*熱く、熱く 『道具を使ったまがい物の綺麗じゃなく、芯から俺がお前を綺麗にしてやる・・・だから背伸びして化粧なんてしなくていいんだよ。お前はそのままの葵でいろ。俺の知らない所で変えようとするな』 ユキちゃんと初めて心も体も結ばれた時、そう言ってくれた彼からの言葉。 だけどね、やっぱりね、女の子としてはちょっぴりお化粧もしてみたいなぁ、なんて思うわけですよ。 だって、だって親友の沙智だって、ちょっぴりグロスを塗ったりマスカラ塗ったりして『大人』って感じなんだもん。 そういうの憧れちゃうよ。 ユキちゃんと付き合ってからは尚更。 いくらユキちゃんがそのままでいいって言ってくれてても、やっぱり彼に見合う女になりたいってそう思うもん。 だからね、今日は意を決してユキちゃんに言ってみる事にしたの。 「ねぇユキちゃん…あのね?」 「ん?葵、どうした」 ベッドに横になりながら、雑誌に没頭しているユキちゃんはどこか上の空で返事を返してくる。 「あの…グロス買ってもいい?」 「……はぁ?なんだよ、突然…そんなの買わなくてもいいっつったろ?」 「だってぇ…欲しいもん」 「一本持ってんだろーが」 「他の色も欲しい」 「ダメ」 うっ…素気無く却下。 でもでもめげないもん! 「ユキちゃんとお似合いだねって言ってもらえるようになりたいもん。ちょっとでもユキちゃんの為に綺麗になりたいの!」 「お前ね、別に他人に認めてもらう為に付き合ってんじゃねぇだろ?俺がいいっつってんだから、そのままの葵でいいんだよ」 「だってぇ…」 「あのさー。お前はそんなに俺に抱いて欲しいわけ?」 ユキちゃんは、はぁ。とため息を一つついて雑誌を閉じると、床にそれを落としてから、ベッド脇に座る私を見る。 「はっ?!へっ?なっなな何でそうなっちゃうの??」 「タダでさえ理性保つのに大変なのに、それ以上俺を挑発してどうしたいんだよ」 理性…保ってるんですか…あれで。 「ちょっ挑発だなんてしてないもん!ただちょっとお化粧して綺麗になりたいって…きゃぁっ!」 「それが挑発してるっつうんだよ。それ以上綺麗になんなくていいっつってんのに、分かんねぇかなぁ、葵は」 ユキちゃんは少し意地悪く笑みを浮かべながら、私の体を引き上げて、ベッドに組み敷き顔を覗きこむ。 私よりも数倍色っぽいんじゃないかって思うユキちゃんの表情。 それに暫く見惚れてから、今の状況を思い返し慌てて体をジタバタと捩る。 「やっ…そそそんなっ…綺麗じゃないもん!」 「自覚がないだけに、タチ悪いんだよ葵は。それ以上綺麗になってどうする?俺の心配事を増やしたいのか?俺にこれ以上ヤキモチ妬かせたいのかよ。背伸びなんてしなくていいって言っただろうが。俺が芯から綺麗にしてやるって言ってんのに、俺の楽しみを奪うわけだ、俺の大事な葵ちゃんは」 あっ葵ちゃんって……こっ怖っ!!びみょーに怒ってる気がするんですけどーっ。 なんか、なんか!謝った方がいい気がする!!うわわっ、どうしましょう。 「ごごごめんなさいっ!もっ…もぅ化粧したいだなんて言わないから、ね?あの…許して?」 「イヤ」 そくとーっ!やだぁ、完璧意地悪モード全開のユキちゃんだぁ。 ヤバイです…ひっじょーにヤバイです。 「綺麗になりたいんだろ?葵」 「あのっあの…今のままで…結構です」 「遠慮すんなよ。でもなぁ、最近色っぽさが加わって更に人気上昇中の葵だからなぁ。ま〜た俺に抱かれて綺麗になっちゃうよなぁ?どうしようか、葵〜」 ひえぇぇ。もうこうなったら誰もユキちゃんを止められない。 あぁ、神様…今日は自分の足で帰れますように。 「あっ…ユキちゃっ…」 「こんなに俺を翻弄させるくらいいい女なのに…これ以上になってどうすんだ?」 「やんっ…ダメぇっ…」 「何がダメ?俺の指が動く度に、腰が動いてんだけど…えっちぃ、葵」 「んっやぁっ…変な事言わない…でぇ」 「可愛いよ、葵。そういう女の顔は俺の前でだけ見せたらいいんだよ。それでなくても最近マジで女っぽくなってんのに…無邪気に俺の為に綺麗になりたいなんて言ってんなよ。今のままでもお前は充分だから、俺には勿体無いくらいの女だから。俺を困らせるような事言うな」 「ユキちゃん…」 そんな風に言ってもらえるほど、私はいい女だなんて思ってないんだけど。 「分かったか?葵」 「ん…分かった」 「本当に分かったのかよ、葵」 「わ、分かったもん!」 「イマイチお前の場合、そういうとこ信用できねぇんだよなぁ。」 うぅ…それはどういう意味よぉ。 そりゃ、分かった!って言いつつも少し分かってなかったりするけれど……でも、好きな人の為に綺麗になりたいって思うのってダメなの?女の子ならみんなそう思うとおもうけど… そう言うとまたユキちゃん怒るから、絶対言わないけど。 「俺には勿体無いくらいの女だけど、やっと手に入れたんだから、絶対誰にもやらないからな。葵は俺だけのモンだから…覚えとけよ?」 「ユキちゃ…ぁっ!」 ユキちゃんはそう言って色っぽく視線を絡めてくると、熱く熱くキスをしてきた。 私だって、やっと思いが通じたんだもん。ユキちゃんを誰にも渡すつもりないよ? なんて、心の中で強く思いながら彼からのキスに応えた。 ユキちゃんからの熱いキスで思考回路がパンクしちゃった私。 自分の足で家に帰れますように、と言う小さな願いは儚くも消え去った事に気づけないでいた。
お題配布→『桃色手帳』様
|