*Secret Face










――――は?何言ってんだコイツ。

俺はさっきより間抜けな返しをする。

「あいつさぁ、分厚い眼鏡してっけど絶対外すとイケてると思うんだよね。性格も いいし、護ってやりたくなるっつうかさぁ。しかも最近やたらかわいくねぇ?」

「お前何が言いたい訳?」

・・・鋭い。俺は内心ヒヤッとする。

ふと、麻田が言った先程の言葉を思い出した。

《静も案外嗅覚鋭いのかもね。》《気をつけなさいよ、藤原。侮れない相手よ。》

まさに女の第六感的中ってヤツじゃん。やっぱあの女、怖ぇよ。

しかし、マジで侮れねぇ・・・・・静のヤツ。

「いやっ部員の中でも結構話題になってんだけど、小暮って以前は「真面目一本」て 感じの子だったじゃん?でも最近妙に色っぽい時とかあんだよね。仕草とかさ。 彼氏できたって噂も聞かないし、ちょっと狙ってみようかなぁって。」

「うわっっ!!」

「おっと、危ねぇ。大丈夫かよ。」

俺は静の突然の言葉に躓いて転びそうになった。

反射的に体勢を整えて、ああ。と静に生返事を返す。

ちょ、ちょっと待てよ。狙ってみようかなぁって、姫子狙いって事だよな?

「・・・お前、麻田狙いじゃねぇのかよ。」

俺は動揺を隠しつつ、探りを入れてみる。妙な焦燥感が体中を駆け巡る。

「あん?おぉ、麻田も捨てがたいんだけどねぇ・・・小暮の方が何かいいじゃん? 麻田ってむちゃくちゃ競争率高いんだよ。俺には無理そうだしさぁ・・・それに、 なんての、隠された顔っつうかさぁ。麻田みたいに誰が見ても綺麗っていうのも いいんだけど、俺だけが知ってる顔があるっていう方がよくねぇ?」

「よくねぇっ!!」

俺は無意識の内に大きな声を出していた。少し驚いたように静が俺を見る。

ヤベっ。

「あっいや・・・どうせ横に歩かせるならいい女の方がいいじゃん。」

「突然大きな声出すからびっくりするじゃん。それは、シンだから出来る事だろぉ? ナンもしなくても向こうからよってくるんだしさぁ。」

ほんといい女ばっかだもんな、と静は呟き少し口を尖らせる。

「お前だって密かにファンクラブとかあるんだし、寄ってくる女ぐらいいるだろ?」

「あははっ密かにって。まあね、いなくはないんだけど・・・何だかなぁって感じ。」

「何だよ、それ。」

「おっと、もうランニング終わりじゃん。もうちっとシンから女の事勉強させてもらおうと 思ってたんだけどなぁ・・・残念。ま、とりあえず小暮にはじわじわ行ってみるわ。」

「わっおい!ちょっと待てっ・・・・。」

知らない内にジョギングコースを終えて宿舎手前まで戻ってきてたらしい。

んじゃなぁっ!と俺の言葉も聞かず、静は宿舎の中に入って行ってしまった。

ちょっと待てよ。マジでか?



***** ***** ***** ***** *****
   



「麻田、この通りだ。頼むよ。」

俺はジョギング後、シャワーを軽く浴びて夕食の準備をする麻田をロビーに呼び出した。

さっきの静の言葉を聞いたら、いてもたってもいらんなくて・・・。

まったく・・・あり得ねぇぞ、俺の人生の中でこんな事。

自分の女の事で、誰かを頼るなんて――――。情けねぇ・・・よな。

「なぁに、マジで静のヤツ姫子狙いだったの?・・・で、私にどうしろと?」

「いやっだからさ、静が姫子になるべく近づかないようにしてほしいんだよ。お前が横から 割って入るとかよ。」

「もう、いっその事付き合ってるのバラしちゃったら?」

「そう出来るならやってるっつうの!!俺だって言いたいんだよっ。でも、姫子の事 考えると言わねぇ方がいいだろ?傷つけられたらたまんねえもん。」

俺は、両手の平を合わせると頼むよ。と小さく呟いた。

そんな様子にクスっと笑うと、

「ほ〜んと、落ちるとこまで落ちたわねぇ。ま、いいわ。何かあったらなんとかしちゃる。」

恭子さんにまっかせなさ〜い。とポンっと胸を打ち、ケタケタと笑う。

・・・・・大丈夫かよ。

俺は一抹の不安を覚えながら、とりあえずサンキューと口にする。

そんな俺を横目で見ながら、ところでさーと麻田が話を続ける。

「あんたこそ、典子に目付けられてるみたいじゃない。」

「あ?典子?」

「1年のマネージャーよ。椎名典子。あの子に気に入られたでしょ?」

あぁ、あいつか。やっぱ名前覚えらんねぇ。

「あぁ、まぁ。別に気にもしてねぇからどうでもいい事だろ?」

「まったく、あんたも姫子も人を頼る前に自分らで何とかしろっつうの。ほんと恋愛初心者かって いいたくなっちゃうわ。あんた達見てると。」

「姫子が何か言ってきたのか?」

「そうよ〜。あんたとおんなじ事をね。藤原は静を何とかしろって言うし、姫子は典子をどうにか 諦めさせてって言うし、お互いに自分は大丈夫だからって言い張るし・・・まったく恭子さんは 参っちゃうわよ。ラブラブおバカは勝手にやってちょうだいよ。」

麻田はやってられないとでも言うように目を閉じて頭を軽く振る。

姫子も俺と同じような事を?

「だからさぁ、藤原が腹くくって付き合ってますって宣言しちゃえばいいのよ。ま、しばらくはお互い 大変だろうけど、人の噂も49日って言うでしょ?」

――――75日だ、バカ。

そりゃ、宣言できればいいけど・・・姫子の事を考えるとやっぱり気が引ける。

「ほんと、藤原も大変ねぇ。姫子にヤキモチを焼かなきゃいけないし、心配しなくちゃなんないし、 あんた見てるとほんと楽しいわぁ。前代未聞よね、こんな藤原の姿。みんなに教えたいわぁ。」

「てめぇ、ほんっといい性格してるよな。」

「あら、お褒めのお言葉ありがとう。そんな生意気な口叩いてもいいのかしら?協力しないわよ。」

「・・・・・・スミマセンデシタ。」

「うふふっ。素直でよろしい。ま、何かあった時はこの恭子さんに任せなさいって。」

・・・本当に任せて大丈夫なのか?



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