*絶対奪ってやる






新しい学年になり、いづみも無事教職免許を取って、晴れて俺の通う高校の教師になった。

もちろん俺らの関係は続いていて、彼女が気にする教師と生徒の禁断の恋を維持していた。

別に俺としては、2人の立場がどうであろうと関係ないんだ。

お互いの心が通じ合っていたら、それでいいと思うんだけど、どうやらクソがつくほど真面目ないづみはこの「禁断の恋」と言うネーミングが気に入らないらしく、いつも口癖のように『どうして生徒に恋しちゃったんだろう』って、ボヤいてる。

ま、そんな事全然気にしちゃいないんだけどね。

だってさ、口ではそんな事言ってっけど、すんげぇいづみの俺に対する気持ちが伝わってくるから。

もちろん。俺だっていづみの事は大事だし、すごい好きだよ?そんなの決まってんじゃん。

だからいづみが教職受かった時に、無理矢理俺の通う高校に就職するようにさせたんだから。

いづみってさ、自分じゃ気付いてないんだけど、結構男心をくすぐるタイプなんだよな。

だからさ、気が気じゃないじゃん?他の高校に通って男子生徒や教師に惚れられでもしたら、俺冷静じゃいらんなくなるし。

できるだけ自分の目の届く範囲に置いておきたかったんだ、いづみを。

ほら、言ったろ?俺、独占欲強いって。

でさ。いづみの授業を受けてる時、やっぱりどーしても弄りたくなっちゃうんだよね。

俺が授業中に、「いづみちゃーん、そこ分かんない」って声かけるだけで、真っ赤になって、ビクってなるんだぜ?

可愛すぎでしょ、それって。

あとで、めいっぱい怒られるけどね。「またオモチャにして遊んで!」って。

それも俺の愛情表現だっていつになったら分かるんだろうね、彼女は。

でさ、やっぱ自分の彼女なんだし、隙があればいつだってキスとかしたいと思うじゃん?

でも最近のいづみはやたらとガードが固い。

正式に教師になって、ここに通うようになってからは、一緒に屋上でメシを食うのも嫌がるし、触れる事すら拒まれる。

まぁ、仕事として来てるんだから、彼女のそういう行動も分からなくもないけれど、血気盛んな年頃の俺としてはちょっと面白くないわけ。

いつだってどこでだって好きな彼女に触れたいって思うのは、別に悪い事じゃないと思うんだよね。

だから、俺の最近の目標…っつったらおかしいけど、目指せ!奪、学校でのキス!

見てろよ?絶対、奪ってやるから。



「いーずーみちゃんっ」

ある昼休み、俺は数学の教官室で一人、次の授業の資料を作っている彼女の元へとやってきた。

「うわっ!こっ…とと戸田君…なっ、何?突然」

彼女は俺の姿を見るなり、真っ赤に頬を染め上げて、ドモリながらあたふたと視線を泳がせる。

あー、ダメだ。こういう反応可愛すぎ!だから、弄りたくなっちゃうんだよなぁ。

何って?…いづみの唇を奪いに来ました!

なんて事も心に秘めながら、俺は後ろ手にドアを閉めて彼女に歩み寄る。

「いやさぁ、さっきの授業で分からないとこあって?教えてもらおっかなぁ、って」

「分からない所って、あなた数学得意でしょう?分からないハズないと思うんだけど…」

「えー、俺にだって分からない所だってあるって。ねぇ、ところで他の数学の先生は?」

俺は彼女との距離を縮めながら、キョロキョロと辺りを見渡す。

とりあえず…この部屋には誰もいないみたいだな。ヨシヨシ。

「え?あ…みんな職員室にいて…って、何か企んでない?」

「ん?別に何も企んでないよ…疑り深いなぁ、いづみちゃんは」

「ホントに?」

「俺が嘘ついてるように見える?この澄んだ瞳を見てよ」

パチパチパチと、数回瞬きをする俺をじーっと見つめてから少し安心したように笑って、どこが分からないの?と、自分の使っている席に座っていづみが俺を見る。

俺はその純粋すぎるいづみの様子を見て、内心ほくそえみながら、彼女の隣りに椅子を持って行き、持っていた教科書を机に広げる。

「ここ…この方程式の使い方がイマイチよく分かんない」

「え?ここ…ん〜と、これはね…」

そう言って、肩まで伸びている髪を耳にかけながら教科書に視線を落とす。

俺は暫くその横顔をじーっと見つめてから、そっと小声で呟く。

「ねぇ、今日は金曜だから夜泊まりに行ってもいい?」

「どわっ!ちょっちょっと…こんな所でそういう話、しないでよ!」

「いいじゃん、別に。誰もいないんだからさ…ちゃんと小声で言ってんだろ?」

「急に誰か入ってきたらどうするの?私、首になっちゃうじゃないー」

「だ〜いじょうぶだって。俺がそんなヘマをすると思う?ね、いいのかダメなのかどっちだよ」

「……いつもそう言って聞いときながら…必ず来るくせに」

真っ赤な顔して俺から視線を外す彼女の様子に笑みがこぼれる。

あ、今。俺だけが知ってる俺の彼女としての顔に変わった…ってね。

「ね、いづみ。俺の事好き?」

「ちょっ!なっ名前呼び捨て!!しかも、何てこと聞いてくるのよ!!」

「別にいいじゃん。2人きりの時はそう呼ぶって言っただろ?ほら、今聞きたいから言ってよ。ねぇ?」

「いーやーだっ!学校でそういう事は言わないのぉ!!もー、勉強しに来たんじゃないの?」

丸っきり子供じゃん。

駄々を捏ねるようにぷっと頬を膨らませて、俺を見上げてくるいづみに思わず笑いが込み上げてくる。

あー、もうすっげぇ可愛い。

「ねぇ、すっごい今、いづみの事抱きしめたくなっちゃった。抱きしめてもいい?」

「んな〜〜〜っ!ダメに決まってんでしょぉー!!もう、自分の教室に帰りなさいよ!」

「えー、やだぁ。まだ教えてもらってねぇもん」

「やだ。もう教えない。とっとと教室に帰った、帰った!」

「それが教師のすることかよ」

「幸太郎がそうやって変な事言ってくるからでしょ?」

「あ、今、幸太郎って言った」

「あ゛」

慌てた様子で口元を掌で覆ういづみに、ぶーっ、と噴出すと、思いっきり背中を叩かれた。

「ってぇ。叩くことないじゃんかぁ」

「もう知らない!もー、バカっ!!」

「クスクス。怒っちゃった?」

「怒りました」

「そ?じゃあ、一先ず退散しようかな」

「えぇ。そうしていただけると助かりますー」

「じゃあ、帰ってからた〜っぷり愛してあげるからね♪」

「なっ?!ちょっちょっと!!」

俺が立ち上がりながらそう囁くと、いづみも慌てた様子でシーっ!と言って立ち上がる。

いづみが立ち上がると同時に、俺はニヤっと笑って体を屈めると素早く彼女の唇を塞いでから、また一つ囁く。

「とりあえず、今はこれで機嫌直してね」

「☆◎x◇■@??!」

俺は真っ赤な顔で立ち尽くすいづみを見て、クスクス。と小さく笑いながら、とりあえず学校でのキス奪取成功♪なんて、思いながら、ちょっと短すぎたよな。なんて事も思ってて。

今度はどこで奪おうかな…などと、次回のキス奪取に向けて計画を練っていた。



お題配布→『桃色手帳』






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