*愛しさこめて






「俺と美菜と比べたら、俺の方がいっぱい『美菜の事が好き』って言ってるよね?」

ある日曜の午後、いつものように自分の部屋で彼女を後ろから抱きしめた恰好でテレビを見ながら、ふとそんな言葉が漏れる。

「へ?そっそんな事ないよぉ。私だって…ちゃんと言ってるもん」

俺の言葉に対して、美菜は少し顔を赤らめながら恥ずかしそうに俺の腕に顔を埋める。

ホント……いつまで経っても変わらない彼女の可愛らしい仕草。

思わず、ぎゅっと力いっぱい抱きしめたくなる。

………と、同時に苛めたくもなる。

「えー。そうかなぁ?美菜からあんまり言ってもらってない気がするけど?」

なんて、相変わらずだなぁ。と自分で苦笑を漏らしながら、それでも意地悪く彼女の耳元に息を吹きかけるように、コソッと囁く。

んっ。と小さく呟いて、ビクッと震える美菜の体。

こういう反応されるから、余計に苛めたくなるんだけどな。

俺は美菜の体を更にきゅっと抱きしめて、耳朶をペロッと舐めてから甘噛みする。

「ねぇ、美菜。言ってよ、俺が好きだって」

「ひゃっ?!ぁっ…ん。そっそんな!恥ずかしいもん!!」

やっぱり…そう来るよね?改めて聞かれると、美菜はいつもこういう反応を見せる。

でもね、俺は最強に美菜にだけ意地悪なんだよね…知ってると思うけど。

「俺は聞きたいんだけど?美菜の気持ち」

「うぅ…だってぇ。いつも言ってるよ?」

「今、聞きたい」

「むぅぅ…あの…すっ好き…です…わぁっ!」

「ダメ。ちゃんと目を見て言って?」

真っ赤な顔で俯きながら呟いた彼女の体ごと自分に向けさせると、真正面から視線を絡ませる。

「やっやだぁ。はは恥ずかしい…」

「どうして?恥ずかしがる事じゃないでしょ?俺はいつも言ってるのになぁ」

「だって、だってぇ。どうしてそんな事急に言うの?」

「ん?別に理由は無いよ。美菜から『好き』って言って欲しいなぁって思っただけ」

「しゅっ修吾君は?…修吾君は私の事…」

「大好き」

「ぅっ…」

視線を絡めたまま即座にそう答えると、美菜は更に真っ赤に頬を染めて俯いてしまう。

あー、ダメ。ホント、可愛すぎっ!

こういう瞬間の美菜は誰にも見せたくない…っつぅか、全部誰にも見せたくないんだけど。

「ほ〜ら、美菜もちゃんと言って?」

「あーぅー…あのーね、私も…その…」

頬を紅く染めたまま、上目遣いで俺の事を見てくる美菜。

それって反則じゃない?

視線を絡め合わせたまま、俺は彼女に引き寄せられるように、柔らかい唇に自分の唇を重ねる。

ビクッと一瞬震える美菜の体。

それでもキスを止めずに、ゆっくり深く口内を弄ると、次第に美菜の体から力が抜けてきて、応えるように舌を絡ませてくる。

「んっ…ふぁ…」

甘美に漏れる美菜の声。

この甘く耳に届く彼女の声が好き。

キスをしながら、ごく自然な流れで美菜の服を脱がせて、手を彼女の肌に滑らせる。

この触れ心地の良い美菜の肌が好き。

彼女を形成する全てのモノが俺にとっては大切で、すごくすごく愛しくて堪らない。

ここまで自分が誰かに溺れるなんて思ってもみなかった。

だけど、今こうして美菜に溺れている自分が確かにいる。

溺死寸前だな、俺。

美菜の肌の温もりを自分の肌で感じ取りながら、俺は美菜を時間をかけて快感の渦に導いて行く。

「美菜…愛してるよ」

一つに繋がって、彼女の弱い部分を攻めつつ、腕の中で色っぽく艶のある表情の美菜を見つめながらそっと囁く。

「あっ…んんっ…私もっ…愛してる」

美菜は薄っすらと瞳を開けて、俺の視線と絡ませると、小さいけれどしっかりとそう口にする。

「美菜…」



――――私も、愛してる。



何十回の『好き』って言葉よりも、たった一度の『愛してる』が自分の心の奥底にずしんと響く。

それが美菜だからこそ。

やっぱり美菜には勝てないな。

そんな事を頭の片隅で思いながら、俺は愛しさを込めて美菜にキスをし、彼女と共に快感の渦にのみこまれて行った。



お題配布→『桃色手帳』






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