ほんのり恋の味


ほんのり恋の味:番外編 ...ヤキモチ

昼休み、私はいつものように昼食を取る為に、篤と屋上で並んで腰を下ろしていた。

今日は珍しく篤の方が授業が終わるのが遅かったから、私が彼の分も一緒に買って持ってきたの。

「ごめんな、加奈子。今日は授業終わるの遅くってさ。参ったよ」

「ううん、全然。いっつも篤が先に買ってくれてるから、たまには私が買わないとね」

はい。と言って買ってきたパンを篤に渡すと嬉しそうに笑いながら、サンキュー。と受け取る。

「あ、そうそう。パン代」

そう言ってゴソゴソとポケットから財布を取り出した時に、何かが一緒になってポトリと地面に落ちる。

「ん?篤・・・何か落ちたよ?」

私は地面に落ちた綺麗に折りたたまれた紙を何の疑問も持たずに拾い上げる。

「え?…って、うわっ!ちょっ、それヤバッ!」

そう少し大きな声で慌てて奪い返そうとするから、反射的にそれをかわす。

「え…ヤバイって?」

「あー、いやぁ…その、ほら。捨てるつもりだったから返して?」

その篤の曖昧チックな言い方に、自分の眉が訝しげに寄る。

「なに、その言い方。あ、もしかしてテストの答案用紙とか?点数が悪かったんでしょー。フフフッ…見てやる」

「んな訳ないし!…って、見るなって!!」

私は篤の制止も聞かずに、ニヤリと意地悪く笑いながら紙を広げる。

「え…なにこれ」

広げた紙には可愛らしい文字の列。

いくら恋愛音痴の私でも、一目でそれが何なのかは分かる。

……ラブレター?

「へぇ…篤、ラブレター貰ったんだ」

「……だから見るなって言ったのに」

「別にいいじゃない。ふーん…『斎藤君の事が好きです。よかったら付き合ってもらえませんか』だって…ふ〜ん」

可愛らしい文字を目で追いながら、口に出して読み上げる。


・・・・・ムカッ。


なっ、何今の?「ムカッ」ってヤツは?

私は自分の中を蠢くものに対して首を捻りながら、篤を見上げる。

「ちゃんときちんとこの件に関しては断りを入れて解決済みだからさ…加奈子、怒るなよ?」

「怒る?どうして私が怒るの?」

「ほら、俺が他の子から告られて、加奈子がヤキモチ焼いてくれるかなぁ、なんて」

「ヤキモチ…」

なんだ、それ。

「なんつーか。好きな子が誰かに告られたりしたら嫌〜な気持ちになるじゃん。そういうのヤキモチっつぅんだけど…加奈子は…なんない?」

「んー…、よく分からない」

よく分からないけど、さっきから気分はよろしくない。

私の知らない子が篤の事を好きなの?って。

私はじーっとその手紙を見つめ、無意識に思わぬ行動に出る。


ビリッ。


「……ぁ」

「……え」

やっ、破いてもた。

私の指先にいびつに割れた紙が二つ。それが風に揺られてヒラヒラと靡く。

「ごっ、ごめん。勝手に手が……」

「あーいや…、ん、いいよ」

「え、何で笑うの?破いちゃったのに、怒らないの?」

手紙を破いてしまった事の若干の後ろめたさと、自分の行動に驚きを感じながら篤を見る。

そんな様子の私にクスクス。と嬉しそうに笑いながら、篤は私の手から手紙を取った。

「怒るわけないじゃん。ちょっと嬉しかったからさ。加奈子がヤキモチ焼いてくれて」

――――自分では気付いてないと思うけど?

そう付け加えて篤はビリビリと細かく手紙を破く。

「え、ちょっ…篤。何、破いてるの?!」

「いいの!俺は加奈子が傍にいてくれたらそれだけで満足なんだから。これは必要ないものだろ?」

にっこりと笑ってそう言ってくる篤に、今まで自分の中に蠢いていたものがすっきりとなくなり、心が、きゅん。と温かいものが広がる。

そっか。さっきの「ムカッ」がヤキモチだったんだ。

それなのに、篤の言葉だけでそれが解消されちゃって。

恋愛って、なんか…複雑。

私は篤の手から風に乗って舞い上がる小さな紙を見つめながら、ふとそんな事を思った。