*Secret Face






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☆★ 姫子Side ★☆


新一が私の家に泊まり始めてから今日で1週間。

その間、一度も新一は自分の家に帰っていない。

今は夏休みだし、新一は男の子だから家の人とか何も言わないのかもしれないけれど、やっぱり これってダメだよね?

そりゃ、私だってずっと一緒にいれるのは本当に嬉しいよ?だって大好きな彼だもん・・・・・嬉しいんだけど 良くないと思う。こういうの。私達はまだ高校生なんだし、これじゃまるで同棲みたいじゃない。 このまま行くと、ずっと夏休み中ずるずるとこうやって過ごしそうなんだもん。

だから今回私は悩んだけど一大決心をしたの。そんな大した事じゃないんだけれど・・・。

今日もいつものようにバイト先まで新一は迎えに来てくれていた。

当たり前のように店先で待っている新一の元に駆け寄り、ごく当たり前のように彼の後ろに跨って バイクで帰る――――ここまでは、この1週間ずっとしてきた事。

でも、この後は違う。

私のアパートに着いた新一はいつものように所定の位置にバイクを停めて、私の所にやってくる。

階段を上ろうと一歩踏み出した所で、私は新一のシャツの裾をそっと掴んだ。

「どうした?姫子。」

「ん。新一、最近家に帰ってないでしょ?たまには帰らないと・・・・・。」

「あ〜そういえばここ1週間くらい帰ってないっけか?いいよ、別に。帰ってもつまんねぇし、どうせ 俺の親は何にも言わねぇし。」

「やっぱりダメだよ。ちゃんと帰らないと。」

「何だよ急に。」

新一は私の方に向き直ると、少し怪訝そうに眉を寄せる。

「このままずるずるって言うのはよくないと思う。私達まだ高校生なんだからさ。宿題もしなくちゃ だし・・・・。」

「は?意味がわかんねぇ。何が言いたいわけ?」

「だから、しばらく会わないでおこう?」

突然の言葉に新一は意味がよく掴めずに、お前何言ってんの?と、私を見つめる。

「だって会ったら会ったで離れたくなくなっちゃうんだもん。そしたら、ずっとこのままの状態でしょ? これじゃまるで同棲みたいだもん。それじゃダメだからしばらく会わない。」

「はっ!?ちょっと待てよ。会わないって・・・何だよ急にっ!!」

新一が私の肩を掴み、ぎゅっと力を入れてくる。

私は萎えそうになる気持ちを踏みとどまり、新一の目をしっかりと見つめた。

「新一とはずっとずっとこの先も一緒にいたいの。だからね、たまには離れる事も大切だと思う。」

「言ってる事が、全っ然わかんねぇ!一緒にいたいんだからいればいいだろ?何で離れなきゃいけない んだよっ!!」

「今は”一緒にいる事”が”一緒に住む事”じゃないと思うから。お互いまだ高校生なんだから、自分の 時間っていうのも大切にしなきゃ。」

「何だよそれって・・・俺といるのが嫌になったって事かよ。」

「違う!そうじゃないっ!!私だって新一とずっと一緒にいたいよ?でも、違うの。だらだらずるずる 同棲みたいな生活をするのがダメなのっ!!」

「じゃあそうならないようにすればいいだろうが。」

「だからしばらく会わないの!」

「だから何でしばらくになんのか分かんねぇって言ってんだよ。」

「もう決めたの!!だから、新一もここに来ちゃダメ。電話もしたら会いたくなっちゃうからしばらく しない。バイトも迎えに来なくていいからね。」

私はそう言い放つと呆然と立ち尽くす新一の横をすり抜け、トントンっと階段を駆け上がり自分の家へと向かった。



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☆★ 新一Side ★☆


『しばらく会わないでおこう?』

姫子のバイトが終わりいつものように迎えに行って帰ってきたら突然そう告げられた。

突然の事すぎて、何言ってんのかさっぱりわかんねぇ。

冗談で、んな事言ってんのかって思ったけど姫子の顔を見たらそうでもないみたいだし。

――――何でだ?

何で一緒にいたいと思って、一緒にいるのがいけねぇんだ?

同棲みたいになってんのが嫌なら、そうならないように俺が家に帰ればいい話だろ。

それが何で『しばらく会わない』に話が飛ぶのか・・・意味わかんねぇっ!!

「もう決めたの!!だから、新一もここに来ちゃダメ。電話もしたら会いたくなっちゃうからしばらく しない。バイトも迎えに来なくていいからね。」

そう言い放って自分の家に姿を消す姫子を、呆然と見上げながら俺はしばらくその場に立ちつくす。

決めたって・・・俺の意見はよ?勝手にそんな事決めんなよ。突然すぎんだろ。

――――俺、何かしたか?

話の流れからすると、俺といるのが嫌になった訳でもなさそうだし・・・嫌われた訳でもない。

だったら何で――――だぁっ!!頭ん中がぐちゃぐちゃする。

俺はその場にしゃがみ込み、事の発端を探ろうと自分の脳内を検索する。

何か自分の時間がどうとかって言ってたよな。

まさか・・・・・

ヤり過ぎ?・・・・・立てない程する事はあってもたまにだぞ?それに姫子も悪い。あんな顔されたら 誰でも襲うっつうの。それで自分の時間がねぇってか?いやいや、それはないだろ。

束縛しすぎ?・・・・・俺がバイトには必ず迎えに行くから?ちょっとでも男が近づくと目くじらを 立てて怒るから?そんなの仕方がねぇだろ。ムカツクもんはムカつくし、心配だから迎えに行くだけだし。 それがいけなかったのか?

・・・・だあぁぁぁっ!姫子の意としてる事がわかんねぇっ!!

自問自答した所で解決の糸口など見つかる筈もなく・・・。

落胆のため息と共にうな垂れていると、突然携帯のメール着信音が流れる。

姫子?

俺は急いで携帯をポケットから取り出すと、画面を開く。

送り主は、やはり姫子からだった――――もしかして・・・「嘘だよ。」とか?

俺は一筋の光の糸を手繰り寄せるようにメールの画面を開いた。

《突然変な事言っちゃってごめんね。でも、悩んで決めた事なの。だから1週間我慢しよう? 1週間経ったら会いに行くからね。  姫子》

プツンッ――――期待も空しく光の糸が切れた。

俺は力なく携帯を閉じるとしばらくそこから動けないでいた。

フラれたわけじゃないのに体中を喪失感が駆け巡る。

合鍵を持ってるわけだから、それを使えば簡単に中に入れるだろうけど・・・なんかそんな事したくねぇし。

姫子が悩んで決めた事なら・・・・。

1週間・・・・・姫子に会わずに過ごせって?会わないだけならまだしも、声も聞くなってか?

何でこんな事になってんの?

それよりも何よりも耐えられるのか?今の俺に――――。


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