*Secret Face






11




部屋に向かう途中でガンッと言う音と共に、その場に姫子が蹲る。

「何やってんの、お前?」

頭を抱えて蹲る姫子を通り過ぎ、ため息混じりに新一が呟く。

「いっった〜〜〜ぃ。何でこんなとこに柱があんの〜〜?うぅ、痛い。」

「お前さぁ、どこをどう行ったら、そこの柱にぶつかるんだよ。・・・っぶ。赤くなってるし。」

「笑うな〜〜っ!!眼鏡してないから見えないの!!・・・あ〜ん、病人をいぢめるぅ。」

姫子は両目に手を当て、泣き真似をする。

「お前がどんくさいからだろ〜が。・・・はぁ、しゃあねぇな。」

そう呟くと、新一は姫子の体に手をまわすと、ひょいっと持ち上げた。

「・・・・・へ?」

姫子は自分が新一に『お姫様抱っこ』状態にされているのを飲み込めず、しばし固まる。

「なあお前、ちゃんと飯食ってる?異様に軽くねぇ??」

「え・・や・・・食べてます、食べてます!!っていうか、藤原君、何してんのよ!!意味わからん!」

(信じられない!!なんでなんで、藤原君が私を抱っこしてんの〜〜〜〜っっ。)

ようやく自分の状態に気づき、姫子は顔が真っ赤になる。

ベットまで運んでやるよ、と新一は姫子を抱きかかえたままくるっと体を部屋に向けた。

ゴツッとまたしても鈍い音が耳に届く。

「〜〜〜〜〜〜っっうぅ。」

「・・・・・あ、悪ぃ。」

「・・・いった〜〜〜い!!!ちょっ、藤原君、今のわざとやろ〜〜〜っっ!!・・・・・ぅぅ」

新一は方向転換する際に誤って、姫子の頭をドアにぶつけてしまったらしい。

「んな訳ね〜だろ〜が」

喚く姫子をベットに下ろすと、額に手を当てる。一回目にぶつかった時に余程強くあたったのか少し赤く腫れ上がってきていた。

「おい・・・・っっ。大丈夫かよ・・・っっ。」

「・・・・・藤原君・・・面白がってるやろ・・・・・。」

じと〜〜っと姫子が新一を睨む。

「・・・・・っっんな訳っっないじゃん・・・ぷ。」

「あかん・・・今のでまた熱上がってきた・・・・・。」

「俺も駄目・・・っっ我慢できね〜っっぷぷ。たんこぶっ、あははははは!!」

「ちょっ、うわっ。ひっど〜〜〜!!病人捕まえて、笑い者にするか〜?」

「悪ぃ悪ぃ。あ〜〜〜腹痛ぇ。ひっさしぶり、こんなに笑ったの。」

「信じらんな〜い!!病人を笑い者にするなんざ!!・・・ぶぅっ」

姫子は頬を少し膨らますと、がばっと頭から布団をかぶってしまった。

「ぶっ・・・・・悪かったって。機嫌直せよ。」

ベットに腰掛け、くしゃくしゃっと姫子の髪を撫でると、布団を引き下げる。

姫子はまだ怒っているのか、少し口を尖らせて、ぶぅっと呟いた。

その仕草があまりにもかわいらしく思えて、自然に新一の手は姫子の頬に当てていた。

2・3度姫子の頬を撫でる新一のその顔は、今まで誰にも見せた事のない優しい眼差だった。

それを見た姫子は驚き、少し戸惑う。

「・・・・・藤原君?」

姫子の声に、はっと我に返ったのか、新一はうにっと頬を軽く抓る。

「ば〜か、機嫌直ったかよ。」

「う・・・別に怒ってないもん。藤原君があまりにも笑うから・・・」

「だから、悪かったって。・・・・・しょうがねぇから、おじやでも作ってやるよ。白飯と何か野菜、適当にあんだろ?」

ぺちぺちっと頬を軽く叩くと、立ち上がりキッチンへと向かう。

「え・・・・・藤原君、作れるの?」

「何だよ、その反応。お前、俺が料理できないとか思ってんの?」

「いや、そういう訳じゃないけど・・・藤原君てそういう事やらなさそうだし・・・。」

「俺ん家両親共働きで姉貴は嫁いでいねぇから夜とかいない時はたまに自分で作ってんの。心配しなくても食える物出してやるから、おとなしく寝てろ。」

そう言うと、新一はキッチンへと姿を消した。



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