―――――――――――――――あなたの顔を見られない。 3
恥ずかしい、と悠は言った。
その言葉の通り首筋まで真っ赤に染まっている悠は、顔を上げる事すらできなくなっていて、麻隆は苦笑する。
「別に今までどおりだってかまわないから」
笑いながら顔を上げさせようと顎に手をやれば、きつく力を入れながら悠は答える。
「……そっ、んなの、無理!」
ぐぐ、と抵抗するのに対して、無理をしてもどうかと思うから麻隆はすぐに力を抜く。
それで諦めたと思って息を吐き出すのは悠の勝手だが、もちろん麻隆は諦めたりなどしていない。
頬をさらりと撫でて、ほっと力を抜いたのを見計らって顔を上げさせる。
「……っ!」
ハメられた、と言う顔を悠はしたけれど、それはしれっと受け流す。
以外と強気で強情なのは以前から知っている事だ。
だがそれと同じほどに、どうやら悠は麻隆の顔にも弱いらしい。
目が合った瞬間に、赤い顔はさらに赤みを増すから面白い。
「……なに、笑ってっ」
くすくすと笑った麻隆に向かって、目を吊り上げた悠は言うけれどあまり迫力はなかった。
それよりも可愛いと思う気持ちの方が勝って、何も答えずに麻隆は顔を近づける。
キスしたいと思ったからそうして、悠もそれは拒まなかった。
一瞬目を見開いた後にゆっくりと閉じて、重なるそれは薄く開いている。
考えるよりも早く口付けは深くなって、悠の腕は麻隆の背中に回され、きているスーツに爪をたてる。
「ん……っ」
背もたれに悠を押し付けるようにして上から口付けながら、少しずつ麻隆は体を移動させていく。
キスに夢中になっている悠はその事に気づかず、麻隆の手が自分の服の中に入ろうとしている事にも気がつかなかった。
気がついたのは、完全に体の向きを変えた麻隆に押し倒された瞬間だ。
「……んん!?」
目を見開いて背中に回していた腕を動かし、入り込んでくる指先を止めようとするがもう遅い。
麻隆の手は悠が着ているシャツの中に入り込んで、その指先が脇腹を撫でる。それが弱いと知っているから、執拗に。
「……っん! ん、ぁっ、や……ん!」
やめて欲しいと訴える悠の唇を塞いで、服をたくし上げて真っ白な肌を指先でなぞっていく。悠は掌を使って撫でるよりも、指先でこうされる事に弱いらしいのは、最初の方で気がついていた。
「……ッ……っ!」
びくりと震えながら、悠はきつく目を閉じる。
麻隆の腕を掴む手に力はなく、だが時折麻隆の動きに反応して爪を立てた。
我慢するように目を閉じ口を噤む悠の耳元に唇を寄せて、麻隆は言う。
「しばらくはしないから、力、抜け」
きつく閉じられていた悠の目が、驚きの形に見開かれる。
なんで、と視線で問われて麻隆は嬉しかった。さっき言われたように、悠はこの関係を後悔していない……むしろ望んでいるのだと感じられたからだ。
「オーディションが終わるまでは、一切触らない。それまでは、今日が最後」
「……えっ?」
思わず、と言った感じで漏れた声に、麻隆はつい笑いを漏らしてしまう。
しまったと悠が口を塞いでももう遅い。麻隆としても触れたいのは山々だったけれど、そうも言ってはいられないのだ。
「ひいきだと言わせる訳にはいかないからな。終わるまでは、我慢する」
「あさたかさ……」
「俺は本気だ、悠。だからおいで。俺のところまで」
恋人の欲目でなく、万人が認める悠自身の実力で自分の隣に立って欲しいと麻隆は思う。
自分の横に悠を置くだけならば簡単にできるけれど、そこで悠が埋もれてしまったり、他者の言葉に屈してつぶれてしまっては意味がないのだ。
だから自分に自信をつけて、ここにおいでと麻隆は言う。
その意味が正しく伝わるかどうかはわからなかったけれど、優しく口付けた麻隆に悠は答えて、小さな声ではいと頷いた。
その答えに満足して、笑顔を見せながら額同士をこつんとくっつけ視線を合わせると、再び悠が頬を赤く染めてきつく目を閉じてしまう。
「だから、なんでそこで目を閉じる」
「だ、だってそんな近くに居たら心臓爆発するもん!」
「……もん、って」
キャラクターが違うぞと笑えば、ずるいと悠が呟く。
「何がずるい?」
「お、俺麻隆さんと違って慣れてない。そんな平然となんてしてられない」
だからずるい、と呟いて悠はそっぽを向いてしまう。
なるほど悠から見ると平然としているように見えるのかと思いながら笑い、麻隆は悠の手を取って自分の左胸に押し付けた。
「……な、に」
びっくりしたように視線を向けてきた悠に向かって微笑みながら、自分の鼓動が伝わるように少しの間黙ってから、麻隆は口を開く。
「平然となんかしてられない」
外面だけならばいくらでも取り繕うことはできる。それは得意だ。だが内面はどうやったところで取り繕う事などできない。
悠の手に伝わる麻隆の心臓は、早鐘を打つようにしながら動いているのだ。
「……あ」
それに気がついた悠は、ほんの少し怯えたような表情を見せながら見上げてくる。
「今日は手加減しないから、大人しく覚悟しなさい」
にやりと笑って、自分の胸に押し当てていた悠の手を剥がしてその指先に口付ける。
ぴくりとそれに反応して震えた悠は、目を眇めて熱い息を吐き出して答えた。
ソファでは嫌だと言ったのに、結局聞き入れてもらえなかった。
横になったままだと脱がせられないと言われて抱き起こされたけれど、そんな事をしなくても麻隆なら器用にやってのけるのは知っている。
それでも逆らう気になれず、ソファーの背もたれに背中を預けていたら、やっぱり中途半端のままにされてしまった。
「あ、さたか……さ……ッ!」
背もたれに沿う形で背中を反らせた悠は、中途半端な体勢に戸惑いながら、自分の胸に吸い付いている男の髪の毛を掴んで首を振る。
たくしあげた服から現れたそこに舌が押し付けられれば嫌でも反応してしまう。最初から麻隆の愛撫は巧みで、それに慣れてしまった悠は触れられるのだけでもだめになる。
おまけに気持ちを自覚してしまった今では羞恥心もプラスされて、どうしていいかわからず、ただただ声を上げるだけしかできない。
「あ、あッ……やめ、あさ、たかさ……」
心臓の上にあるそこを、執拗なまでに舌先で舐められて吸われる。もう片方は親指で押し潰されるように揉まれて、硬く尖ったところで摘まれ、その瞬間に悲鳴を上げた。
「や、アッ!」
びくりと反応したのは体全体で、気付かないうちに腰が揺れていた。
脚の間に麻隆の腰を挟むような体勢になっていたから、その動きはすぐにばれて麻隆が笑う。
「いや?」
見下ろしながら笑って問われ、涙を溜めた目で見上げるとキスをされる。両手で、平らな胸をいじられて、舐めて濡れた場所を指先で転がすようにいじられる。
「んッ……んぅ、ん、ぁ」
弄られるそこに気をとられて、上手くキスができない。
入り込んでくる舌を受け入れるのが精一杯で、上手く息もできないまま溺れていたら、最後に唇を舐めるようにしながら離れていく。
「……ぁ」
離れていくのが寂しいと思っていたら、物欲しげな声が出た。
それを恥ずかしいと思うよりも早く、麻隆にもう一度軽く唇をかすめられ、そこからすこしずつ、また下へとおりていく。
今度は本当に服を脱がす気のようで、したからたくし上げられた服が徐々に上へとのぼっていく。
どこかしらにキスをしながらばんざいの形に両腕を上げられて、脱がされた服はソファの端にかけられた。
そのまま顎を上向けられて喉に唇を当てられ、鎖骨に下りて、両手で肩を撫でられる。
背中に右腕を回されて支えられ、ゆっくりと下りていく唇の感覚に息を荒げながら、その先を想像して悠は体を振るわせる。
「あ……っ」
いつもならもうとっくに別の場所に移動するのに、今日の麻隆はなんだかしつこい。
尖らせた場所を執拗に指先で撫でて、押し潰して、口に含んで吸い上げて歯を立てる。
「……っは、ぁ……あ、いっ……あっあっ」
早く、早くと思うのに、口から漏れ出る声は喘ぎばかりで言葉にならない。
揺れる腰を麻隆に押し付けるようにしたのは無意識で、それに気付いた麻隆が、唇を押し付けたまま笑った。
「……ッア!」
するりと手を下ろした麻隆が、もう張り詰めて苦しくなってきている場所を指先でなぞる。
大きく反応した悠は目を見開いて、目にした光景に泣きたくなった。
「……っ」
「男だな」
それだけ言ってにやりと笑った麻隆は、とっくに気付いていた。
自分の肌に唇を寄せている麻隆の姿に呷られて、もうだませないほどに悠のそこは熱くなっている。
「あ、あ……ッ!」
ズボンの上からゆったりと擦られて、反射で腰を揺らしながら、力の入らない体を麻隆の腕とソファに預ける。
息を荒くしながらずるりとソファに沈み込むと、ズボンは脱がせないまま、ソファに肩膝をついた麻隆に腰を抱えられた。
「……っえ、あ……アッ!?」
そのまま麻隆の腰を押し付けられて、麻隆も同じようになっている事を教えられる。
服越しに押し当てられただけでなく、ぐっと突き立てるような動きまでされて悠は慌てた。
「……あ、まっ……て!」
「待たない」
強引に揺すられて擦れる。着ている服が少しずつ濡れていくのがわかって、お願いだからと止めるのに、聞き入れてもらえない。
「や、や……うご、濡れ……んっ!」
「着替えならある」
濡れるし汚れるからやめて欲しいと訴えようとしたのは伝わったけれど、帰ってきたのはそんな言葉だった。
ひどいと責めながら、それでも麻隆に合わせて腰が揺れる。それを知っているから麻隆は強気だと言う事も理解していて、ひどく恥ずかしい。
「や……も、イ……ッ」
「ん?」
「い、っちゃ……あ! あ!」
だめ、だめ、と何度も首を振りながら、唐突に強張っていた体が軽くなる。
びくびくと震えながら、脚の間がじわりと冷たくなっていくのに気がついて、もう泣きたいと悠は思った。
「いった?」
笑いながら問われて何も言えない。
こらえ性のない体が恥ずかしく、やだと言ったのにやめてくれなかった麻隆も恨めしく、でも気持ちよかったからやっぱり恥ずかしくて何も言えなかった。
「……っ、う」
唇を噛んで、ともすれば漏れてしまいそうな声を押し殺す。
「怒るな、悪かった」
「……だって、こん、こんな」
「気持ちいいなら別にいいだろ? 脱がせるから腰上げて」
「……っん」
軽く口付けられて、逆らえずに腰を浮かせる。
前立てを開いて、ゆっくりとズボンを脱がされて肌が露出すると、濡れていたそこが空気に当たって冷たいと感じた。
「っふ……」
脱がされるだけなのに、麻隆の手が必要以上にどこもかしこも撫でるから息が上がってしまう。
気がつけば麻隆も着ていた服のボタンをはずして、はだけさせていて、いつ脱いだんだろうと思う。気付かれないように服を脱ぐなんて、自分にはできない芸当だと悠は思った。それから。
「……麻隆さ……すき、だ」
ぼんやりとした頭でただ感じた事を告げてみる。すると大きく目を見張った麻隆が、苦笑して覆いかぶさって顔を近づけてくる。
唇が触れる前に何か言われた気もしたけれど、聞こえない。問い返したくても、唇を塞がれて無理だった。
「んん……ん!」
麻隆の胸を押し返すようにしていた手が、いつの間にか煽るようにそこを撫でている。
脇腹の辺りを撫でると一瞬麻隆が反応したような気がして、気をよくして触り続けていたら「こら」と腕を押さえられた。
「悪戯はしない」
「だ、って」
「だってはなし。いいから、そのまま力ぬいて」
「や……」
自分だけやられっぱなしでは嫌だともがくけれど、押さえつけられてしまえば悠に勝ち目はない。
いいからと耳を噛まれ、思わず首を振って逃げるけれど追いかけてきた唇に捉えられてまた噛まれた。
「……っ」
耳に直接響く音がいやらしくてたまらない。
麻隆が次に何をするのか、慣れてきた今でも予想がつかないから困った。
「……っひ、あ!」
直截な部分に触れる瞬間も突然で、耳を食みながら指先で先端をつつく。まだ序の口と言えるその愛撫でさえ強烈に感じて、がくがくと揺れる腰を止められない。
「や、耳……やめっ」
「どうして?」
「お、と……や、ああ、ああっ」
耳の中に直接響くそれが、頭の中をおかしくする。
もうやだ、と涙声を出せばすぐにやめてはもらえたけれど、それ以上に羞恥に悶える結果になると、悠は気がつく事ができなかった。
「先に出してたから、ぐちゃぐちゃだ」
「ん、っ、言う、な……あっ、アッ!」
先ほど出した白濁に汚れていたそこを、掌を使ってぐちゃぐちゃと擦られる。最初はゆっくり始めて、だんだん強弱をつけながら早くなっていくそれに、もう耐えられない。
「本当の事だろ。凄く濡れてるから、このままでもいいかな」
「やー……やだ、や……」
汚れた手を離されて、中に入れようかと問われて首を振る。
まだ足りない、全然足りない。
この先長い間触れず、触ってもらえないと思えば、何をされても足りなくて、どうしたらいいんだと混乱しながら、悠は麻隆の唇に指を寄せる。
そのまま何かをねだるように何度もなぞったのは無意識だ。
悠が無意識に望んでいる事に、本人が気付くよりも早く気付いた男は、にやりと笑ってキスをしてくる。
啄ばむようなそれにうっとりと身を任せていると、顎に、首に、鎖骨に、胸にとだんだん降りていく。
「ん、あ……ぁ」
もうなんでもいいから触ってほしくて、だんだん下に下りていく麻隆の髪に指をからめて、名前を呼んだ。
「麻隆さ……あさ、たかさん……」
「悠」
呼びかけに答えて、麻隆が汚れていない手を悠の手に重ねてくる。
指を絡めるようにして繋いだ手ですら気持ちいいと感じる。
早く、早くとそれだけを思って目を閉じていると、際どい場所に麻隆の吐息がかかって、悠は慌てた。
「あ、ちょっ……や、まっ……あっ!?」
待ってと言う前に、脚の付け根にキスを落とした麻隆の口が、その間で熱を持っている場所を含んでいく。
驚いて目を見開いた悠は、その瞬間をしっかりと目撃してしまい、見た瞬間、口の中に含まれたそれが熱を増していくのを知る。
「……ん」
麻隆の声が腰に響く。
丁寧に口の中におさまっていくそれを見て目を眇め、そして麻隆の口の中の感触を感じて、もう本当にだめになった。
「あ、あ……ぁ、んっ、んン!」
麻隆の口が上下する光景から目が離せなくなった。
口の中は温かくて、丹念に舐めてくる舌は、何か知らない生き物のようだ。吸い上げられてしまえば中から何かあふれ出してきそうで、何をされても感じる。
「はぁっ……や、んん、んぁっ……あっあっあっ」
「……こっちの方が好きか?」
「あっ!?」
軽く歯を立てられて腰が浮き上がり、その場所を力を入れた舌でつつかれ舐められる。
「ぁっ……や、も……だめ」
またいく、と震えながら告げれば、だめだと笑って腰を押さえつけられて、口の奥にまで深く銜えられてしまう。
「あ、ああっ! んぁ……はっ、あ!」
音が出ないぐらいに強く吸われて、もうだめだいやだと叫びながら口の中へと吐き出してしまう。
「ああっ!」
最後まで温かいそこに銜えられたまま、がくがくと震えてソファに沈む。
吐き出した後もしばらく出してもらえず、最後の一滴まで搾り取られるようだった。
ずるりと口から解放された後、いたたまれなくなって悠は自分の顔を腕で覆う。片手はまだつながれたままで、離して欲しいと思うのだが、息が上がって何も言えない。
「……っん……はぁ」
何度も唾を飲み込んで、なんとか息を整えようとする。
その間に麻隆は何か言ってくるかと思っていたのに、何も言われず悠は戸惑った。一体どうしたんだと思って、まだ息が整わないまま顔から腕を外し、麻隆に問いかけようとしたところで硬直する。
「……っ!」
後ろに忍び込んできたそれは、ぬめっていた。
入り込んでこようとするものは指で、何かを塗りつけられていると感じた瞬間、まさかと悠は目を瞠る。
「う、そ……!? あ、ああ……!?」
そう言えば口の中に吐き出してしまったあれはどこへ行ったのだろうか。麻隆がティッシュを使った様子はないし、嚥下した音も聞こえてこなかった。
ならばそれは一体どこへ―――…。
「っい、やだ……やぁっ、それ、やめ……っ!」
「代わりがないから、我慢しろ」
言われて自分の想像が正しかった事を知る。
塗りつけられているのは、今さっき麻隆の口の中に吐き出した自分のそれだ。
「ん、ぁ、あっ……」
涙目になりながら奥に入り込んでくる指を感じて目を閉じる。
ちゃんとベッドに行けと文句を言いながら、それでもやめてほしくなかった。麻隆はその本音を読み取ったのか、自分がやりたいようにしているだけなのか、中に入れた指を止める事はない。
「悠、どれが入ってるかわかるか?」
「……っ、ん、どれ、って?」
「指」
「あっ!?」
ぐ、と中で指を折るようにして擦られて悲鳴を上げた。
力は入らないのに、腰だけががくがくと揺れて答える。ものを考える事も億劫になってきて、ただ感じるだけにしたいのに、麻隆は問い掛けてくる。
「どの指が入ってるか、わかる?」
「や……わか、な……あっんっ!」
「じゃ、勘でいいから」
答えなさいと囁かれて、まともに働かないままの思考で悠は答えた。
「んっ……なか、ゆび……?」
奥まで入り込んでいるそれはとても長いから、一番長い指ではないだろうかと思ってそう答えた。けれど麻隆は「残念」と笑う。
「それはこっち」
「ひ、ぁっ、ああっ!? あああっ!」
急に別の指が押し込まれて、増した圧迫感に背中が仰け反った。
2本の指で中を開くように動かされ、悠は首を左右に振る。
容赦なく抉ってくる指の動きはばらばらで、特に反応が大きい部分は2本の指でまとめて刺激されて、刺激の強さに、悠の目からはぼろぼろと涙が零れた。
「最初のは、どれだと思う?」
それなのに麻隆はまだそんな事を言う。
答えられず、ひくりと喉を鳴らせば、じゃあ、と繋いだ手を解いた麻隆が、空いた手を悠の口元に運んだ。
「キスして」
正解だと思う指に、キスをしろと言う。
けれど悠は怯えたような目をしたまま首を振る。できない、と視線で訴えると、それはだめと微笑まれる。
もうどこでもいいと思いながら、人差し指に口付ける。だが返ってきた答えは「残念」だった。
「それはこっち」
「……っああ!」
ぐっと入れられた指が三本に増える。
正解はこれと唇に押し当てられたのは薬指で、残念でしたと笑いながら、麻隆は深く口付けてくる。
「んんっ、ん……ん!」
中に入った指を抜き差しされて、ついさっき達したばかりだと言うのにまたそこが硬くなる。キスの合間、感心したように若いなと笑われて、首を振るしかできない。
「も……しつこ、いっ……はやっ」
「まだだめ」
「やー……くる、し……ああ、あー!」
はやくして、はやくいれてとしがみつけば、もういれてると笑われる。そうじゃないと肩を掴む手に力を入れればいたいと笑われて、あっさりその手を外されてしまう。
そして麻隆の、まだズボンを脱いでいないそこに手を押し当てられて、喉が鳴った。
「あ……」
「触って?」
自分からそうやって麻隆が望むのは初めてだった。
慣れない悠で遊ぶかのように、悠がぐちゃぐちゃになるまで好き勝手するのがこれまでの麻隆で、悠に何かをしろとねだった事は殆どなかった。
手で触れたそこに、麻隆の昂ぶりを感じて、臆するよりも先に欲求が増す。触ってみたい。
「ど、すれば…い?」
「悠のお好きにどうぞ?」
わからないから聞いたのに悪戯っぽく笑われて、悠は恨みがましく麻隆を睨みつける。だがそれも真っ赤な目では迫力がないに等しいからあまり意味はなかった。
「……っ、あ」
「どうした?」
軽く触れて、撫でてみる。
たったそれだけでぐっと力を増して、こんなのがいつも中に入っているのかと考えたら喉が干上がった。おまけに麻隆は指を中に入れたままだ。時折そこを動かされて、何かしたいのに何もできなくなる。
「あ……あ……」
自分だけはいやだとそう思うけれど、ろくに力が入らないからうまくできない。ムキになりながら前立てを開いて手を入れれば、ほんの少し目を細めた麻隆がまた笑う。
「……っ」
悔しいと思いながら、麻隆の動きを真似て手を動かしてみる。
これが気持ちよかったと思いながら先をいじってみれば、小さく麻隆が息を吐き出した。
「もういい」
「え……?」
まだ殆ど何もしていないのにと思って見上げれば、苦笑する麻隆の顔がある。思った以上に余裕のない顔をしていて、なんだそうかと悠は思った。
この人にもあんまり余裕はないんだ。
さっきも言われたけれど、それを実感してなんだか笑ってしまう。
悔しいとかそんな事はどうでもよくなった。
「笑う余裕があるなら手加減はしなくてもいいな?」
「……え?」
にたりと笑うその表情に何か嫌なものを覚えて、悠は顔を引きつらせた。
了承を得ることなく笑った麻隆は、いきなり指を引き抜いて腰を押し当ててくる。
「え、あ……まっ……あっ!?」
ぐ、と押し当てられたその熱を感じてしまえば、拒む言葉は喉で止まってしまう。
嫌だと言うつもりは毛頭ない。
「んっ……ん……」
悠の右足を抱えて開かせた麻隆が、ぐっと体を前に倒して中へと入ってこようとする。その瞬間だけは未だ慣れず目を閉じて、圧迫感に息が止まる。
「息、して」
「んん……」
啄ばむようにして口付けられ、開いたそこから息を吐き出して、薄目を開けて、しがみつく。
「あ……あ、あ……」
「……っ」
ゆっくりと中に入り込んでくるのがわかって、小さく声を上げながら首を振った。嫌がっているのでなく、そうでもしていないと意識が飛んでしまいそうだった。
「あ、あ……ああ」
「もう少し、な」
我慢しろと言われてこくこくうなずく。
痛みはない。我慢しなくてはならないのは痛みではなくて、こみ上げてくる射精感の方だ。
「あ……き、もちい……い」
ゆっくりと奥まで入ってこられてぞくぞくする。
もう何度もこうされたけれど、今日のはいつもと違う感じがした。
いつも訳がわからなくされてどうなってるのかもわからなかったのに、今日はほんの少しだけわかる。熱くて、硬くて、脈打っているそれ。
「……っは、ぁ……あ、麻隆……さ……も、っと……あァッ!」
もっと来て、奥まで入って。考える言葉を続けられず、しがみついて震えた。勝手に動く腰を止められず、それを恥ずかしいと思うよりも早く突き上げられて、悠がものを考えられていたのはそこまでだった。
もっとと泣いてしがみつかれて、麻隆の理性は完全に吹き飛んでしまった。
本当はもう少し優しくするつもりだったのだけれど、涙を浮かべてねだったその声に勝てるはずもなく。
「ああっ……あっ! ……はぁっ、あ、あ、ん!」
何度も強く突き上げると、その動きに合わせて悠が声を上げた。
勝手に躍る腰は無意識のようで、それに合わせて締め付けてくる動きが麻隆をさらに煽る。
「ゆ、う……悠……っ」
名前を呼びながら抱きかかえて、とくに反応する部分をわざとずらして腰を進めていけば、耐えられなくなった悠のほうからねだってくる。
「や、だっ……あ、さたかさ……そこっ」
「どこ? こう? こっち?」
「ちが……っあ! もっと、ち、が……おく……っ」
「奥がいい?」
ねだる悠が、背中に回した腕を麻隆の腰にまわして自分から奥に入れようとすらしてくる。それを無視しながら浅い場所ばかりをかき回していると、うっすらと目を開いた悠が睨んでくる。
「んっ……は、ぁ……あ……っ、や……麻隆さ、ん……す、き……だか、ら……っあ!」
「……っ、くそ」
意識してなのか無意識なのかはわからないが、悠は麻隆がその言葉に弱い事を知っているようだ。
荒い息に喘ぐ声を乗せて吐き出しながら、また目を閉じていやだと呟く。
「や……やだ……も、あっ……奥、が……っ」
足りない、と呟く声に負けて、奥まで入り込んで腰を使う。
「ああっ! あっあっあっ、ん、あ……お、き……」
「大きい? 何が?」
「……ぁ……あっ、あさたか、さん、がっ……あっ!」
「俺の何が?」
「い、やぁ……あっ、あっ」
いやいやと首を左右に振って悠は答えない。
いつもならこんな事はしない麻隆だが、今日はどうしてだか言わせたくなった。
脚を支えていた腕を離して、脚の間に右手で触れて、左で赤く染まる胸の先に爪を立てる。
「……っああ! あーっ、あっ、や、やだ……いっしょ……ぁっ」
「いやじゃなくて、きもちいい、だろ?」
「んっ、いい……いっ、ああっ!」
「悠、中が……どうなってるかわかるか?」
「……んっ、あ……こすれ……て……っ、く、ぁ!」
「何が?」
「や……だっ……なに、言わせ……っ!」
「ん……っ、は……言えば、もっと奥、まで」
「あ……!?」
「入れて、かき回して……やる、から」
ほら、と言いながら突き上げると、手の中にある悠が力を増す。
想像したなと笑みは浮かべるが口には出さず、白い肌に吸い付いて痕を残した。
「……っう、ん、ん!」
「ほら、早く……」
ぐちゃぐちゃと音を立てながら、強く中を抉る。
さっきまでとは違い悠が好きな場所ばかりを選んで、擦り上げる。
「やー……あ、ああ……も、だっめっ……い、く……いい……!」
「だめ。まだ」
「いや、やだっ……おさえなっ……あっ、やだ、おく……突かな、で」
「もっとだろ? ほら、言って。はやく」
「やだ、やだ……ぁ!」
絶対やだ、と首を振る強情な悠に、それなら、と麻隆は腰を引いていく。
「ア……!?」
中途半端な状態で抜き取られて、目を見開いた悠が麻隆を見上げる。
ぐっとその先端だけを押し込めると目を眇めて、悠は小さく息を吐き出した。
「ずっとこのままがいいか?」
「……っい、や」
「じゃあ言いなさい」
ほら、とほんの少し動かしただけで悠は震えて声を上げた。
何度かそうして、言わなければこれ以上はしないと脅せば、何度も唇を噛んだあとに小さな声で、言った。
「きこえない」
耳を澄ませていなければ聞こえないほどの小さい声では満足できず、聞いていたくせにそんな事を言って麻隆は笑った。
恨みがましい目で悠は麻隆を睨むけれど、欲情を多分に孕む目では煽られるだけだ。ぐっと力を増して大きくなったのはすぐに悠にも伝わって、それだけの動きにも悠は震えて喘ぐ。
「んっ……も……や……れて、あさたか、さ」
いれて、と言うから何をと笑う。
ぐっと力の入った悠の唇に口付けて、もう一度なにを、と問い掛ければ、ぐっと息を呑んだ悠が麻隆を引き寄せて耳元に唇を近づける。
そして耳朶にその唇を押し当てながら、麻隆だけに聞こえるように、悠は幼児が使う稚拙な、この場で囁けば卑猥としか言い様のない言葉で答え、いれて、と言う。
「いれ……いれ、て……麻隆さ……も、だめ、おれ……っ」
「……っ」
「あああっ!」
悠に言われるよりも早く、麻隆の限界もやってくる。
一気に奥まで突きこんで、激しく腰を使っても悠はよがるだけで、それが一層に麻隆を煽った。
「あっあっ……ああ、あーっ、ん! あ、おく、もっと……ああ……か、たい……っ!」
「もう、言うな」
「や……なん、あっ……また、お、き……あっ」
「だからっ!」
「んんっ!」
それ以上言われてはこっちがまいると思いながら、悠の唇を塞ぐ。
再び背中に回された腕が、脱がないままの服を掴んでぐちゃぐちゃにしていく。その手を取って首に回して自分の肌に触れさせながら、だめだともうだめだと訴える悠の舌と自分のそれを絡めて、煽る。
「んんっ! ん! ん!」
力を入れて爪を立てられるそこは、爪の痕だけでは済まないかもしれない。それでもそれこそが嬉しく、治らなければいいと思いながら、麻隆は体を走らせた。
「や……ぁっ、く……んぁっ! あっ、まだ、や、いいっ……あっ、まだ、もっと…!」
「んっ……く……」
どちらも限界にきているのはとっくに知れていて、だが終わってしまうのが惜しくて引き伸ばすようにしながら体を揺する。
痙攣するように動く内壁に、さすがにもう限界だと、最後の追い上げに入った時だ。
「あさたかさ……んっ……すき……す、き……!」
何度も何度も悠が言うから、麻隆の体はあっさりと限界に達してしまった。