Happy Bear(仮)


番外編 ...01

藤堂衛(とうどう まもる)は、高校時代の友人に久しぶりに連絡を取るために、携帯電話を耳に当てていた。

確かアイツ、先週末には日本に帰ってくると言っていたはず。そこから2週間ほどはオフなんだと話していた記憶もある。

高校1年までのアイツだったら二つ返事でOKをくれていたけれど、高2の時に今の奥さんと出会ってから人が変わったように真面目になってしまって。合コンなど女が絡む飲み会は全く参加してくれなくなった。

今回もOKはくれないと思うけれど、彼女に、「お前がびっくりするくらいの男前を揃えてやるよ!」なんて見栄を張った手前、是が非でもアイツに参加して欲しいところ。

それに、アイツは今や日本だけに留まらず、世界でも屈指のサッカー選手にまで上り詰めた超有名人。そいつと自分が今もダチなんだって事を彼女に証明できるチャンスでもある。

そう、かの有名な藤原新一と。

数回のコール音のあと少しの間をおいて、おー。と、少しだるそうな声でシンが出る。

まず、電話に出たことにホッとする。コイツが掴まらないと話がはじまらない。

「よぉ、シン。久しぶり。元気か?」

『おぉ、衛じゃん。久しぶり。まあ、適当にやってるよ。お前も元気に消防士やってんのかよ』

「あぁ、まあ、うん。頑張って火消しやってるよ」

『マジでかー。高校ん時は煙草パカパカ吸って、ポイ捨ての常習犯だったのにな?』

「バッ! おまっ、そういう事言うなよ。今は吸ってねーよ、やめたよ煙草!」

『あははっ! 何、焦ってんだよ。へぇ、やめたんだ煙草。お前も真面目くんやってんね』

「ったりめーだろ? 市民の安全を守るのが俺の今の使命よ」

『ぶははっ! 言ってろ』

久しぶりに話すけれど、何も変わっていない高校時代からの友人。

その懐かしい雰囲気に包まれながら、衛は暫し高校時代に戻ったような感覚だった。

暫くそうして他愛無い話をしていたけれど、本題を話す前に切りそうになって慌てて話を引っ張り戻す。

「ところでさ、シンって明後日の木曜ってオフ?」

『明後日? あーっと…あぁ、オフ。多分なんも予定入ってないと思うけど? なに、集まんの?』

よし、なんかいい流れだ。

このまま何とかOKしてくれ、シン!

「うん。集まるって言うか、俺と片岡と森口と小池とさ、あと俺の彼女とその友達数人と飲もうかって話しになってて。確かシンも日本(こっち)帰って来ててオフだって言ってた記憶があったからさ、久しぶりにお前もどうかなーって思って」

『……それって要は合コンだろ』

「えーっと……そうとも言うかな?」

『そうしか言わねえよ。俺、パス。合コンなら行かない』

「なあ、シン。そんな冷たいこと言うなよー。久しぶりに飲もうぜ?」

『お前らヤローだけならいくらでも行くよ。俺だって久しぶりにお前らと飲みてえしな。でも、女がいるなら行かない』

「なんでだよー」

『はぁ? なんでだぁ? んなもん、俺には姫子がいるからに決まってんだろ。俺、ケッコンしてんの。3歳になる愛の結晶がいんの。もう一人姫子のお腹に今、いんの。所謂妻子持ちなわけ。行くわけねーだろ!』

「いや、でもほら。たまには息抜きも必要じゃん? 別に女とどうこうならなきゃいいんだし、飲みにだけでも来いよ。CLUB.METORONってとこ、とりあえず夜の7時から10名で予約取ってっからさ」

『行かねえっつってんだろ、しつけーなぁ。息抜きなら姫子とする。人数が足りないなら俺よりうってつけのヤツがいるだろうが』

「うってつけ? 誰だよ、それ」

『万年旱(まんねんひでり)の染谷』

「そめやぁ? あいつはいいや……酔っ払うとめんどくせーし」

『あー、酔っ払いで思い出した。そのめんどくせー酔っ払いに言っとけ。人の名前を悪用すんな!って』

「は?」

『あの、万年旱ヤロー…事あるごとに、“俺っち藤原新一と親友でさ、会わせてやるからデートしよー”とか言って、所かまわず口説いてるらしいじゃねえか。苦情がこっちにも来てんだ、とんだ迷惑なんだよっ!』

それを俺に怒鳴られても。

直接言やあいいじゃねえか。

『とにかく、合コンなら俺は行かない。今週の日曜まではオフだから、それまでにヤローだけで集まるなら声かけてくれたら必ず行く』

そういう事で、じゃ。と、聞こえた時には電話は切れていた。

相変わらずドライなヤツ。

やっぱりダメだったかと一つため息が漏れたけど、最初からそんな予感がしていたので諦めも早かった。

まあ、シンと久しぶりに話せただけでも良かったかな。

アイツが言うように、今週末までにヤローだけで集まって飲むのも悪くないな。と思い返し、ちょっと段取りを立ててみようとカレンダーを見やる。

アイツとコイツと…あの4人だろ? あと誰に声かけるかな……と、携帯に登録しているアドレス帳を送りながら考えていると、突然着信音と共に画面が切り替わって、「藤原新一」の文字が出る。慌てて、もしもし? と出てみたら、あのさー。と先ほどと変わらぬトーンが耳に届いた。

「合コンの場所、確かメトロンとか言うCLUBだったよな? んで、時間は夜の7時から」

「あぁ、そうだけど……なに、気が変わって参加してくれるとか?!」

思わず声が大きくなってしまった。

それに、お前声でかすぎ。と呟いて、新一は耳を疑いたくなるような事を言った。

「いや、俺は参加しねーけど。人数足りねえんだろ? さっきお前と入れ替わりに万年旱から電話かかってきてよ、女紹介しろってまたウゼー事言ってきやがったから、そっちのコンパの事言っといたぞ?」

「は? マジで?」

また、なんて余計な事を……

「おぉ。なんか、すげー喜んでたわ。久々のコンパだーっ!つって。だし、宜しく頼むわ」

よろしくって……頼まれたくねーんだけど。

衛は軽く頭痛がしてきて、思わずこめかみに手が行った。

「あー、それと。染谷に会ったら俺からだって、蹴り一発入れといて」

回し蹴りでもいいから。と、笑いながら新一は電話を切った。

どうせなら病院送りにしてえよ。

はぁ…頭痛ぇ。

染谷のヤツ、来るなっつっても絶対来るよなぁ…せっかくMETORONの予約取ったし、今更場所変えたくねえし。どうすっかなぁ…

染谷太郎。万年旱の迷惑男。アイツが来るといつも何かしら問題が起こる。

今回の合コン、何も起こらなければいいけれど……