*恋するオモチャ






私はキッチンで紅茶を入れてトレイに乗せると、はぁ。と一つため息をついてから部屋に運ぶ。

ベッドにもたれる形でカーペットの上に座り、珍しそうにあっちこっちとキョロキョロと見渡す戸田君。

・・・なんで連れて来てしまったんだ、私。

「ちょっと・・・そんなにジロジロ人の部屋を見ないでよぉ。」

「何で?別にいいじゃん。っつぅか女の子の部屋〜って感じ。」

「一応これでも女ですから?・・・でも、戸田君なら女の子の部屋なんて見慣れてるでしょう?」

「ん〜まぁねぇ。でも、一人暮らしってのはいなかったからなぁ。」

サラリと胸がチクッ。と痛くなるようなこと言うわね。

『まぁねぇ。』・・・か。ちょっと複雑な気分。

コトン。とガラステーブルに紅茶の入ったカップを置くと、それを見ていた戸田君が片膝を立てながら小さく笑う。

「クスクス。いづみちゃん、気になる?」

「・・・何が?」

「俺の過去。」

「・・・別に。」

「へ〜ぇ。いづみちゃん大人じゃん。」

「あっ当たり前じゃない。」

何て、大嘘。すっごく気になって仕方ない。何人彼女いたの?何人と関係を持ったの?何人に・・・本気だった?

だけど今更過去の事をむしかえした所で、何が生まれる訳でもない。

例え生まれてきたとしても、それはただの醜い嫉妬心だけだもん。

だから、いくら聞きたくっても聞かない。前に友人達と話してた時もそんな話が出たから。

――――過去を知った所で幸せな気持ちになんてなれない。って。

「これだけは言っておくけど、俺、浮気は絶対しないから。」

「クスクス。ほんとにぃ〜?突然若い女の子に気持ちが行っちゃったりして。」

「ひっでぇな、それ。俺ってそんな軽そうに見える?」

「若いもんね?・・・ひゃっ?!」

戸田君の言い方が少しおもしろく思えて、クスクス。と小さく笑ってそう呟くと、突然腕を引っ張られて、体が彼の腕の中に納まる。

「年齢は関係ないって言っただろ?『若いもんね?』って、いづみちゃんはそういう風に俺の事見てんだ?俺がまだ高校生だから、面白がっていづみちゃんと付き合ってるって思ってんだろ?」

「・・・・・だって。」

「本気でいづみちゃんに惚れてるって言ったじゃん。他の誰にも渡したくねぇし、触れさせたくない。俺さぁ、けっこー独占欲強いから覚悟してよね。付き合ってるのが俺、って言わなくてもいいから、ちゃんと彼氏がいるって言わなきゃダメだからね?」

「そんな事言わなくっても、誰も私なんて相手にしないって。こんな童顔な22歳の女なんて、恋愛対象にならないって。」

戸田君の腕の中で真っ赤な顔で呟くと、彼は、はぁぁ。と、大袈裟と言うほどのため息を漏らす。

「やぁっぱ、いづみちゃんってニブチン。」

「にっニブチンて・・・。」

「そういう童顔な所がまた可愛いんだろ?俺のクラスにもいづみちゃんの事気に入ってるヤツ結構いるんだって。22歳に見えない所がいいよなぁ、とかさ。小動物みたいで可愛いよなって。」

・・・・・褒められてるのか、けなされてるのか。

小動物って、タダ単に背がちっちゃいからだけなんじゃ・・・。

「ねぇ、いづみちゃん。教職取れたらさぁ、うちの高校受けなよ。」

「えぇ!どうしてあの高校に行かなきゃ行けないの?それでなくても、あなたとこうなっちゃったから行くの気が咎めるのに。それにっ!男子棟配属になっちゃったら、それこそオモチャにして遊ばれちゃうもん!!」

「あはははっ。オモチャって、いづみちゃんが可愛いから弄ってるだけだろ?それに、他の高校行ったら悪い虫が付くかもしんないじゃん。」

「女子高希望だもん・・・周り女ばっかりだもん。」

「でも、教師には男もいるじゃん。」

「いや、でも・・・。」

「いい?うちの高校受ける事、絶対約束だからね!!」

あの・・・まだ私、行くとも何とも言ってませんが?

・・・ほんと、強引なんだから。

そう苦笑を漏らしながら、結構嬉しく思ってたりする自分がいる。

苦笑の裏で少しはにかんだ笑みを見せると、戸田君がぎゅっ。と抱きしめた腕に力を込めてくる。




「いづみちゃんはニブチンだから、体に教え込んであげる。」

「はいっ?!」

・・・何を突然?

「俺じゃないとダメな身体になるように。他の男が近づかないように、俺のモノだってわかるように。その為にいづみちゃんの家に来たからねぇ♪」

「・・・・・何、その不気味な笑みは。」

「不気味って・・・可愛い微笑みと言って。」

【悪魔の微笑み】・・・・・そんな言葉が頭に浮かぶ。

「でっでもでも、ダメだって。そんな急に・・・。」

「さっきいづみちゃんが言ったんじゃん?『家ならまだしも』って。教師のクセに嘘付くわけ?」

「まだ教師じゃないので・・・。」

「先生って呼べって言ったの誰だっけ?」

「教職受かって教師になったらって言ったの誰だっけ?」

「あ、そういう事言う?」

「そっそっちこそ。」

「ガキ。」

「なっ?!あっあぁなたにガキだなんて言われたくないぃっ!!」

「あなたじゃなくて、幸太郎って呼べって言ったろ?早く呼んでよ、俺の名前。」

・・・気が向いたらって言ったじゃない。

そう言い返そうとしたけれど、じっと真っ直ぐ見つめられる視線に何も言い返せなくなる。

「ぅっ。」

「ほら、は〜やく。い・づ・み?」

「わっ。人の名前を呼び捨てで呼ぶ?」

「いいじゃん、2人きりの時くらい。嫌なわけ?」

「いや・・・じゃないけど。」

「じゃぁいいじゃん。っつぅか、話逸らしてねぇで。早く名前は?」

ばっばれてたかっ。

「あ〜〜〜〜ぅ〜〜。こ・・・うた・・ろう?」

「ぎこちない。」

「はっ初めて呼ぶんだから、我慢してよっ!!」

そう真っ赤になって叫んだら、まぁいっかぁ。とニッコリと笑ってから、幸太郎は私の唇を塞いできた。



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