*Secret Face






13




(あれ、俺いつの間にか寝ちまったのか。・・・・・昨日あんまし寝られなかったからなぁ)

時刻はもう夕方なのだろうか、窓の外が少しオレンジ色に反射しているように感じる。

ぼーっとする頭の中、自分に布団がかけられているのに気付く。

(・・・・・?何で俺に布団が?・・・・小暮?)

頭を少し持ち上げ、ベッドに目をやるとそこに姫子の姿はなかった。

ふと目線を自分の横にやると、そこには新一に寄り添うように寝ている姫子がいる。

(げっ、こいつ何でここで寝てるんだよ。・・・もしかして、俺が寝てしまったから布団かける為に?・・・・しかも、この状況に焦ってる俺って。慣れてる筈なのに。)

新一は半身を起こして、気持ち良さそうに眠っている姫子の方に体を向けた。

(無防備な格好で寝やがって・・・・・襲われたらどうすんだよ。)

そう思いながら、自然と新一の手は姫子の綺麗な髪を伝い頬を撫でる。

彼女の肌は白くキメ細やかで、触り心地がよかった。どうやら熱が下がったのか頬の赤みは消えていた。

ぷっくりとした唇からは、寝息が漏れている。

新一は、その形のいい唇をそっと親指でなぞる。

「ん・・・・・」

姫子は少し反応したが、起きる様子はなかった。新一は躊躇うことなく、姫子の唇に吸い寄せられるように自分の唇を重ねていた。

甘く、柔らかい感触が新一を覆う。ずっと重ねていたい・・・そんな感覚に捕らわれる。

この時、新一は自分の気持ちを確信した・・・姫子が好きだという事を。



そっと唇を離すと、姫子と視線がぶつかる。

「うわっ!!・・・お前起きてたのかよっ!!」

「・・・・・普通、そんな事されたら起きるでしょ。」

そう呟く姫子の頬は、少し赤く染まっている。少し困ったような表情で。

もう、何考えてるのよ!っと小さく呟くと、くるっと背中を向けられてしまった。

そんな仕草も愛しく思えて、新一は後ろから姫子を抱きしめていた。

ふわっと、シャンプーのような心地よい香りが新一の鼻をくすぐる。

「わっ・・・ふ、藤原君?」

「・・・・・ごめん。」

新一はそう呟いて、抱きしめた腕に少し力を入れる。

「寝込みを襲うなんて、卑怯やん。」

「・・・・・襲うって・・・キスじゃん。」

「うわっ、簡単に言う・・・。そりゃ、藤原君はいつもしてるから慣れてるだろうけど・・・・・私は中学以来なんだからね!!しかも、あんなに長くなんてしたことないんだからっ」

「ばっ!!俺だって自分からキスなんてしたことなかったんだぞ。お前が、俺の横で無防備に寝るのが悪い。」

姫子はくるっと首だけ新一に向け、じっと見つめる。

「・・・・・藤原君・・・顔、真っ赤・・・・」

そう呟いて、クスっと笑う。

「うわっ!ばかっっ!!・・・こ、こっち向くんじゃね〜よ!!!」

姫子は体ごと新一に向き直ると、そっと呟いた。

「でもね、藤原君、キスは・・・・・本当に好きな子とするべきだよ。」

その言葉に驚いた顔を一瞬浮かべたが、すぐにクスっと笑うともう一度新一は姫子に唇を重ねた。

「・・・・・!!」

新一は少しだけ、唇を離すと

「だからキスしたんじゃん?俺、どうやらお前にマジに惚れたみたい。」

「えぇっ!!でも私、牛乳瓶の底だよ?バイト以外は眼鏡のままだよ?私の・・・どこがいいの?」

「別に俺は顔だけに惚れたわけじゃない。多分・・・ずっと前から気になってたんだよ。」

「・・・・・へ?」

「部室で誰に言われた訳でもないのに、ボールを一生懸命磨いたり、部員のユニホームを洗濯したり、ほつれた所を縫い合わせたり。何をするのも一生懸命で楽しそうで。いつもそんなお前を目で追ってた気がする。」

姫子の綺麗な黒い瞳が、じっと新一を見つめる。

「んで、昨日居酒屋でお前見ただろ?学校では見た事のない小暮。俺の知らない小暮がいるって思ったら、すげぇ焦ってる俺がいた。今日、風邪で休みって聞いて心配でたまんない俺がいた。お前の仕草一つ一つにドキドキして、でもお前といるとすげぇ安心できたりして。ヤバイよな、そんな自分の気持ちに気が付いたらもう止まんなくて・・・キスしてた。」

新一は姫子から視線をはずし、ふっと笑うと照れくさそうに顔を少し歪めた。

「あ・・・何かすごい嬉しい。藤原君が私の事をそういう風に見てくれた事。顔じゃなく、私自身を見てくれてる。・・・・・私もね、いろいろ藤原君の事発見したよ。少し強引な所、本当は照れ屋なんだって事。怖い顔ばかりじゃなくすっごく優しい顔が出来る人なんだって事。」

「小暮。」

姫子は両手で新一の頬を挟むと、にこっと笑う。

「私・・・・・もっと藤原君を知りたい。発見したい。」

「俺も、小暮なら知られてもいいかな・・・・・好きだよ、小暮。」

「私も、藤原君の事・・・好き。」

2人の視線が合うとお互いに微笑み合い、どちらともなく自然に唇を寄せていた。

長く、お互いの気持ちを確かめるかのように・・・・・。

「・・・・・風邪、うつっちゃうかも。」

「お前の風邪なら、うつってもいいんじゃねぇ?」



                                         Fin



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