*恋するオモチャ






うわぁ。食堂相変わらず混んでるなぁ・・・。

女子棟・男子棟共にこの学食を使うから、昼休みのこの時間は生徒達でごった返す。

・・・こんな事なら頑張ってお弁当作ってくるんだった。

久し振りの「学食」と言う響きにつられて、ズボラをしてしまった自分を恨む。

「空いてる席はないかなっと・・・。」

私がキョロキョロと辺りを見渡していると、遠くの方から声がかかる。

「お〜い、いっづ〜みちゃん♪」

・・・・・この声。

聞き覚えのある声に、ピクッ。と反応して、その主のほうへ恐る恐る視線を向ける。

視線の先には爽やかな笑顔を浮かべ、コチラに手を振る「戸田 幸太郎」君の姿。

やっやっぱし。

私がその場で固まっていると、ニコニコと微笑みながら彼が私の元へ駆け寄ってきた。

「いづみちゃんもこれから昼メシ?」

「あ、うん。久し振りに学食で食べれるって思ってお弁当作って来なかったんだけど・・・相変わらずいっぱいだよね。職員室に持って行って食べようかな。」

トレイを持ったまま学食を出ようと体の向きを変えた所で、ぽん。と肩を掴まれる。

「だったらさぁ、俺らと一緒に食おうよ。席、取ってあるからさ。」

「え、でも・・・席取ってるって言っても人数分しか取ってないでしょ?私が行ったら友達が座れなくなっちゃうし、お邪魔だからいいよ。」

「いいって、いいって。んな事気にしなくってもさ。実はいづみちゃんが来っかなぁって思って席取っといたんだよねぇ。ナイス、俺!!」

戸田君は、にぱっ。と笑って指をパチンッ。と鳴らす。

取っといたって・・・。

「でも・・・。」

「ほ〜ら、早くっ。トレイ持ったまま突っ立っててもメシ食えないじゃん?」

「いや、だから職員室で・・・。」

「いいから、いいから♪」

私は半ば強引に戸田君に腕を引かれて、彼らの座る席まで連れてこられると、戸田君の隣りに用意されていた席に腰を下ろす。



・・・・・しっ・・視線が痛い。

戸田君の隣りに座った途端、周りに座る女の子達から一斉に矢のような視線が私に突き刺さる。

そりゃそうだよね。戸田君率いる彼のグループって結構カッコイイ子揃いだから、狙ってる子も多いだろうし。そのグループの中に私が混じってるもんだから視線が痛いのなんのって。


――――誰よ、あの女。


――――幸太郎君達と仲良くするなんて許せないっ!!


そんな言葉が乗っかってきそうな視線の矢。

私は一つため息を漏らすと、俯き加減にお箸を手に持つ。

「いづみちゃん、昼メシそんだけ?」

戸田君がトレイに乗ってる私のメニューを見て驚いたように呟く。

それだけって・・・ご飯(小)、味噌汁、サラダに魚の煮付け。充分じゃない?

「え?あぁ、うん。充分でしょう?」

「もっと食わないとでっかくなんないよ?」

「・・・・・いや、もう成長止まってるし。」

いっ嫌味か、それはっ!!

くそぅ。小さい頃にもっと牛乳飲んどくんだった。

今更そんな事を悔やんでも何にもならないんだけどさっ。

「あははっ、そっか。でも、いづみちゃんてちぃっこくて可愛いよな。俺、すっげぇタイプ♪」

「ぐははっ。幸太郎〜、な〜に学食でいづみちゃん落とそうとしてんだよっ。」

「えぇ?別にいいじゃん。素直な気持ちを言ったまでだけど?俺が先に目ぇ付けたんだから、お前らにはいづみちゃんはやらねぇぞっ!!」

・・・って、誰にもくれてやる気はありませんが?

『俺、すっげぇタイプ♪』サラリと彼の口から流れた言葉・・・その言葉に幾分か心を揺らされつつ、やっぱりからかわれてるよね?何て事を思う。

そんな話で盛り上がる彼らを尻目に、私は魚の煮つけをパクッ。と口へ運んだ。



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