*Secret Face






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☆★ 姫子Day One ★☆


目覚めた時、横にいる筈の存在がいない事にやっぱりあんな事を言うんじゃなかったかも・・・と 後悔の念が募る。

いつもなら眠い目をこすりながら、おはよう。って言ってキスをされてる筈なのに。

私はベッドで横にいる筈のその場所に手を添えて、小さくため息を付いた。

――――バカな事言っちゃったかも。

耐えられるのかな・・・1週間も。

自分が言い出した事なのに、早くも気持ちが弱くなる。

会わないと決めたから、余計に会いたい気持ちが大きくなっていく。

今日はバイトがあるから何とか乗り越えられそうだけど。

バイトがない日は・・・どうして過ごす?

ねぇ、新一は私と過ごさない1週間をどうやって過ごす?

私はそんな事さえ思いつかないかもしれない。

頭の中が新一でいっぱいで、何も手につかないかもしれない。

先の事を考えると気持ちが重たくなってくる。

後6日・・・まだまだ始まったばかり。



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☆★ 新一Day One ★☆


俺は重たい頭を少しだけ擡げて、部屋の壁にかかっている時計に目をやる。

――――夕方の5時か。昨日、全然眠れなかったし。

訳も分からず、姫子の言われた通りに自分の家に帰って来てるし・・・何やってんだ、俺。

今日もバイトだって言ってたっけ・・・もう入ってるんだろうか。

迎えに行けねぇんだよな。

後6日・・・まだ一日だって経ってやしねぇのに。

声さえも聞けねぇ――――やべぇよ。1日さえも耐えられないかもしれない。

声が聞きたい・・・この手で抱きしめたい。出来ないと分かってるから余計にそんな欲が募る。

姫子のヤロー、バカな事を思いつきやがって。

この1週間どうやって過ごせってんだよ・・・考えるだけで気が狂いそうになる。

姫子はどうやって1週間を過ごす?

俺がいなくても過ごせるのか?

俺は無理だ。ぜってぇ無理・・・・・男の癖に情けねぇ。

姫子に出会う前の俺が今の俺を見たら絶対笑い死ぬだろうな。

今の俺だって笑いたくなる。

こんなにまで大きくなってる俺の中の姫子の存在が身にしみる。

まだ始まったばっかなのに・・・こんなんでどうすんだよ。



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☆★ 姫子Day Two ★☆


昨日はバイトがあったから何とか乗り越えられたけど・・・。

今日は何もないんだよね。ほんとなら新一とどこかに出かけて・・・・・。

はぁ・・・ダメだなぁ。すっかり新一がいる生活に慣れちゃってるよ。

こんなに大きくなってる私の中の新一の存在。改めて思い知らされる。

どうしよう・・・会いたい。会って思いっきり抱きしめてもらいたい。

ううん。正確に言えば抱いてほしい。

新一の腕で、唇で、肌で・・・私のすべてを愛してもらいたい。

彼の温もりを肌で感じたい。

私は自分の腕を体にまわし、きゅっと自分を抱きしめる。

空しさだけが体に広がり自分の温もりさえも逃げていく気がしてくる。

ごめんね、新一。私、バカな事言っちゃったよ・・・・・。

恭子に電話しようかな?・・・一人でいたら耐えられないもん。

私は恭子と連絡を取り、早速近くの喫茶店で会う事にした。

席に座って私の話を聞いた恭子がケタケタと声を立てて笑う。

「あはははっ。おっかしぃ。姫子もバカな事考えついたわねぇ。」

「だって・・・あのままじゃいけないって思ったんだもん。」

「クスクスっ。まあ姫子らしい選択って言えば姫子らしいかも。あぁ、でも今むちゃくちゃ藤原に 会いたいわぁ。もうすっごく楽しめそう。」

そう言って恭子はなおもおかしそうに声を立てて笑う。

私は訳がわからず首を傾げる。

「どうして楽しめるの?」

「だってあんたよりも数倍溺れてる藤原が、そんな1週間も持つわけないじゃない。姫子でその状態だよ? 暗い顔してさぁ。クスクスっ。姫子でそれだから、藤原のやつ死人の顔してるね、きっと。それか、 今頃禁断症状が出てどこかで暴れまくってんじゃない?あぁっ見たいぃぃ。」

恭子は子供のように足をバタつかせ、きゃぁぁっと小さく叫ぶ。

そうなのかな。私だって禁断症状出てるんだよ?

新一はそれ以上って事なの?



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☆★ 新一Day Two ★☆


俺は中学の時の連れに呼び出され、近くのファミレスで夕食をとることにした。

いつもならうざったい呼び出しも一人でいるよりは随分マシな気がして、有難かった。

「何だよシン。元気ねぇなぁ。何か死人の顔してねぇ?」

「あ?そうか?別にそうでもねぇけど・・・。」

思いっきり元気なんてねぇっての。2日だぞ?もう2日も姫子に会ってなければ声さえも聞いてない。

死人ね・・・当たってるかもしんねぇ。

何か抜け殻みてぇだし・・・ぽっかり穴が開いてそこからすぅすぅと風が通ってるみたいに。

今すぐにでも姫子を抱きしめたい・・・いや、抱きたい。

抱いてめちゃくちゃにしてやりたい。急激にそんな衝動に駆られる。

――――別に会わないでいる必要なんてないのに、何でこんな事やってんだよ。

一転して何だか腹立たしくなってくる。

「なぁ、姫ちゃんと喧嘩でもしたのかぁ?」

「るっせぇな。お前に関係ねぇだろ。」

「何、マジ喧嘩?あっお前浮気したんだろぉ。んで姫ちゃんが怒って会ってくれないとか?」

「そんなんじゃねぇよっ!お前に関係ねぇって言ってんだろっ!!くだらねぇ事言ってんじゃねぇよ!!!」

俺は店にいる事も忘れ、声を荒げていた。

店にいる連中から一瞬にして注目を浴びる・・・何だよっ。こっちジロジロ見るんじゃねぇよ!!

ムカつく。イラつく・・・無性に腹が立ってくる。

「おいぃ・・・お前八つ当たりすんなよ。らしくねぇなぁ。」

「・・・悪ぃ。」

らしくない?・・・コレが今の俺の姿なんだよ。会えないだけでこんなに狂う情けねぇ男。

マジやべぇ。

『禁断症状』――――そんな事が頭を過り、苦笑が漏れる。

もう俺ダメかも。

なぁ、姫子。やっぱ俺耐えられそうにねぇよ。


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