*Secret Face






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グラウンドでストレッチなどをして体を慣らしていると、職員専用駐車場に一台のバスが停まる。

どうやら今回の対戦相手、大阪商業高校が到着したようだ。

それまで和やかだった俺らの雰囲気も一瞬にして引き締まる。

いくら練習試合とは言え、大阪の高校に負ける訳にはいかない。

俺らの高校も今回の相手高も大会ではいつもベスト8には必ず残る実力を持つ。

だからこそ余計に力も入る。

バスから降りてきた奴らは1年が入ってきてメンバーが新しくなったとは言え、やはり結構ガタイが でかくて、強敵そうだった。

そんな中、一番最後に降りてきたヤツに俺の視線が止まる。

へぇ・・・結構イケメンじゃん。あんなヤツいたっけ?・・・しっかしありゃ俺と一緒でモテるね。

実際うちのマネージャー達もそいつを見てキャーキャー言ってやがるし。

うわっ。恭子まで一緒になって騒いでやがる・・・お前、彼氏いんだろうが。

・・・って、まさか姫子はそんな事してねぇよな?

不安に思いながら、そっと姫子に視線を向ける。

「え・・・?」

思わず俺の口から言葉が漏れた。

だってそいつと姫子が仲良さそうに話し始めたから・・・・・。

「・・・姫子、知り合い?」

俺は少々不機嫌そうに姫子に近寄り、そいつの前に立つ。

俺より少し背は低いものの、甘い顔つきが妙にムカツク。

なんか・・・俺とキャラ被ってねぇ?いや、内面は知らねぇけどさ。外見がよ?

「あっ新一。うっうん・・・中学の時に学校が一緒だったんだ。」

そう俯きながら気まずそうに姫子が呟く。

そういえば、姫子は中学まで大阪にいたんだっけ・・・昔の友人か?

「おっ!姫、このカッコええ男前が今の彼氏か?って、藤原新一やん!おぉ、なんやお前 超有名人の女になったんかいな。顔がよくてサッカー上手くて・・・タラシで有名な。」

姫・・・?お前・・・?――――俄かに俺の眉間にシワがよる。

しかも最後の言葉・・・『タラシ』だと? んな風に言われてんのかよ、俺。

初対面のクセに俺の事をフルネーム呼び捨てで呼びやがるし・・・・・総合してムカツク。

フツフツと俺の腹の中で何かが湧き上がってくる。

「・・・お前喧嘩売ってんのかよ。」

「クスクス。悪い悪い、そういうつもりで言うたんちゃうねん。そういう噂っちゅうかさ、カッコ ええとそういうもんが付きまとうやろ?ま、ええ意味で取っといてぇや。羨ましいっちゅう事で。」

悪びれる様子も無く、馴れ馴れしく俺の肩を叩く。

どう考えたっていい意味で取れる訳がねぇだろ。『タラシ』なんてよ。

見えない火花を散らしつつある2人の間に慌てた様子で姫子が割り込む。

「ちょっと慶介・・っとと、原田君何て事言うんよ。あっあの・・新一。この人原田 慶介君。 去年まで違う高校にいたんだけど、サッカーをやりたいからって今の高校に転校してきたんだって。 結構上手いんだよ?新一と同じFWがポジションなの。」

慶介?何でコイツの名前を呼び捨てで呼ぶんだ?――――更に俺の眉間のシワが増える。

結構上手い・・・妙にこいつに詳しい辺りも気にかかる。

「クスクス。なんや急に苗字で呼ぶなや。キモイやん。あっ彼氏に悪いか・・・って、昔の事やし 言ってもええんちゃうん?藤原君・・・教えたろか・・・。」

「わぁぁっ!慶介っその先は・・・」

必死の姫子の抵抗も空しく、俺中学時代の姫の彼氏。とあっけらかんと言ってのけやがった。

・・・・・・んだと?

「ま、昔の事やし。今は俺にも姫にも恋人がいるっちゅう事で・・・今日の試合は楽しくしようや。」

そう嫌味な笑顔を残して立ち去って行く姿を睨みつけてから、視線を姫子に向ける。

気まずそうに俺を見上げる姫子の顔が目に映る。

「マジであいつ・・・姫子の昔の男?」

「えっ?!・・・あ〜〜〜う〜〜〜ぅん。」

「お前、アイツが今日来る事知ってたんだろ。来る途中の態度が少しおかしかったもんな。」

来る途中の余所余所しい態度。

今ならその態度に合点がいく――――昔の彼氏に再会すんだもんな。

俺が一歩前に詰め寄ると、姫子は逆に一歩下がって俯く。

「ぇ・・・ぁ・・・・ごめん。」

「連絡取ってたって事かよ。」

「ううん!連絡は取ってないよ。名簿がまわってきた時に名前があって・・・それで。」

姫子は、絶対違う。とでも言うように大きく首を左右に振る。

「アイツ、前にお前がすっげぇ好きだったとかって言ってたヤツ?」

「・・・・いや、それは昔の事で・・・。」

「両想いで付き合って・・・キスまでしたヤツ?」

なんか・・・言ってて段々腹が立ってきた。

「あっあの・・・新一?」

「答えろよっ!!」

少々荒ぶった声に姫子の体がビクッと強張り、うん。と小さな声で頷く。

八つ当たり・・・んな事は自分でも分かってる。

だけど無性に込み上げてくる怒りを抑える事が出来ないでいた。

一度は真剣に姫子が好きになった男。

中学の頃とは言え、姫子がマジで好きだったと言った男が俺の目の前に現れた。

冷静でいられる訳がない。

・・・・絶ってぇヤツだけには負けねぇ・・・ぶっ潰す!!

握りしめた拳を、バンッ。と横にあった壁にぶつけると姫子に声をかける事無くグラウンドに向かう。

不安そうな顔を浮かべた姫子が俺の背中を見つめていると気づいていながら。



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