ほんのり恋の味


未知なる世界へ ...13.END

出血も薄っすらという程度にしかしてなくてホッと2人で胸を撫で下ろし、篤に体を綺麗に拭き取ってもらってからベッドの上でまどろんでいると、2人共がいつしか眠りについてしまっていた。



私が薄っすらと意識が戻ったのはあれから2時間程経ってからだった。



私ってば、篤に抱きしめられたまま寝ちゃってたよ。



自分を包み込むように回された篤の腕に頬を赤らめながら、体の向きを彼の方に変える。

スー、スー。と軽く寝息を立てながら、私の隣りで眠る篤を暫くの間じっと見つめていた。

長い睫毛、スッと筋の通った鼻、少し赤みがかった形の良い唇、整った眉、陽に照らされるとオレンジに輝く綺麗な髪。

篤をつくる全てが好き。

こんな感情になるなんて、以前の私では考えられなかったけど、篤がそれを教えてくれて、私の全てを変えてくれた。

篤を好きになってよかったな、って思う。

篤が私を好きになってくれて、本当に嬉しいって…そう思う。

篤と一つになれて、私、少しは変わったのかな。

美佳子が言っていた言葉を思い出して、ふとそんな事が気になり出す。

私は篤を起こさないように気をつけながら、腕から抜けると下着を着けて、近くにあった篤のシャツを羽織って部屋の隅にある姿見の所まで移動する。



んー……何か変わった?



鏡の前に座り込んで、色んな角度で自分を映してみる。

だけど、何の変哲もない今まで通りの自分の姿。

見えてるものだって今までと何も変わらないように思える。



何が変わるんだろう?



「加奈子…何やってんの?」

「えっ…ひゃっ?!」



突然背後から篤の声が聞こえてきたかと思ったら、ふわっと後ろから抱きしめられる。

鏡に映った自分と篤。

篤がまだ下着しかつけていない事に気が付いて、真っ赤に頬が染め上がる。

「俺のシャツなんか着ちゃって……色っぽいじゃん」

「だっ、だって…近くにあったから…」

「鏡なんか見てどうした?」

「んー…美佳子がね、その…好きな人とエッチすると綺麗になるって言ってたから。どうなのかなー…なんて」

相変わらず……どこまで正直に言うんだ私。

言っときながら、恥ずかしくなって俯いてしまう。

「加奈子は充分綺麗じゃん。俺が惚れちゃうくらいだよ?あぁ、でもあれか。女っぽくなるって事?」

「さぁ……深い意味は分からないんだけど」

「きっとそういう意味じゃない?女の子から女に変わるっていう意味の」

「そ…なのかな」

「ん、きっとそう。加奈子は今日初めて女になったんだからさ、そんなにすぐには表に出ないって」



うわっ!そんな、ハッキリと言わなくてもいいじゃない。

先程の事を思い出して、俄かに自分の頬が染まる。



「俺も加奈子もまだ歩み出した所なんだから……これから俺が加奈子を綺麗にしていってあげる」

「……篤」



篤は、ちゅっと頬にキスをして鏡越しに私に微笑みかけてくる。



まだ歩み始めたばかり……?

まだまだこれから変わっていくの?

これからもどんどん私は変わっていっちゃうんだ。

篤の手によって。



どうなっちゃうんだろう、私。

あぁ。やっぱり私には分からない事だらけだ。

私にとって…





――――未知なる世界は、まだまだ奥が深いらしい。





++ FIN ++