*恋するオモチャ






次の日の朝も、私が家を出て暫く歩いた所に、戸田君はいつものようにしゃがんで待っていた。

「おっはよぉ、いづみちゃん♪」

「おはよう・・・戸田君。」

いつもとは違い少し声のトーンが落ちた私の声。

この子の顔みたら余計に気分が落ち込んできた・・・何でなのよぉ、もぅ。

「いづみちゃん、元気ないけどどうかした?体調でも悪い?」

「あ、ううん。そんな事ないよ?それより・・・戸田君毎日私を迎えに来てちゃダメじゃない。」

「あははっ。もう2週間も過ぎてんのに何を今更。」

「だって・・・彼女に悪いでしょ?」

「彼女?」

私の言葉に彼の首が訝しげに傾く。

「もぅ、彼女に怒られちゃうよ?いくら私が年上で恋愛っけないからって言っても一応「女」なんだからさ・・・誤解されちゃうかもだよ?私、彼女に恨まれたくないもん。」

「あのさ・・・。」

戸田君は私を見下ろしながら腕を組み、片方の手を顎に当てる。

「・・・誰の話、してんの?」

「え?誰って・・・戸田君以外に誰かいる?」

「いや・・・俺、ここ数ヶ月彼女なんて作った覚えないけど。」

「えっ!じゃぁ何、あの子は遊びだって訳?!ひどいよ、それ。私、昨日見たんだから。彼女と一緒に仲良く本屋さんに来たところ。可愛らしい子じゃない。あんな可愛い子を弄んでるわけ?戸田君見損なった!!ちょっとでもいいかなって思った自分が情けない。」

私は一方的に彼を責め立て捲し立てる。

「ちょっちょっ・・・タンマっ!!あのさ、いづみちゃん何か勘違いしてない?」

「何が勘違い?お互い下の名前を呼び合うくらい親しい仲なんでしょ?あんな可愛いい子がいるクセに、毎日毎日私を迎えに来て、お昼も一緒に食べて・・・私だって女なんだよ?そんな事されたらちょっとは私の事気に入ってくれてるのかな?なんて自惚れちゃうじゃない。人をオモチャにして遊ぶのもいい加減にしてよっ!!」

一気に言葉を吐き出したから、ぜーぜー、はーはー。と、肩で息をしながら未だ顎に手を当てたまま止まっている戸田君を睨み付ける。

・・・・・って、勢い任せに何か変な事言った?私。

いいかなって思ったとか自惚れちゃうとか何とかかんとか・・・ん?

暫く自分の発した言葉を思い返していると、クスクス。と小さい笑い声が頭上から落ちてくる。

「・・・・・何笑ってるの。」

「へぇ。いづみちゃんて、ニブチンかと思ったけど意外にそうでもないみたいだな。」

「はぁ?」

「まぁねぇ、昨日のヤツはお互い下の名前を呼び合うくらい親しい仲だけど?」

「だっだったら弄ぶなんて止めて、ちゃんと付き合ってあげなさいよ。」

「っつうか、身内だし。」

「・・・・・え?」

み・・・うち?

「・・・・・っつうか、俺の姉貴だし。」

「姉貴・・・って、えっ?!おっおぉお姉さん?でもでも、名前で呼んでたじゃない。」

「あぁ。それ昔っから。アイツさぁ、すっげぇドンくさくてさ、ガキん頃から何かと俺が助けてやってたからな〜んか「姉貴」って感じじゃなくってね。「お姉ちゃん」って呼ぶのもバカらしくて『美菜』っていつからか呼ぶようになってた。」

「嘘。」

「あはははっ。嘘じゃないって・・・ん〜じゃぁ、今日の放課後ちょっと付き合ってよ。」

「・・・・・放課後?」




私は戸田君の言葉通り、放課後彼と一緒に駅前にある喫茶店でお茶に付き合っていた。

「えと・・・喫茶店に来てどうするの?」

「ん?まぁ、その内分かるって・・・・・お、来たな。」

戸田君は口元をニヤリと上げて、入り口から入ってきた2人の人物に大きく手を振る。

私はその2人の方へ顔を向けて暫し固まる。

あ、昨日の女の子・・・・・と、誰?この綺麗な顔の男の子は。

「幸太郎、どうしたの?急に喫茶店に来いだなんてメールしてきて・・・て、あの?」

「悪いな、急に呼び出して。あ、修吾さんもごめんね。えっと、この人俺の高校に来た教育実習の先生。高峰 いづみちゃん。」

「ちょっと幸太郎。ほんとに先生にむかって「いづみちゃん」って呼んでるの?あっ!あの、はっはじめまして。私、幸太郎の姉の戸田 美菜って言います。いつも弟がお世話になってます。」

ぺこりと頭を下げる彼女は本当に可愛らしい女の子。

え・・・ほんとにお姉さんだった・・・の?

彼女ににっこりと笑われて、つられてこちらも微妙な笑みを浮かべる。

「おっ、何だ美菜。ちゃんと挨拶できんじゃん。」

「うぅぅうるちゃいっ!もぉぉっ。弟のクセに態度がでかいんだからっ!!あの、幸太郎・・学校でもこんなんですか?」

「えぇ・・・まぁ。」

ははは。と苦笑を漏らすと、やっぱりぃ。と彼女は隣りにいる男の子に向かってそう呟く。

「でも、幸太郎が言ってたように、先生すっごく可愛い人だね。」

え・・・。この子にまで私の事を話してたの?

彼女の言葉を聞いて、俄かに自分の頬が熱くなるのが分かる。

「だろだろ〜。俺が目を付けるってのも分かるよね、修吾さん?」

「クスクス。そうだね。」

「あ、いづみちゃん。この人、美菜の彼氏なんだけど超カッコイイだろ?なのに、美菜とらぶらぶなんだぜ?もぅ家にいたら当てられる当てられる。」

「ちょっと幸太郎。その言い方ひっかかるぅ・・・そりゃっ未だに私と付き合ってくれてる事が不思議に思う時はあるけど・・・。」

「こら、美菜。またそういう事を言う。」

修吾さんと呼ばれた男の子が、ぽんっ。と軽く彼女の頭を叩くと、だってぇ。と小さく舌を出しながら彼女が肩を竦める。

すごい・・・らぶらぶ。

あえて確認しなくても分かる。間違いなくこの子達は恋人同士。

2人の雰囲気を羨ましく思いながら、彼女達を見つめる。



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