*恋するオモチャ






「――――・・で、誤解は解けたかな。いづみちゃん?」

彼女達が受験勉強する為に先に帰るね、と言って立ち去った後、私達も同じように喫茶店を出て2人並んで歩きながら、戸田君が私を覗き込むように体を屈める。

「え〜っと・・・ごめん。」

自分で言った事を思い返し、私は素直に戸田君に頭を下げる。

「じゃぁ、誤解も解けたところで・・・俺たち付き合おっか。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・はいっ?」

「・・・長い沈黙。」

クスクス。と笑う戸田君の顔を見て、一瞬何を言われたのか分からず歩みが止まる。

今、なんていったこの子?付き合おっかって・・・・え、付き合う?!

「え、付き合うって?」

「恋人同士になるって言う意味。」

「いや、そうじゃなくって・・・。」

『付き合う』って意味ぐらい知ってるわよっ!!

そうじゃなくて、どうして私が戸田君と付き合うのかって事。

「朝、いづみちゃん言ってくれたじゃん。俺のこといいかなって思ったって。」

「・・・言いましたっけ?」

忘れたわよ、そんな勢い任せで言った事なんて。

「言った。それにいづみちゃん、ちゃんと俺の気持ち理解してんじゃん。屋上で話してた時は伝わってねぇのかな?って思ってたけど・・・俺がいづみちゃんの事気に入ってるかもって自惚れてくれたんだろ?俺は「気に入ってる」んじゃなくて、いづみちゃんの事好きなんだけど。」

「そんな・・・突然好きって言われても。ひっ人の事をからかわないでよ。」

「今朝もそんな事言ってたよね、人をオモチャにして遊ばないでとか何とか。俺、一度もいづみちゃんの事をオモチャなんて思った事ないよ?俺ってこういう性格だから伝わりにくいかもしれないけど・・・俺はちっちゃくて可愛い、いづみちゃんが好き。先生目指して頑張ってるいづみちゃんが好きだよ?初日に階段とこでぶつかって、可愛いなって思ってから話をする度手を繋ぐ度どんどん、どんどんいづみちゃんの事好きになってく。」

・・・ちっちゃいは余計かと。

私の目を見てそう言ってくる戸田君の眼差しがすごく真剣で、まともに彼の目を見れなくて心臓が徐々に高鳴り出す。

「でもっ・・・だけど、あなたはまだ高校生で私は今年大学を卒業するのよ?」

「・・・だから?」

いや・・・だから。

「そんな、5つも年が離れてる子にそんな事言われても・・・。」

「年なんて関係ないじゃん。俺はいづみちゃんが好きだし、いづみちゃんは俺の事気に入ってくれてるんだろ?それでいいんじゃないの?」

「気に入ってるってだけで・・・好きだとは・・・」

「俺の姉貴にヤキモチ焼いたくせに、そういう事を言う?」

「ヤキモチ?」

ヤキモチっていつ私が彼女にヤキモチを焼いたって言うの?

勝ち誇ったような戸田君の顔を見上げながら、私は眉間にシワを寄せて首を傾げる。

「今朝元気がなかったのも、あんな剣幕で捲くし立てたのも、昨日俺が姉貴と仲良く本屋に行ったのを彼女だと思ったからだろ?5つも年下の男に恋しちゃったっていうの、認めたくないかもしれないけど、もっと素直になってもいいんじゃないのぉ?」

「私が?・・・私があなたに恋したって言うの?そんな、ちょっと気に入ったって言っただけでそれを恋だなんて取られちゃ困るわ。」

精一杯の強がり・・・だけど、もう自分でも気が付いてる。

彼の言う通り、私は戸田 幸太郎に恋をしてる・・・5つも年下の、しかも高校生の男の子に。

これから教師になろうっていうのに・・・なっ何たる不覚っ!!

戸田君は私の精一杯の強がりに凹むどころか、強がりだって分かってるかのように笑いながら私の手を握ってくる。

「そぉかなぁ。俺が朝、いつもの場所で待ってると嬉しそうに駆け寄ってくるの誰だっけ?昼、一緒にメシを食う時、楽しそうに俺の横で笑ってるの誰だっけ?手を繋いで歩いてる時、センコーじゃなく、ただの『高峰 いづみ』っていう女の顔になるのは誰だっけかなぁ?」

「・・・・・誰でしょう?」

もう言い逃れが出来ないほど、四方を固められてるくせに最後の悪あがきなどをみせてみる。

ちょっと大人気ない?

「とぼけたって無駄だからね?超、顔に出ちゃってるしぃ。」

戸田君は赤く染まった私の頬を軽くつつき、ニヤリと口元を上げる。

「・・・・・ぅ。」

「本当は、いづみちゃんだって俺の事を『気に入ってる』んじゃなくて『好き』だろ?」

「・・・・・さぁ?」

「あははははっ。この期に及んでまだシラを切る?素直じゃないなぁ、いづみちゃんは。」

「うっうるさい。」

「じゃぁ、俺がいづみちゃんの気持ち確かめてあげる。」

――――・・・え?

戸田君はニコっ。と微笑んでから繋いだ手を離して私の肩を抱き寄せると、そのまま唇を塞いできた。

目を見開いたまま固まる私。

突然の事で状況がイマイチ理解できずに、私の手から持っていたカバンが、トンっ。と音を立てて地面に落ちる。

長い・・・長い彼からのキス。

私はそれに酔いしれるように、彼の胸に手を当てて瞳を閉じ、彼からのキスを受けていた。

もう、言い逃れ・・・出来ないね。



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