*Secret Face 夕食は何事もなく、平穏無事に過ぎた。 俺は部員のやつらと、姫子はマネージャー達と一緒にテーブルを囲い夕食を食べ終えた。 ここまではいい――――問題はここから。 毎年、合宿の晩はみんなで酒盛りをする。 高校生が何やってんだって話しだけど、まぁ若い奴らが集まれば必然的にこうなっちまうもんで・・・。 誰かしら買ってきてるんだよな、チューハイとかいう類をさ。 酒は嫌いじゃないからいいんだけど・・・。 酒が入るとヤツら(男連中)は、ここぞとばかりにマネージャー達にスキンシップをはかりに行く。 去年の冬までは別に何とも思わなかった。マネージャーに誰が抱きつこうがどうしようが・・・。 逆に、はやし立てたりもしたもんだけど、今回はそうは行かない。 誰かが姫子に指一本でも触れてみろ、俺が俺でなくなる自信がある。 こんな自信いらねぇけど、考えるだけでムカついてきちまう。 ――――特に「山上 静」。 ジョギングの時に聞いた話だけでも要注意人物。あいつ、酒は強いんだけど酔ったフリして 何しでかすかわかんねぇ。 『俺、小暮狙ってみようかなって思ってさ。』 冗談じゃねぇ。思い出すだけで虫唾が走る。 ――――あんたも落ちるとこまで落ちたわねぇ。 ふと、麻田の言葉が頭をよぎる。まったくもってその通りで・・・マジ落ちました。 きっと以前の女がこんな姿見たら発狂もんだぞ。麻田や俺の連れが笑いたくなる気持ちもわかる。 俺だって自分で自分がおかしくてたまんない。こんな人間だったのかよって。 いつも女と付き合う時はクールで冷淡で欲情だけを満たせればいいやって思ってたのに・・・・・。 蓋を開けてみれば嫉妬に狂う最低な軟弱ヤローだったなんて。 マジ笑っちまう。――――とにかく、何事も無く過ぎてくれればいいけれど・・・。 ・・・・・そう上手くは問屋が卸さねぇよな。 1年が使ってる少し広い部屋に部員達十数名とマネージャーが座り込み、酒盛りが始まって早や1時間経過。 誰かが持ってきた大量のアルコール類は、その殆どが飲みつくされ畳には空き缶が転がっている。 部屋はアルコールのニオイが充満し、赤い顔と大声がそこらじゅうで飛び交っていて、やたらうるさい。 そして案の定、マネージャー達のまわりに群がるヤロー共。 姫子も例外ではない。静のヤローの他に数名・・・あいつら全員姫子狙いか? 俺の中で沸々と湧き上がる黒い影。 あぁ、マジ爆発しそう。麻田のヤロー何やってんだよ!姫子と離れた所で盛り上がってんじゃねぇよ。 俺はイライラを抑えながら酒を飲み干した。こんな気分で酔える筈がなく・・・。 「藤原先輩、はいどうぞぉ〜。」 飲み干した缶を怒りを込めて握り潰すと同時に横から新しい缶を差し出される。 「・・・・・あ?」 にっこりと満面の笑みで缶を手渡し、ちゃっかりと俺の横に座る女。 ――――誰だっけ? 「先輩、強いんですねぇ。私、弱いから少し酔っちゃってぇ。」 茶髪の毛先がくるくるカールした女がそう笑いながら寄り添ってくる。 あぁ、1年のマネージャーの・・・何だっけか?また忘れた。 「重いから寄ってくんな。俺、機嫌悪ぃからどっか行けば?」 「やぁもぉ、先輩。そんな冷たい事言わないでくださいよぉ。典子泣きたくなっちゃうぅ。」 うぅっとかわいらしく泣き真似をしてるつもりらしいが・・・ウザイ。 典子・・・あぁ思い出した。椎名典子。 とりあえず名前思い出してやったから、どこかに消えてくれって。 俺はなおも寄り添ってこようとする体を押しのけながら交わしてるけれど・・・めげない。 はぁ、最初の予感的中。こういうタイプはしつこいからタチが悪い。 周りにいる部員達も、ヒューッいいねぇ。と囃し立てる。なんならやるぞ?てか持ってってくれ。 『ねぇ、先輩。これから2人で抜けてどこかへ行きません?』 腕に胸を押し付けながらコソッと耳元で囁く。 俺はその言葉に眉を寄せながら、ふと視線がある所で止まる。 静が姫子の肩に腕をまわしている。姫子もそんな静に困ったような表情で――――プチンッ。 そんな音が確かに聞こえた気がした。 「触んじゃねぇ!!」 無意識に俺はバンッと缶を床に叩き下ろし怒鳴っていた。 一瞬にして静まる部屋の中――――隣りでは典子が少し青ざめた顔で俺を見上げている。 でも、明らかに視線は静に向いていて・・・マズッた。勢いに任せて放ってしまった言葉を今更 呑み込める筈がなく、しばらく無言のままでいると静寂を打ち破るように一人が口を出す。 「もうっ藤原酔っ払ってるぅ。典子、藤原って飲むと機嫌悪くなるんだからあんまりちょっかい 出さないの。それと、藤原。白けさした罰として酒買いに行ってきて。」 ケタケタと笑う麻田に部員達も、そうだぁ、買ってこぉい!とノルように笑い始めた。 ・・・酔っ払いでよかった。つーか、麻田・・・もうちょっとマシなフォローできねえのか? 麻田は渋々立ち上がる俺を見てから、一つ付け足した。 「で、姫子。あんた部費の管理してるでしょ?今回の合宿で余った分使ってもいいってお許しが 出てるから一緒に行って払ってきて。荷物は藤原に持たせたらいいから。」 有無を言わさぬ麻田の言葉に、俺と姫子は立ち上がり部屋を出た。 2人共どこか気まずい雰囲気の中。 |