*Secret Face










「・・・・・小暮?」

新一の口から漏れた自分の名前に、姫子は頭が真っ白になるのを何とか抑えていた。

(な、な、なんでここに藤原君がいるのよ〜!!ここ居酒屋だし、あなた達高校生でしょ?
高校生がこんなとこに来てもいいわけ〜〜〜っ???しかも、バレた!!)

姫子は突然新一の腕を引き、居酒屋の外に連れ出した。

店の奥では新一の友人達が不思議そうにこちらを伺い見ている。

「ちょっ、何で藤原君がここにいるわけ??高校生でしょ?未成年はお酒飲んじゃいけないんだよ?」

「お前こそ何で居酒屋なんかでバイトなんかしてんだよ。それに、何、お前メガネは?」

お互い動転しているのか、どこか的外れな質問を投げかける。

姫子は胸に手をあて大きく深呼吸をし、自分を落ち着かせ少し考えながら口を開く。

「あ、あの・・・えと、私、ちょっといろいろ事情があってバイトしないといけないの。いつも学校ではメガネだから・・・バイトの時だけコンタクトにしてるのよ。それなら少しは顔の印象も変わってバレないかな〜、なんて思って・・・。しかもココ、学校からだいぶ離れたとこだし・・・。とりあえず、学校にも内緒にしてるから藤原君内緒にしといてくれへん?お願いやから。」

「黙ってろって言うんなら俺は別に誰に言うつもりもね〜けど、何だよ事情って。」

「それは・・・別に藤原君が知る事でもないし、大した事でもないから・・・・・。」

とにかく、絶対絶対誰にも言わないでね、と念を押し姫子は店の中に消えて行った。

新一はどこか腑に落ちなかったが、とりあえず店に戻る事にした。



席に戻ると、『興味津々』を全面に押し出した友人達が身を乗り出してくる。

「なんだよ、シンの知り合い?あ、もしかして元カノとかかぁ??って、お前知ってるんなら、紹介してくれよ〜。俺、チャンスじゃ〜ん。」

「ば〜か、何で俺があいつと付き合うんだよ。・・・ていうか俺もよく知らね〜し?知り合いの知り合い?・・・んな感じ。ま、いいじゃん。ほれ飲めよ。」

そういって新しく運ばれてきたチュウハイを友人に勧める。

「んだよ、お前。訳わかんね〜。」

(俺だって訳わかんね〜っつぅの。小暮が居酒屋でバイトしてるだけでも驚きなのに、メガネからコンタクトにするだけで、あんだけ変わるもんなのかよ・・・。全然別人みてぇじゃねぇか。)

奥の席で一生懸命動いている姫子の姿を新一はちらっと見た。

学校で見る彼女の姿とは180度といっていいほど変わり、綺麗な黒髪にぱっちりとした瞳。

唇はグロスを塗っているのか、少し輝いている。そんな彼女は確実に目を惹かれる。

もしかしたら、この居酒屋に来ている男性客の大半は姫子目当てかもしれない。

現に「姫ちゃ〜ん」とか「姫子ちゃ〜ん」などと直接姫子に声がかかることが多い。

それでも、学校での姫子の姿を知っている新一には、今の姫子の姿が信じられなかった。

いつも、髪の毛を2つに束ね、黒淵の牛乳瓶の底のような眼鏡をかけている姫子。

それらを並べて、信じろと言う方が難しい。

我ながらよく気づいたもんだ、と新一は思った。普通のやつなら絶対に騙される。

それほど完全に姫子は変装をしていた。

(あれも変装に入るんだろうか・・・。あ〜、信じられねぇ。・・・・・そういえばあいつ事情がどうとか言ってたよな・・・・・)

新一は首をプルプルっと横に振り、お酒を煽る。

(何気にしてんだよ、俺は。・・・・・関係ないじゃん。)

それから何度か姫子がオーダーを取ったり、持ってきたりしたが、友人が声を2・3かける事はあっても、2人が特別会話する事はなかった。



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