけどなぁ。俺のモノになんのに・・・如何せん中坊やったやろ?やり方 分からんくってさ。途中で挫折。あら笑けたね、どこに入れていいか分からんかったもん。」

ボールの行く末を見つめながら走っていた俺の足が止まる。

・・・・・・今、何て言った?

途中で挫折とか言いやがった?・・・・・途中まではヤッたと言う事か?

聞いてねぇぞ・・・んな話。

俺が押し黙ってると、あれ、聞いてへんかった?とニヤリとヤツが笑う。

「お前、そんな事を俺に言ってどうしようっての?」

「いやぁ。久々に姫子に() うたやろ?なんや昔の事思い出してさ。もっかいあん時みたいに付き合ってみたいなぁって 思い始めてな。」



←back  top  next→