*Secret Face






12




ヤバかった。あのまま沈黙が続けば、きっと自分は・・・・・

何よりも、もっと姫子の頬に触れていたい自分がいた事、少し口を尖らせて真っ赤になっている彼女を愛しいと思った自分がいる事に、新一自身驚いていた。

今まで感じた事のなかった感情に戸惑いさえ感じる。

(何だよ、これ。何か変だ。しかも俺、女の為に飯作ろうとしてるし。今まででもありえねぇ。しかも、手ぇ震えてるし。ヤベー・・・あのままだったら俺、あいつにキスしてた。)

これまで、一度だって自分からキスしたいと思った事も、した事もなかったのに・・・

新一はため息をつき、そんな気持ちを拭い去るかのように大きく頭を振り、冷蔵庫から適当な野菜を取り出し、手際よく料理を作り始めた。

すぐに、おいしそうな匂いが部屋に漂い始める。

新一は姫子の分と自分の分のお椀を用意すると、出来上がったばかりのおじやの入っている鍋をテーブルの真ん中にどん、と置いた。

「うわぁ〜。おいしそう。すごいねぇ、藤原君て料理本当に出来るんだ。」

驚いた、とでも言うように目を丸くする。

「だから、食えるもん作ってやるって言ったろ?俺も作ってたら腹減ってきたから一緒に食うわ。」

「ほな、食事代。」

ケラケラと笑いながら、姫子は手を差し出した。

「はあ?お前、作ってもらってその上飯代まで取る気?ケチくせぇ。」

そう言って、ふっと笑うとパチンと姫子の手を軽く叩いた。

「あ、また笑った。あはは、藤原君は笑ってる顔の方がいいよ。いつもそういう笑顔でいたらいいのに。怖い顔なんかしてないでさ。」

ふふふっと姫子は嬉しそうに笑う。

「・・・・・何か、お前といると調子狂う。」

そう?と呟き、ちょっとバツが悪そうな顔の新一を見てもう一度彼女は軽く微笑む。

まだ、姫子の家に来るのは2回目だというのにずっと前から来ているような感覚になる。

居心地のいい場所・・・居心地のいい笑顔・・・。

自分の中で確実に変わっていく姫子への想いを、新一は少しずつ感じるようになっていた。



結構たくさん作ったつもりのおじやも2人で食べるとあっという間に平らげてしまった。

「あ〜、おいしかったぁ。藤原君、どうもありがとう。お陰で元気モリモリ!!風邪なんか吹き飛ばしそうよ。」

そういって姫子は無邪気に笑う。

(元気モリモリって・・・・っぶ。)

クスクス笑う新一に対して不思議そうに首を傾げる。

「な、何?・・・今の、笑うとこ?」

「あ?いや、ま。何でもねぇよ。食い終わったんなら、早く寝ろ。俺、片付けたら帰るから。」

「あぁ、いいよぉ。そんなの置いといて。夜にでも洗うから。それよりもさ、一つお願いしてもいいかなぁ?」

「なんだよ。」

「あ、あのさ・・・寝るまで・・・私が寝るまで、この部屋にいてくれないかなぁ?」

恥ずかしそうにパジャマの裾を弄りながら、姫子は呟く。

「なに、添い寝してほしいわけ?襲わない自信ねぇぞ。」

「な、なに言っちゃってるのよ!べ、別に添い寝してほしい訳ではなくて、部屋にいてほしいの!!その、いつもなら全然平気なんだけど、久しぶりに熱が出て弱ってるのかなぁ。ちょっと寂しくて。」

頬を赤く染めて俯く姫子の傍に近寄ると、徐に手を差し出す。

「・・・・・?」

「俺のレンタル料。高いぞ。」

「そうきたか・・・・・」

「さっきのお返し。ま、いいよ。いてやっても。どうせ今日は学校フケるって言ってきたし。」

クスっと笑い、新一はポンポンと姫子の頭を叩く。

「子供扱いしてませんか・・・・。」

「子供じゃん。小ちゃいし、一人で眠れないし?早く寝ろよ、お子ちゃま。」

「うっ・・・背の事をいうな。ふん、ちょっと自分が背が高いからってさぁ。ん・・・でも、ありがとう。あの、そこらへんの物、好きに使ってくれていいから。」

姫子はベッドに潜り込むと、眼鏡をはずす。

新一は食べたものを取り合えず流しに運び、部屋に戻るとソファを枕代わりに床に寝転んでテレビを眺めた。



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