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*恋するオモチャ 「やぁぁ。すっごい緊張してきたぁ・・・田辺先生、どうしよう？」 ２限目の授業の時間、田辺先生についてやってきた教室の前。 爆発寸前の心臓の音を感じながら、ドアを見つめる。 「クスクス。そ〜んな緊張せんかっても大丈夫。深呼吸３回してぇ〜。」 「あ、はい。す〜は〜・・・す〜は〜・・・す〜はぁ・・・って、緊張は解けませんってぇ。」 「あははっ。そうか？まぁ、なるようになるじゃろ。」 先生は、ぽんぽん。と肩を叩いてから教室のドアを開ける。 わわっ、待ってって！まだ、心の準備が・・・。 なんて言ってる余裕も無く、私は田辺先生に連れられ教室の中に入った。 一斉に集まる生徒の視線。 途端に、おぉ〜っ！と言う歓声なのか喚声なのか、分からないどよめきが教室を覆う。 うっわぁ〜・・・男だらけだっ。見渡す限りの黒い制服に圧倒されて一歩下がる。 どうか・・・どうか、オモチャにだけはされませんように。 「え〜と、今日から３週間教育実習生として来られた高峰 いづみ先生です。君達、仲良くしてあげてちょうだい。」 ・・・・・仲良くって・・・お友達になるわけじゃないんだから、その紹介の仕方はどうかと。 田辺先生の紹介の仕方に若干の疑問を持ちながら、自分でも黒板に名前を書き、自己紹介をしようと生徒達を見渡す。 「えっと・・・これから３週間、田辺先生と同じ教科の数学を・・・・・。」 「あっれ、いづみちゃんじゃん♪」 話の途中で腰を折られ、教室の後ろの席から男子生徒の声が耳に届く。 え・・・『いづみちゃん』って？ 私はその声に首を傾げながら、声の主の方へ視線を向ける。 「あ・・・あなた、今朝の。」 「う〜わ、超ラッキー。いづみちゃん、俺のクラスの担当だったんだ。」 「ほぉ。高峰さんと戸田君はお知り合いだったのかね？」 「あの、いえ・・・」 ・・・今朝会ったばかりです。 今朝会ったばかりの子に『いづみちゃん』と名前で呼ばれ、面食らってる私に田辺先生がコロコロと笑う。 「早速気に入られたようだね、高峰先生？」 「はぃ？」 「ねぇねぇ、いづみちゃんて彼氏いんの？」 「・・・へっ？」 「いづみちゃんて年いくつ？」 「・・・・え？」 「おぃおぃ、幸太郎。お前ばっか質問してんじゃねぇよ。いづみちゃん戸惑ってんじゃねぇか。」 「いいじゃん、聞きたいんだからさ。っつうか、お前が『いづみちゃん』って呼ぶなよ。」 いやいや、あんたもだ。 私が返答に困っていると、田辺先生がこの場を締める。 「まぁまぁ。個人的な質問は後から聞きなさい。とりあえず、高峰先生は只今２２歳の大学４回生で彼氏募集中じゃからね。」 「たっ田辺先生？！」 何をにこやかに言っちゃってくれちゃってるんですか、先生。 しかも、彼氏募集中って・・・何で知ってるんだっ！！ なんか・・・先行き不安になるのは私だけでしょうか？ ――――はぁぁぁぁ・・・疲れました。 まだ、一回しか授業をしてないと言うのに、どっと疲れが体にのしかかる。 あの後もずっと質問攻めで、マトモに授業にならなかった。 完璧オモチャにされてる気がする。特にあの子・・・ 「戸田 幸太郎」君。名前覚えちゃったわよ。 カッコイイ顔とは少し違って、どちらかと言うと可愛らしい顔の甘いマスクの持ち主。 少しクセっ毛なのか、ふわっとゆるくパーマのかかったような少し長めの茶色い髪。 背もきっと１７５はあるわね。何を食べたらあんなに大きく成長できるのかしら。 きっとあの子、女子棟の女の子達から人気あるだろうな。 多分、私が同じ高校生なら絶対友人達と追っかけてたわ。 同じ年代じゃないのが少し悔やまれる・・・って、おぃおぃ。 でもそんな、私の事ばっかり聞いてどうするのかしら？ あっ！色々知って、それをネタにからかおうって事？うぬぅ・・・からかわれる要素がありすぎる。 童顔・背が低い・彼氏募集中・・・・・はぁ、頭痛い。 初日からこんなんで、やっていけるのかしら私。 『いづみちゃん』そりゃ、可愛い顔した男の子からそう名前で呼ばれるのは悪い気はしないけど・・・からかわれてるとしか思えないよね。 １７歳の高校生に・・・からかわれてる。 もぉぉ！何で、女子棟にしてくれなかったのよぉ！！ そんな事をぼやいた所でどうにもなる訳でもなく・・・。 「・・・ご飯食べよ。」 私は気を取り直して、食堂に昼食を取りに行く事にした。 |