*Secret Face (あれ、俺いつの間にか寝ちまったのか。・・・・・昨日あんまし寝られなかったからなぁ) 時刻はもう夕方なのだろうか、窓の外が少しオレンジ色に反射しているように感じる。 ぼーっとする頭の中、自分に布団がかけられているのに気付く。 (・・・・・?何で俺に布団が?・・・・小暮?) 頭を少し持ち上げ、ベッドに目をやるとそこに姫子の姿はなかった。 ふと目線を自分の横にやると、そこには新一に寄り添うように寝ている姫子がいる。 (げっ、こいつ何でここで寝てるんだよ。・・・もしかして、俺が寝てしまったから布団かける為に?・・・・しかも、この状況に焦ってる俺って。慣れてる筈なのに。) 新一は半身を起こして、気持ち良さそうに眠っている姫子の方に体を向けた。 (無防備な格好で寝やがって・・・・・襲われたらどうすんだよ。) そう思いながら、自然と新一の手は姫子の綺麗な髪を伝い頬を撫でる。 彼女の肌は白くキメ細やかで、触り心地がよかった。どうやら熱が下がったのか頬の赤みは消えていた。 ぷっくりとした唇からは、寝息が漏れている。 新一は、その形のいい唇をそっと親指でなぞる。 「ん・・・・・」 姫子は少し反応したが、起きる様子はなかった。新一は躊躇うことなく、姫子の唇に吸い寄せられるように自分の唇を重ねていた。 甘く、柔らかい感触が新一を覆う。ずっと重ねていたい・・・そんな感覚に捕らわれる。 この時、新一は自分の気持ちを確信した・・・姫子が好きだという事を。 そっと唇を離すと、姫子と視線がぶつかる。 「うわっ!!・・・お前起きてたのかよっ!!」 「・・・・・普通、そんな事されたら起きるでしょ。」 そう呟く姫子の頬は、少し赤く染まっている。少し困ったような表情で。 もう、何考えてるのよ!っと小さく呟くと、くるっと背中を向けられてしまった。 そんな仕草も愛しく思えて、新一は後ろから姫子を抱きしめていた。 ふわっと、シャンプーのような心地よい香りが新一の鼻をくすぐる。 「わっ・・・ふ、藤原君?」 「・・・・・ごめん。」 新一はそう呟いて、抱きしめた腕に少し力を入れる。 「寝込みを襲うなんて、卑怯やん。」 「・・・・・襲うって・・・キスじゃん。」 「うわっ、簡単に言う・・・。そりゃ、藤原君はいつもしてるから慣れてるだろうけど・・・・・私は中学以来なんだからね!!しかも、あんなに長くなんてしたことないんだからっ」 「ばっ!!俺だって自分からキスなんてしたことなかったんだぞ。お前が、俺の横で無防備に寝るのが悪い。」 姫子はくるっと首だけ新一に向け、じっと見つめる。 「・・・・・藤原君・・・顔、真っ赤・・・・」 そう呟いて、クスっと笑う。 「うわっ!ばかっっ!!・・・こ、こっち向くんじゃね〜よ!!!」 姫子は体ごと新一に向き直ると、そっと呟いた。 「でもね、藤原君、キスは・・・・・本当に好きな子とするべきだよ。」 その言葉に驚いた顔を一瞬浮かべたが、すぐにクスっと笑うともう一度新一は姫子に唇を重ねた。 「・・・・・!!」 新一は少しだけ、唇を離すと 「だからキスしたんじゃん?俺、どうやらお前にマジに惚れたみたい。」 「えぇっ!!でも私、牛乳瓶の底だよ?バイト以外は眼鏡のままだよ?私の・・・どこがいいの?」 「別に俺は顔だけに惚れたわけじゃない。多分・・・ずっと前から気になってたんだよ。」 「・・・・・へ?」 「部室で誰に言われた訳でもないのに、ボールを一生懸命磨いたり、部員のユニホームを洗濯したり、ほつれた所を縫い合わせたり。何をするのも一生懸命で楽しそうで。いつもそんなお前を目で追ってた気がする。」 姫子の綺麗な黒い瞳が、じっと新一を見つめる。 「んで、昨日居酒屋でお前見ただろ?学校では見た事のない小暮。俺の知らない小暮がいるって思ったら、すげぇ焦ってる俺がいた。今日、風邪で休みって聞いて心配でたまんない俺がいた。お前の仕草一つ一つにドキドキして、でもお前といるとすげぇ安心できたりして。ヤバイよな、そんな自分の気持ちに気が付いたらもう止まんなくて・・・キスしてた。」 新一は姫子から視線をはずし、ふっと笑うと照れくさそうに顔を少し歪めた。 「あ・・・何かすごい嬉しい。藤原君が私の事をそういう風に見てくれた事。顔じゃなく、私自身を見てくれてる。・・・・・私もね、いろいろ藤原君の事発見したよ。少し強引な所、本当は照れ屋なんだって事。怖い顔ばかりじゃなくすっごく優しい顔が出来る人なんだって事。」 「小暮。」 姫子は両手で新一の頬を挟むと、にこっと笑う。 「私・・・・・もっと藤原君を知りたい。発見したい。」 「俺も、小暮なら知られてもいいかな・・・・・好きだよ、小暮。」 「私も、藤原君の事・・・好き。」 2人の視線が合うとお互いに微笑み合い、どちらともなく自然に唇を寄せていた。 長く、お互いの気持ちを確かめるかのように・・・・・。 「・・・・・風邪、うつっちゃうかも。」 「お前の風邪なら、うつってもいいんじゃねぇ?」 Fin |