*恋するオモチャ






な〜んか、嫌だなぁ。今日学校行くの。

私は昨日の事を思い出し、少し憂鬱な気分で支度をする。

戸田君・・・何であんな事したのかしら?

やっぱり面白がられてるとしか思えないよね。

って事は、今日学校行ったらそのネタで笑われちゃうんだ。

「ホッペにチューしただけで真っ赤になっちゃうんだぜぇ。」みたいに言われて。

あぁ、やだやだ。ホントやだ・・・行きたくな〜い。

でも行かなきゃ教職取れないし。

もうサイアクっ!!

私は大きなため息を付くと、力なく玄関を開けて外に出る。

暫くトボトボと俯きながら歩いていると、不意に後ろから自分の名前を呼ばれた。

「い〜づ〜みっちゃん♪」

その声にぞわぞわぞわっと背中を震わせて、ゆっくりと振り返る。

・・・・・まさか。

「とっ戸田君?!」

振り返るとすぐそこの壁に背をつけてしゃがみ込んでいる戸田君の姿。

彼は私と視線が合うと、ヤッホー♪と可愛らしく笑って手を振る。

「なっなに・・・どうしたの?こんなところで。」

「何って、いづみちゃんと一緒に学校行こうと思ってさ。ずっと待ってたんだって。」

「一緒にって・・・。」

・・・・・いつから待ってたの?

「家まで迎えに行きたかったのにさぁ、いづみちゃん昨日教えてくんなかったからここで待ってるしかなくって。超待った。」

「何も待ってなくても。」

「えぇー。待ってなきゃ一緒に行けないじゃん・・・よっと。んじゃ行こっか。」

戸田君はそう言って立ち上がると、昨日と同じように手を繋いでくる。

「ちょっちょっ・・戸田君?」

「ん、何?」

「何?じゃなくて、手。どうして、手を繋ぐの?」

「危なくないように。」

「これから学校へ行くのに、手を繋ぐのは・・・それに昼間だし、危なくないし。」

「学校の手前で離せばいいじゃん?気にしない、気にしない。」

戸田君はそう言って笑うと私の手を引いて歩き出す。

気にしない、気にしない・・・って、私が気にするんだって!!



ほんとに戸田君って子が何を考えてるのか分からない。

急に手を繋いだり、ホッペにキスしたり・・・。

今日の授業の時だって、教卓の前の子と席を変わってもらってて一番前に座ってるし、お昼はお弁当を作って来たから屋上ででも食べようかなって思って屋上へ行ったら、購買でパンを買ってきて一緒に食べよう。って言ってくるし・・・。

その度にドギマギさせられるこっちの身にもなって欲しいわよ。

ドギマギ?・・・ドキドキ?・・・なになに??

一瞬自分の心に過った気持ちに首を傾げ、職員室の窓から見える空を眺めて、はぁ。と一つため息を付く。

あの子は一体どうしたいのかしら?私にどうして欲しいの?

反応を見て楽しんでる?男に免疫が無いから面白がってる??

背が小さいから子供扱いされてる?・・・って、それは関係ないか。

でも、そんな事をされて嫌な気分じゃないんだよね。

そりゃそっか。あんな可愛い顔した男の子だもんね、嬉しくないハズがない。

もしかして私の事を?・・・・・なんてほんの少しの期待だって持ってしまう。

でもなぁ・・・高校生だし?年も離れてるし・・・そういう気持ちじゃなくって、きっとあの子にしたら恰好のオモチャなんだろうな、私って。

オモチャかぁ・・・高校生にオモチャにされてる私って一体。



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