*強奪 「なぁ、恵子ぉ。キスぐらいいいだろ?」 そう言って、直人は私の体を後ろから抱きしめてきて、頬に軽くキスをする。 「ぁん。もーダメよ、直人。直人の場合、キスしたらキスだけじゃ済まなくなるでしょ?」 「だってよぉ。最近、『べんきょー、べんきょー』っつって、ロクに恵子に触れさせてくんないじゃんかよ」 駄々っ子のように頬を膨らませて、直人はため息混じりに私の肩に顎を乗せる。 確かに。直人の言うように、最近は私の家に直人が来ていてもあまり触れさせないようにしている。 だって、私達は受験生。 今が大切な時だって分かってるから、中途半端な事はしたくないもの。 一生懸命勉強して、春から新しい生活を直人と一緒に過ごしたいから頑張ってって、直人の為にも言ってるのに…分からないかなぁ。 そりゃ、私だって直人に触れて欲しいし、キスだってして欲しい。 だけど、キスをしたらその後もしたくなっちゃうじゃない? そうなったら勉強どころじゃなくなっちゃうって自分でも分かってるから、極力キスもしないようにって心がけてるのに。 「なぁ、恵子。キスしようぜ〜」 「やぁだ」 「ほれ、勉強の合間の息抜きに」 「……さっき息抜きしたでしょ?」 「だぁぁ!もー。こんなに近くに恵子がいんのに、な〜んも手を出せないのは辛いってば。我慢する方が体によくない事だってあんだぞ?特に男はよ」 「なによ…特に男はって言うのは」 直人は抱きしめる腕に力を入れて耳元に顔を寄せると、そっと囁いてくる。 ――――恵子とヤル事ばっか頭に浮かんで勉強が手につかねぇの 「なっ?!ちょっ、ちょっと直人!何、考えてんのよバカ!!」 「ホントの事だから仕方ねえだろ?定期的にヤんねえと俺の健康状態に響く」 「あのねー…」 「だから、キスしよ♪」 「やだ」 ぷいっと顔を背けてテーブルの上に広げた参考書に目を移すと、「あっそ」と言う直人のため息混じりの声が聞こえてくる。 そんな、ため息混じりに言わないでよ…私だって辛いんだから。 少し後ろめたい気持ちになりながらも、諦めてくれたのかと安堵のため息をついた瞬間、くいっと後ろから顎を持たれて直人の方に向けさせられる。 「だったら…強奪」 そんな意地悪の入った言葉と共に、次の瞬間には直人の唇が重なっていた。 久し振りに感じる直人の柔らかい唇の感触に、きゅん。と胸の奥が締め付けられる。 最初は抵抗したものの、何度も角度を変えて浴びせられるキスに次第にその力が弱まってくる。 だって…だって、仕方ないじゃない? 私だって口では「ダメ」って言っときながらも、そうしたいって思ってた事に間違いはないのだから… 「んっ…んっ…直人…ダメ…だってば…」 「ダメじゃねえって…こういう息抜きもたまには必要なんだから…大人しくしてろ?」 「で、でもっ…」 「俺にとっては恵子を抱くのも勉強する時のエネルギーになってんの。悶々と恵子を抱く事ばっか考えて勉強が手につかないよりも、恵子を抱いてスッキリした上で勉強した方が捗るだろ?」 ちょっと…キスからいつの間に抱く方向に話が向いてるのよ。 しかもそれってこじつけじゃない? なんて思ってはみたものの、直人からされるキスといつの間にか服の中に入ってきた手が肌を撫で始めると、次第に何も考えられなくなってくる。 もう…ズルイ。 私が抵抗しなくなったのを確認すると、直人は嬉しそうに微笑んで、素早く私の衣服を取り去ると自分も着ているものを脱ぎ捨て、一緒にベッドに横たわる。 「あー…恵子のこの肌…久し振り〜」 クスクス、と笑いつつ私の肌に唇を這わせ始めた直人はそんな事を呟く。 「あん、もー。エロオヤジ!!」 だけど、本当に久し振りって感じ。 直人の肌の温もりも…触れてもらう時の体の痺れも。 「恵子…すげー濡れてんだけど、お前も待ってた?」 「まっ…待ってない!!な、直人がそのっ…そうやって…舐めるからでしょ?」 言っててすっごい恥ずかしくなって、瞬く間に頬が赤く染まる。 「いやいや。これは俺だけのせいじゃねぇって。んもー、恵子も素直じゃねえなぁ?俺と同じ気持ちならそう素直に言えばいいのに」 ……言えるわけないでしょうが。 秘部に唇を当て、音を立てながら刺激を与えられ、それに身を捩りながら、「バカ」とだけ呟く。 「なあ、恵子。もう入ってもいいか?俺、限界…入る前にイッちまいそう」 直人は一通り私の肌に唇を這わせて堪能し終えると、色っぽい表情を覗かせながら耳元でそう切なそうに囁いてくる。 私が好きな直人の表情の一つ…男の表情(かお) それをうっとりと眺めながら一つ頷くと、直人は準備を済ませて私の身体に覆い被さってくる。 「あっ…や…この体勢?」 「ん?別にいいじゃん、たまには普通でも。今日は恵子の表情(かお)を見てシタイ気分…嫌か?」 「別に…嫌じゃないけど…」 私はその表情(かお)を見られたくなくて、極力この体勢にはならないようにしている。 ……だって…恥ずかしいじゃない。 直人にずっと火照った顔を見つめられるなんて…。 そう思ったら、やっぱり恥ずかしくなって体を反転させようと思ったけど、直人の方が早かった。 一気に中に這入ってこられて、私の顎がグイッと上がる。 「んあっ!…やんっ…」 「くぁっ…はぁ…やっぱ恵子の中は最高!!体の向きを変えようたってそうはいかねえからな?今日は恵子の顔を見たいって言ったろ?」 「んっ…でも、はっ恥ずかしいでしょ?」 「なんで?恥ずかしい事なんて一個もねーじゃん…つーか。そんなの一瞬で考えられなくなっから心配すんなって」 「ちょっと…直人?」 ニヤリとした笑みを見せる直人に対して、少々ぞくっとした震えが背筋を通る。 「今までの分を取り戻すべく激しくすっから覚悟しろよ、って事。今日、帰ってからの勉強を捗らせるためにも、協力しろよな…恵子」 「え…」 ……………嘘。 協力ったって、直人。あなたはそれでいいかもしれないけど…私は? 私は勉強が出来るほどの余力を残してもらえるの? そんな心配を余所に、直人は私の膝を持って大きく押し広げると、序盤から激しく体を揺さぶってくる。 「あぁぁんっ!なっ…直人っ…こっ壊れちゃうっん!!いやっ…あぁあんっ…あぁぁんんっ!!!」 べっ…ベッドが…壊れる…そして…私も… 音を立てて激しくベッドが軋み、私の体が大きく跳ねる。 今日の攻められようはハンパじゃない…。 ちょっと我慢させすぎたかしら。 お互いの息が大きく乱れ、繋がる部分から卑猥な音が漏れる。 「ぁっ…恵子っ…すげっいい…その顔もいいよっ…お前、この体勢の方が感度いいんじゃね?…ぁっ、ヤバイっ…イキそう、俺」 「んぁぁんっ!…わっ私も…イキ…そう、ん!!」 「イク?恵子っ…も、俺イっていい?」 「いいっ…あぁぁんっ…イって…直人っ…私、もうダメっ…あぁぁああっ!!」 「うぁっ…恵子っ…あ、クソっ、やっぱ限界!……っっ!!!」 最初から最後まで激しく攻められ、直人とほぼ同時に果てた頃には私の意識は半分失いかけていた。 「恵子…大丈夫か?」 そんな優しい声と共に、額を撫でられる感触が伝わる。 「ん…なんとか。直人…激しすぎるよ…もう」 「仕方ねーだろ?あれでも極力抑えた方なんだからな?」 あれで極力抑えたの? 「恵子が我慢させすぎんのが悪いんだって…ホントはまだまだ足りないくらいなんだけどさー」 「うっそ…もう無理よ?今日はダメ!絶対、もうダメ!!」 「わぁってるって…そんな激しく拒否らなくてもいいだろうが。まぁ、今日のところはこれで満足する事にしとく…とりあえず帰ってから頑張れそうだし?」 「頑張ってもらわなきゃ困るわよ」 そうよ、そうでなきゃ抱かれ損じゃない?…って、そういう訳でもないけれど。 だって、直人の肌の温もりを直に感じられるのはやっぱり嬉しいし、幸せだもん。 「恵子?俺、ちゃんと頑張って勉強してっから、エッチは無理でもキスぐらいはさせろよな?」 「んー…考えとく」 「恵子ぉ〜」 そんなやり取りをしながら、お互いに微笑み合いどちらからともなく唇を重ねる。 妙にスッキリした感じの直人と対照的に、妙に疲労感の溜まった感のある私の体。 今晩、私は集中して勉強できるのかしら…。 やっぱり、我慢させるんじゃなくて、ほどよく定期的に…が、お互いにとっていいかもしれない――――と、ちょっぴり頭の中でそんな事を考えていた。
お題配布→『桃色手帳』様
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