*恋するオモチャ ――――・・さっきから、ナンなのよもうっ! 幸太郎のクラスの授業中、私が黒板に文字を書くために後ろを振り向く度生徒達から、ヒューッ。とか、うぉーっ。などと囃し立てた声を浴びせられる。 さっきから何故そんな声が自分にかかるのかが分からない。 ・・・何?なんでみんなそんなニヤけた顔してるのよ・・・何かついてる? 私は訳がわからずに、みんなの顔をキョロキョロと見渡しながら眉を顰める。 と、そこで幸太郎グループの内の一人から思わぬ声が上がった。 「幸太郎ー。お前、失恋だな。いづみちゃんの事、諦めろよ。」 「え〜っ!マッジでぇ?きっついな、それ。」 幸太郎カワイソー。とか言う周りの声に混じって、彼のわざとらしい嘆き声が聞こえる。 ・・・何?諦めろとか、かわいそうとか・・・。 あ、幸太郎のグループの子が言ってるって事は、私と幸太郎がそういう関係になった事をクラスのみんなにバレないように、ひと芝居打ってくれてるのかしら? 昨日の帰り際、私と幸太郎がこうなっちゃった事クラスのみんなにバレないかなぁ?って言ったら、 『一応、俺の仲いい連れにはバレてる。でも、そいつら口堅いしあの連中の中にも女子棟のセンコーと付き合ってるヤツもいるからね、何かと協力してくれると思うよ?』 なんて言ってたっけ。女子棟の先生と付き合ってる子がいるなんてびっくりだったけど・・・だから協力してくれてこんな事を? ・・・・・・・に、しても。様子がなんだかおかしい。 みんなして私を見ながらニヤニヤ笑ってるし・・・中には、いづみちゃんやっるぅ〜。なんて声も聞こえてくる。 だから、だからさっきから何なのよもうっ!! 何に対して騒がれてるのか検討もつかずにイライラと怒りがこみ上げて来た頃、教室の隅で私の授業を見ていた田辺先生が私に歩み寄り、コソッ。と耳打ちをしてきた。 「高峰先生・・・それはちぃっと生徒達には刺激が強いかもしれんねぇ?」 「・・・え?何の事ですか?」 「付いとるよ。首の後ろに大事なモノっていう印が。」 ・・・・・しるし?・・・なんの事? 「あ・・・はぃ?」 田辺先生は未だに言ってる意味を理解していない私に、コロコロと笑いながら再び一言だけ囁いてきた。 「キスマーク。」 「キスっ・・・なっ?!っへ??えぇぇっ!!!」 言われた途端、首の後ろを慌てて押さえ真っ赤な茹ダコのように染め上がる私の顔。 恥ずかしさで全身が燃えるように熱い。 それを見ていた生徒達から一斉に、ヒューッ!いづみちゃん、おっとなぁ〜♪と、囃し立てる声がより一層大きく私に降りかかってくる。 あっ・・・あっ・・・あんのヤローッ!! 私が真っ赤な顔で、チラッと幸太郎に視線を動かすと、机の上に両肘をついて掌を組み合わせ、そこに顔を当てながら密かに笑いを堪えてコチラを見ている彼の姿。 ――――・・いづみは俺のモノだからね。 意識を失う直前に聞こえたような気がした幸太郎の声・・・まさか、あの時? ばっバレナイ所にって言ったじゃないっ!! ぉわっ!もっもしかして、今朝髪をアップにするように言ってきたのも・・・この為に? しっ信じられないっ!そりゃ、彼のモノって言ってるみたいで嬉しくもあるけど・・・でも、これじゃぁ見世物みたいじゃないぃ。 私はすっごく恥ずかしくなってきて、ちょっとお手洗いに行ってきます。と伝えると、許可の返事を待たずに教室を飛び出した。 教室からは私を追いかけるように生徒達からの冷やかしの声が背中越しに聞こえてくる。 やだ、もうサイテーっ! 何よ、何よ。人の反応見て面白がって、オモチャみたいに弄んでっ!! ――――・・教職受かったらさぁ、うちの高校受けなよ。 ――――・・いい?うちの高校受ける事、絶対約束だからね!! 誰が、こんな高校受けるかっ!! 絶対絶対、教職受かってもこの学校だけは来ないんだからっ!!! 後で、覚えてらっしゃいよ。戸田 幸太郎・・・。 はぁぁ。でも、あの子の笑った顔で、許してね。なんて言われたらきっと許しちゃうんだろうな、私。 きっとあの子の事だから、俺のモノって示したかったんだからいいじゃん♪なんて可愛らしく笑って言うに決まってる。 もぉぉ。すっかり17歳の男の子に翻弄されちゃってるじゃない。 私はトイレに駆け込み蛇口を捻ると、鏡に映った真っ赤な茹ダコのような自分の顔めがけて、ばしゃっ。と勢いよく水をかける。 ・・・教育実習終了まで後2日。 それまでずっとオモチャにされちゃうんだろうな、私。 ・・・・・んもぅっ、いやんっ!! + + FIN + + |