*口、頬、オデコ






17年間生きてきて、初めて出来た自分の彼氏。

今まで友達の話を羨ましく思いながら聞いていた事が、全て自分でもできるだなんて思ってもいなかった。

手を繋いで一緒に帰ったり、休日にはデートをしたりって。

そんな日々の幸せを感じると、自然と自分の顔に笑みが浮かんでしまう。

「どうした、明美。すごいニヤニヤ笑っちゃって」

「ちょっと…ニヤニヤって失礼ね。ニコニコって言ってよ」

「あー…じゃぁニコニコ笑ってどうしたの?」

少し笑いながら、ワザワザ言い直して言ってくる幸一に対して、少し睨みをきかせながら口を尖らせる。

「自分に彼氏が出来るだなんて思ってもいなかったから、こうして休みの日にデートしたり、手を繋いだりするのが幸せだなーって思って喜んでたの!」

「あー、なるほどね。俺もこんな可愛い彼女が出来るだなんて思ってもいなかったから、毎日楽しくって仕方ないよ」

「またまたー、ワザとらしく言っちゃってぇ。そんなにおだてても何にも出てこないよ?」

「あのね。素直に喜べませんかね?」

「生い立ち上、『可愛い』って言葉は捻くれて私の脳に伝わるみたい」

「全く。あれだけ明美に告るヤツが増えてきたって言うのに、まだ自覚出来てない訳?はぁあ。俺も苦労するなぁ」

幸一は大袈裟と言うほどのため息をついて、繋いだ手をぎゅっと握ってくる。

……そんな事言われたって。

確かに、最近男の子から告白される事があったりもするけれど…どうして私?って思っちゃう。

他に可愛い子が沢山いるのに、って。

幸一が私を綺麗に仕立ててくれたっていう自信はあるけれど、それが恋愛に対しての自信に繋がるかと言えばそうじゃない。

私は幸一にだけ好きでいてもらいたいって思うけど、それすらも自信が無かったりする。

本当に私でいいの?本当に私の事を好きでいてくれてるの?って。

チビデブスだったあの頃の私は、痩せたら・綺麗になれたら、自分に絶対的な自信が持てると思ってた。恋に対しても。

だけど、そうじゃないんだよね。

いつだって不安で仕方ない。

幸一の前に可愛い子が現れたら?幸一に愛想尽かされたら?こんな事をしたら嫌われるだろうか、とか、そんな事ばかり考えてる。

「ねぇ、幸一?本当に私の事を好きでいてくれてる?」

「ん?どうしたんだよ、急に。すんごい好きに決まってるだろ?」

「ホントにホント?もしさ、他に可愛い子とか現れたらどうする?」

「どうする?って。そんな事あり得ないし…っつぅか、明美が俺の彼女だっつうのも夢みたいなのに」

「もしも、もしもの話!ねぇ、そうしたらその子の方に行っちゃう?よね、やっぱり」

「あのさー。勝手にそう決めないでくれる?それに俺は顔が基準じゃないって言っただろ?」

「でも…」

「どうしたんだよ、マジで。さっきまでニコニコ嬉しそうに笑ってたかと思ったら、急に真顔でそんな事言ってきて…」

「だって、不安なんだもん。愛想尽かされたらどうしよう、とか。幸一が離れて行っちゃったらどうしようとか色々考えると…」

「なんでそんな不安になんの?俺はどこにも行かないってば。ずっと明美の傍にいるよ?」

幸一はそう屈託の無い笑みを向けて、ぎゅっと私の手を握ってくる。

だけど、なんか分かんないけど…不安になっちゃうんだもん。

強気な私らしくないけど、恋に関しては超弱気な私らしい。

突然しゅん。と肩の力を落とす私の様子を見て、幸一はふっ、と小さく笑みを漏らすと、急に私の手を引き、ビルとビルの間の通りから死角になった場所にやってくる。

「幸一?」

「明美が不安にならないようにしてあげるよ」

「え?」

幸一は首を傾げる私を見ながら、クスっと笑みを浮かべて両手で私の頬を優しく挟む。

「俺は須藤明美が、だいだい大好きです。だから、絶対どこにも行くなよ?」

そう言って、おでこに瞼に頬に、チュッと音を立てながら軽くキスをしてくる。

「こっ幸一?!」

その幸一の突然の行動に私の心臓が急速にドクドクと高鳴り出す。

いっぱいいっぱい注がれる幸一からのキスの嵐。

私はくすぐったさと気恥ずかしさが混じって、クスクスと笑いながら身を捩る。

幸一の言葉って絶対的な威力を持つから不思議。

さっきまでの不安が嘘のようにかき消され、代わりにふわふわっとした温かいものが体を包み込む。

「やっ…やだ、幸一。みんなに見られちゃうよ?」

「いいよ、別に。明美の不安がなくなるまでずっとこうしてる」

「もっもも、大丈夫!不安…なくなっちゃったから!!」

「ホントに?」

「ホント、ホント」

「でも、俺の方はまだみたい」

「へ?」

幸一の言った意味がよく分からなくて首を傾げると、鼻の頭にチョンとキスをしてから視線を絡めてくる。

「本当は俺だって不安で仕方ないよ。自分に自信があるわけじゃないから…明美が他のヤツを好きになったらどうしようとか、俺の隣りからいなくなったらどうしようとか情けない事ばっかり考えてる。でもさ、こういう事ばっか考えてたら本当にそうなっちゃいそうだろ?だからさ…もうお互いにそういう事で不安になるのやめようよ。俺も明美が大好きだし、明美も俺のこと……」

「ん、大好き」

幸一の言葉に続けるようにそう言うと、彼は嬉しそうにニッコリと微笑む。

「これからそういう事で不安になるのダメだからね?」

「幸一だってダメだからね?」

「うん、約束」

「約束」

私たちはお互いに微笑み合い、幸一から最後に唇にとっておきの熱く深いキスが降りてくる。

お互いの気持ちを確かめ合うように、長くそして深く。



お題配布→『桃色手帳』






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